SNSのない世界の恋愛はハードすぎる
カナエの電話に出たのはコウタ君本人だった。
「おっす、どうした?」
電話越しのコウタ君の声はいつもよりも低めで、心臓が弾け飛びそうになった。
カナエの頭はもう真っ白。
「えっと、あのね。あの、ね。えっと。えっと」
言葉が出てこない。
顔がどんどん火照って熱い。恥ずかしい。どうしよう。でも電話しちゃったんだから言わなきゃ。えいっ!
「ずっと好きだったよ、じゃあね!」
※※
「……ってまくし立てるように言って、そのまま電話を切っちゃったの」
「てことは、コウタ君からの返事は?」
「聞きそびれちゃった」
えへっと、桜井さんがお茶目に笑う。
このうっかりさんめ。
「本当はね、高校に入る前に、ちゃんとフラれて気持ちに踏ん切りをつけようと思って電話をかけたの。フラれる前提で告白したんだし、ちゃんと『つきあって』って言って答えを聞けばよかったんだけどね。やっぱりテンパっちゃってダメだったわ」と桜井さんは苦笑。
「私『好き』までは言えるのよ。でも『つきあって』は言えなかったのよね。それを男子に言えるのは、みんなが可愛いって認めるような女子で、私は残念ながらそこまでじゃなかった。十人並みの顔だった。良く見積もって中の上くらいだって、自分でわかってたの」
ああほんと、桜井さんの話って、どうしてこう、わかりみが……。
たとえば……たとえば、さっき橘に声をかけた自信満々ヤンキー系茶髪サラサラ女子や、可愛い河合ちゃんたちのようなサラふわリア充系ステキ女子たちなら橘に「つきあって」と言う権利がある。
でも私はいずねェさんだ。良くても、もこったポメラニアン。
可愛いとはいえ、犬に告白する権利はない。
(おや? でもなー)
桜井さんを見た。
歳を取った今もこんなに可愛い桜井さん。
中学生の頃なら、結構いい線行ってた気がするけど。
もしや本人が辛口採点だっただけで、桜井さんは「つきあって」を言える側の女子だったんじゃ。
「結局そのまま春休みは終わって、四月からはコウタ君と別の高校に通い始めたの」と、桜井さんが締めくくる。
「それじゃ、当時だと、もうコウタ君とつながる手段ないじゃないですか」
「そうなのよね」
「マジすか。……私、SNSあんま好きじゃないし、繋がり過ぎるのめんどくさって思ってましたけど、桜井さんの話聞いてると、自分は幸せな時代にいるんだなって、思います」
少なくとも橘とは、たとえ学校が離れても、疎遠になっても、『元気?』とか気軽にSNSで聞くことができる。
気軽に連絡できる環境がある。
だからといって気軽に告白できるかと言えば、それはまた別の話だけど。
※※
いろいろな嘆きを混ぜ込んだため息を吐きながら、中庭へ続く引き戸を開く。
ドーム状に囲われた中庭は全館空調のおかげで年中小春日和だ。芝生の緑も鮮やかで、色とりどりのパンジーが咲き誇っている。
その中でも一番気持ちよさげなベンチを探して車いすを転がした。
ベンチに座った桜井さんがすーっと緑の空気を吸い込んだ。私も同じように吸い込む。
ああ、お花の匂いがする。
「ところがね」と私を振り返った桜井さんが花のように笑う。
「なんと一緒だったのよ」
「何がですか?」
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