橘と剛毛と私
初めての投稿です。
まだ不慣れなため読みにくいかもしれません。
読んでくださった方、本当にありがとうございます!
よろしくお願いいたします!
カムサハムニダ~
五月の早朝はまだ少し肌寒い。
河川敷の先に聳える介護施設に向かって自転車をこいでいると「うっす、泉」と、燻しブラックのマウンテンバイクが寄ってきて、眠たそうな橘が現れた。
「あ、髪に」と、橘が私の頭上に手を伸ばす。
ズザザザー、シュッ!!
「へ?」と橘。
「何か?」的な雰囲気で、何でもないふうを装う私。
実は自分でも驚くほど見事な瞬発力で自転車ごと橘から距離を取っていた。
「え? 今のBMX的な技、どうやったん?」
「いや……私にもわからん」
ともかく回避成功。
なぜ回避したのか。
それは、私の髪が恐ろしく剛毛で、凄まじい毛量で、縮毛矯正しても伸びたところからもこもこ盛り上がってくる超絶くせ毛で、手触りは牧場の薄汚れた羊並みにゴワゴワだからである。
全然女子高生っぽくないのである。
つまり、『触るな危険』なのである。
ああもう~、毎日高級シャンプー&トリートメント&ヘアマスク&高機能ドライヤーしてるのに何故だぁ。
なぜなんだぁ~~~!!
とか考えていたら、橘がムカつくくらい爽やかに笑って私の髪を指さした。
「お前、なんつー運動神経してるわけ? つか葉っぱ刺さってんぞ」
「え? あ、ホントだ……ウケる」
乾山のように刺さっていた。マジか。ウケる。いや、全くウケない。
「つかさ、朝からじいさんばあさんの文句聞くのかって思ったら、萎えんだけど」
「それ、全国の高校生が思ってますなー」
※※
ついに超超高齢化社会に突入した日本。
政府は、来たる超超高齢化社会の介護人員不足の解消に向けて『AIおよび最先端技術を活用した異次元の高齢者介護政策』なる政策を掲げて長年取り組んできたらしいが、毎年日本のどこかで発生する大地震や災害の復興に手いっぱいで、おまけに少子化による相次ぐ大学の倒産により有能な科学技術者も育たず、20年以上前から国内の科学技術は停滞し、その頃から日常生活のデジタル化もストップしているらしい。
話を戻せば、異次元の高齢者介護政策は未だ継続中ということで、つまりは失敗だった。
結局、深刻の極みに達した高齢者介護の人員不足を補うため、文部科学省が高等学校の必修科目に『高齢者介助』を組み込んだ。
これにより、以前は部活動の時間だった早朝と放課後が介助実習の時間に変わり、高校生たちは近隣の高齢者介護施設で朝な夕なに介助及び補助業務をしなければならないのだった。
今年から高校生になった私たちも、入学早々、寿老人ホームでの介助実習が始まって、ひと月以上が経過していた。
ホームには食事もトイレも一人でできない人もいれば、ある程度の補助でそこそこ普通に生活できる高齢者もいる。
私たち高校生が介助を行うのは、その、そこそこ生活できる高齢者たち。
彼らは元気であり、不平不満の多い高齢者たちなのであった。
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