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「ペンは剣よりも強し」と言うそうなのでペンの力で乱世を統一せしめん  作者: 果ル神頼(遥か未来)
第一章 大陸統一の下ごしらえとして国家転覆しましょう
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9話

とある日の昼間の中庭の訓練所にて


善也は彼の指導者であるイグサと今日も直接指導を受けていた。



「オラッ!」

「振りが大きすぎだ!そんな大振りじゃよけられた瞬間に隙をさらして死ぬぞ!」


 実戦形式の一対一の訓練。俺は力いっぱいに木刀を振り上げるが、指導者のイグサはギリギリの間合いで避ける。そして、木刀を振り上げた慣性で隙だらけなところを一瞬にして詰め寄ると、彼の木刀が振り下ろされる。この状態では受けることも躱すこともできず、振り下ろされた木刀は俺の右肩に当たるのであった。


「焦る気持ちは分かるが、気持ちに負けて大振りになってはならないと言ってるだろうが!」

「すみません……」


あの後にもう二戦ほど行ったが、結果は全敗。全く歯が立たなかった。

 能力に頼らず純粋な技術を重視する、一対一の木刀を使った真剣勝負。今のところは0勝39敗。指導者であるイグサに勝てるビジョンが全く見えなかった。


(……どうしたものか)


 昼食の時間になり黒麦パンと塩気の強いスープを飲みつつも、他のクラスメイトの訓練の様子を注意深く観察する。

 彼らもまた俺と同じように直接指導を受けており、それぞれの生徒の能力に合わせた個別プランをわざわざ用意しているようであった。そのことからも彼らが俺たちに多大な期待を寄せていることが簡単に読み取れる。


実に迷惑極まりない話である。


勝手に変な異世界とやらに連れてこられたかと思えば見ず知らずの人間から戦地に行くことを強要される。


「……」


こみ上げてくる怒りを硬い黒麦パンと一緒に強引にスープで流し込んだ。


大きく息を吐き心を落ち着かせる。


余計なことを考えることに割くエネルギーすら惜しい。自分が考えないといけないのはそんなことでないのだから。


(数は少ない方がいいとは言ったが……)


現在、秘密裏に進行中である計画の参加者は四人。さすがに四人だと一人一人の負担が大きすぎるし、人数の制約などでできないこと、難しいことが多すぎる。


(さすがにもう二、三人は必要だろうな)


だがここにいる他のクラスメイトの能力を鑑みるに、孔明のように昼間も自由にできるような人間はいなさそうである。


そう言う点では、九重はある意味特別であった。


♢ ♢ ♢


「衛兵長、お話があります」

「なんだ」

「九重という者ですが彼女の能力はご存じの通り『超再生』と支援よりのものです。もちろん彼女に体力をつけてもらうことも大切だと思いますが、それよりも支援者としてより幅広く活躍できるよう知識をつけさせたほうが良いのではと思いまして」

「ほう……」

「そこで、実はもう一人のクラスメイトもどうやら書記官としてサポートすべく勉学に励んでいると聞きまして、彼とともに知識を身につけさせ、幅広い業務をこなせるようにすべきではないかと」

俺の提案に対し、「ふむ……」としばらく考えるそぶりを見せた後、

「君の言うことももっともだ。一度彼女の指導者とも話してみよう」

と好感触の反応を示してくれた。


そしてその結果は大成功。見事彼女も仲間に引き入れることができた。


♢ ♢ ♢


 彼女を前に自分たちに迫っている最悪の未来について話すのはさすがに勇気が必要であったが、


「善也がそう言うなら、私はどこでもついて行きます!」


と少々食い気味に、こちらをまじまじと見ながら返事をしたのである。想像以上に覚悟が決まっていたので少し驚いた。普段の九重には大人しい印象を持っていたが案外そうではないのかもしれない。


 九重のことはいったん置いておいて……となると別に基準で選ぶわけだが、


(そうなると一人は確定かな。ただ、あともう一、二人は欲しいな……)


♢ ♢ ♢


場面は変わって書画の部屋にて


「書画、思ったんだけどさ」

相も変わらずしらみつぶしに資料をあさっていると、九重が本から顔を少しだけ上げて、こちらに対して問いかけた。


「なんでこんなに慎重に調べてるのさ?」


ここまでしなくてもよいのでは?と彼女は尋ねる。


ここまで細かく整理しなくても『こんな不正があった』と公言すれば十分じゃないかと。


確かにその使い方をするだけならそれで十分だが、


「仲間を探しているんだ」

「仲間?」

「俺たちとともに国家転覆に動いてくれるこちらの世界の仲間を」


もともとは王に直接掛け合って自分たちの待遇を変えてもらうように交渉するだけのつもりであったが、この国の内情が明るみになったことでそれだけではいけないと判断したのである。


「候補はいるの?」

「とりあえず一人は確定」


『何なら九重も見たことがある人だよ』とヒントを出すとしばらくの間九重は悩んでいたがすぐに答えは出たようであった。


「……あいつ?確かに苦労人みたいな印象があるけど?それだけじゃない?」

「もちろんそれだけじゃないよ。あの人は俺たちに弱みを握られているからな」

「弱み?……これのこと?」

九重は持っている本を指さすが俺は首を横に振る。違う違う、弱みは俺たち自身だよ。


 九重は俺の発言に対し頭の上にはてなマークを浮かべ、詳しく説明するように催促してきたが、今はまだ秘密ということにした。伝えてもほとんど問題にはならないだろうが万が一のこともあるからな。

 彼女はしばらく不服そうにしていたが、もう一つ別件で聞きたいことがあったようで続けさまにこう口にした。


「この前、衛兵たちに連れられて王宮の外に出ることになってね。その時たまたまこの国の人たちが話しているのを耳に挟んだんだけど……


――って、あんたの仕業よね?」


「おっ、すでにそんなに話題になっていたのか。それはよかった」

この世界の文明レベルが中世時代位で助かったよ。おかげでこんな能力でも思ってた以上にいろいろできそうである。


「ろくでもないことでもしでかそうとしてない?」


彼女は微かに笑う俺を様不審者を見るような目つきをしながらそう問いただす。失礼な。俺は大陸統一という崇高な理念のために必要なことをしているにすぎない。


「じゃあ、人前で堂々と誇れるようなことなの?」

「それは……無理だな。俺の存在は気づかれないほうがいい」

「あなたの言動、英雄というよりもヴィランね」


彼女は皮肉っぽくそう言ったがその皮肉を言える立場ではないことは黙っておいた。


そんな奴と行動している時点で全員同類なんだよ。フハハハハッ!


……


(……あぁ、これは完全に疲れてるな。今日は少しだけ早く寝るか)



 それから数日後。俺たちはともに行動する予定のパートナーの元へとても平和的な交渉を行うこととなった。


お読みいただきありがとうございます

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