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「ペンは剣よりも強し」と言うそうなのでペンの力で乱世を統一せしめん  作者: 果ル神頼(遥か未来)
第一章 大陸統一の下ごしらえとして国家転覆しましょう
7/10

7話


「なによこれ⁉」


 部屋にやってきた九重(ここのえ)は無秩序に積まれた本の山や散乱している紙を見て善也が連れてきてくれた助っ人の九重は絶句していた。

「資料だよ。この世界の地図とか、主要作物の収穫高の推移とか……いろいろだ」

「それはいいけどさ……人を招くならもう少し綺麗にしなさいよ!」

俺もぼちぼち整理したいとは思っているが、気が付いたら寝落ちしちゃって結局できてないのである。


 俺は愛想笑いと『この件が落ち着いたらするよ』でなんとかその場をしのぎつつ、

「とりあえず九重にはこれを読んでもらいたいんだが……」

直接床に積んである紙の束から目当てのものを探す。これは……各国の伝統料理に関するノート……こっちは能力者を活かす新戦術論をまとめたもの……っと、あったあった。

「とりあえずこれを読んである程度この世界の感覚に慣れてくれ」

紙の束を九重の前に置くと彼女はあからさまに顔をしかめた。

「……これ、何枚あるのよ」

「百数十枚くらいだったはずだ。それでも元の本よりもまとめてある」

「せっかく地獄の訓練を抜け出したと思ったら今度は地獄の勉強会⁉」

この世界の労働環境どうなってるのさ!と喚かれたが、そんなことを俺に言われても困る。俺だって毎日気絶するように寝てるんだから。


労働環境 みんなで破れば 怖くない


まあ、九重はそんなことを言いつつも彼女に譲った椅子に腰を掛けて言われた通りに読み始めてくれる。彼女は不満とかをよく口にはするが、それはそれとしてやるべきこと、頼んだことはきちんとこなしてくれる。やや毒舌な点を除けばとてもいい人である。

「それとさ、善也に『詳しいことは孔明に聞け』って言われたんだけどどういうことなの?」

「うん? 善也から何も聞かされていないのか?」

「他に聞かれると不味いから本人に直接聞けってさ」

どうやら彼女は俺たちが秘密裏に画策している計画を知らないらしい。なので簡単に俺たち今していることとこれからの展望について話す。


♢ ♢ ♢


 まだこのことは俺と善也と宵宮、そして九重の四人だけしか知らない。だからこの世界の人はもちろん他のクラスメイトにもまだ口外しないでほしい。変な混乱を生みたくないことを伝えると九重はすんなりと受け入れてくれた。

「分かったわ。それでさっき、しれっと宵宮って言ってたけどあの子、どこで何してるの?」

いつの間にか見なくなってたけど……という彼女の問いに対し「あいつは……」と口にしたところで言葉に詰まった。言われてみれば日中、あいつはどこでなにしてるんだ?そしてどうやって善也は宵宮に接触したんだ?


「そもそもなんであの子も知ってるわけ?ちゃんと報連相出来るの?」

「あいつと俺は幼馴染だからその点は大丈夫だ。右と左を間違えることはない」

「そういえ……それって大丈夫って言えるの?」


九重の心配ももっともではあるが、あいつの能力がなければ俺と善也は連絡を取り合うことも難しくなる。そもそも今更宵宮を外すというのはさすがにないだろう。


~数時間後~


「疲れた……」

書斎机の椅子にもたれかかり、完全に燃え尽きた様子であった。

「これは新手の拷問ですか?散々肉体労働させた後いきなり頭脳労働に切り替えさせる拷問ですか?」

そう言う彼女の顔は手に持つ資料に隠れてはっきり見えないが、頭から今にも湯気が出そうな気配だけは分かった。

「ここは頭脳労働百か肉体労働百の両極端しかないわけ⁉」

「いい職場だろ?平均化したら五十だぜ」

「その平均化ができてないのよ!」


今度は机にうっぷしたかと思えば、俺のボケに対して顔を上げてこちらを睨む。九重はしばらく息を整えた後、元の調子に戻りこう言った。


「あなた意外とボケるのね」


ああ、それは……


♢ ♢ ♢


~昨夜(作戦会議の開始前)~


「さあ、未来を切り開かんとする開拓者よ!我が主神『クトゥルポルカ』からの天啓を授けてやろう!」


出会って早々、最初に思い浮かぶ感想が『やかましいな』になる人間はこいつ以外に現れるのだろうか。


ただそれはそうと、

「今はやめといたほうがいいぞ?」

「フンッそう言ってまた私の話……」

「俺が最後か?待たせていたならすまん」

「ぜっ……ぜっ善也⁉」

自称邪眼の右目を押さえているところに善也が入ってくる。なぜか普段にもましてにこにこしていた。


「ところで外から聞こえていたんだが……」

部屋に入ってきて早々、何のためらいもなく切り出そうとする善也に対して顔を赤らめる宵宮。よかった、まだ羞恥心は残っていたようである。

「すげえな!そのなんちゃら神ってやつは」

「はっ……?」

あかん、こいつ純粋すぎて気づいてないのか?

「……⁉とっ……当然よ」

宵宮の目つきが変わる。おい!こいつ同胞を見つけたみたいな目つきをしているんだが⁉


「こうも面と向かっておしゃべりをするのは久々かしら?恒星の子よ?」

「たしかに。伝言を届けに来ているころには疲れて寝てしまっているからな」

あっさり順応し、談笑しながら笑う二人に俺はある種の恐怖を感じずにはいられなかった。俺がおかしいのか?……と。


「ところでそれもお前の『能力』なのか?」

……いや、待てよ? この世界なら本当にあり得るんじゃねえか? あいつ『能力』についてはっきり言ってなかったし……


『クトゥルポルカ』


いや、ありえないな。こいつ前と神の名前がまた変わってるじゃねえか。


「同じく神に導かれし同志たちよ……あなたは恒星の加護を授かりし……、しかし、光には影も必要。ならば!この私が陰とあり……」

「なるほど俺が陽ってことか」

待て善也! お前までそのロールプレイに参加されるといよいよ収集つかんくなる。今すぐやめろ!


「さあ、白亜の英雄よともにこの帳の下りた世界に福音を響かせるのです!さすれば我が主神『クトルポルカ』は必ずや我らを導き救いなさるでしょう!」

「白亜ってのはよく分からないが俺たちは英雄だな。それで?どうすればいいんだ?」

「天を仰ぎ……目を閉じ感じるのです。汝ほどの者ならば言葉はまだ聞こえずともその気配に気づけるはず」


不味い、善也が宵宮色に染まり始めている。これは何としてでも止めなければ人類にとって大きな損失になってしまう。

 だが、今すぐこの空気感を変えようとしたその時、突如宵宮は俺の方を見て諭したのだ。


「さあ、汝も天を仰ぎ感じるのです。汝もまた一人その祝福の意味に悩み苦しみながらも、我らが神の示されし道、汝の使命について必死に理解しようとしていた。そうであろう?」

「なぜそれを……」

「私は下界の観測者よ?あなた一人のことすら知らないとでも?」


彼女は笑う。だがそれは普段の鼻につくようなものでもなくては高圧的なものでもない、純粋な笑みであった。


……どっちだ?


「なあ、宵宮。正直に答えろ」

「この私にそのような高圧的な態度をとるとは……」

「お前のそれは顕現したのか?」


彼女は前に『能力』について尋ねた時と同じように少し俺を小馬鹿にするように鼻で笑う。

「顕現……ねぇ。確かにそのような言葉で形容した方が神の天啓が聴こえない平民にとっては分かりやすいかもしれませんね。しかし、汝はそれで満足すべき存在ではない!」

「どちらかといえば『手に入れた』に近しいんじゃないか?」


宵宮に言われた通りの体制のまま訂正を入れる善也。封印されし邪眼(?)を左手で覆いながらこちらを指さす宵宮。内心『もしかして地雷を踏んだか?』と焦る俺。


「そう!汝らの運命を哀れみ、同情した神が!あなたたちに闇夜を照らす小さな種火と……魔を滅する一振りの刃を授けたのよ!そして私は、追憶時代の戦いで封印されたこの力を、神の命に応えるべく……。そして幽境……彼らは滅びまた……」


♢ ♢ ♢


「……ってことがあったんだよ」

「想像しただけで痛すぎる」


俺の話を聞きながら乱れた髪を結びなおす彼女は何とも言い難い表情であった。

(ちなみに昨日の俺が宵宮に対して投げやり気味だった理由がこれである。さすがに頭おかしなる)


この後そんな呪言(もの)を聞かすなと怒られた。それはさすがに理不尽だし二人が可哀そうだと思いつつも、別に俺が二人を擁護する理由もないよな?


「で?それが何の関係があるのよ」

「二人がボケまくったから俺がボケ足りなくなった」

「あほくさ」


九重は心底どうでもいいと言いたげな顔でため息をつく。


「その場にいたら分かるよ。あの二人は混ぜちゃダメなやつだ……って」

「心中お察しするわ」

お読みいただきありがとうございます

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