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「ペンは剣よりも強し」と言うそうなのでペンの力で乱世を統一せしめん  作者: 果ル神頼(遥か未来)
第一章 大陸統一の下ごしらえとして国家転覆しましょう
4/10

4話

 あの日から三日後の夜中。予定ならば今日が使いとやらがやってくる日だが……

(よくよく考えたら誰だ?)

普通に考えればこの状況ならば俺たちのことをよく知っている……つまりはクラスメイトの誰かになるわけだが……

(そんなことができそうなやつはいたっけ?)


 俺たちが連れてこられた最初の時を思い返す。

 あの日、メフィトと呼ばれる魔法使いの姿をした男は一人一人の能力を調べていた。

 クラスメイトの大部分は『獄炎』とか『超再生』とか俺の『速筆』のようにある程度名前で想像できる能力者だったが、一部は善也の『主人公補正』のように抽象的……概念に近しいものもあり、多くの能力の詳細については判明していない。けれども大多数の能力は戦闘向き(でありそう)なものばかりだったはずだ。俺が見落としていない限り。

 何度考えても対象者がいないはずであり、あれやこれと考えていると思わず


「……誰を寄こすつもりなんだ?」


そう返ってくるはずのない問いを部屋の中でつぶやいた時であった


「フフッ……やはり(わたくし)が本気を出すと貴方さえも忘れてしまう……あぁ……やはりこの力は抑えないといけませんね……」


何処からともなく聞こえたとても馴染みのある声。俺はこの声を聞いた瞬間に非常に複雑な気持ちになってしまった。


よりにもよってなぜこいつを寄こすのかと。


 もし、この場に善也が目の前にいたらそう問いかけていただろう。どう考えても人選ミスだと彼に進言していただろう。命かかってる時になにしてんだと。


「久しぶりね迷える子羊よ!偉大なる我が主神『クトルポルカ』からの天啓を汝に授けようぞ!」


……実に愉快な奴が来てしまった。


「……なんだ?用がないなら人の部屋に勝手に入らないでくれ。それとせめてノックはしてくれ」


とりあえず複雑な心情の中で開口一番に飛び出した言葉がこれだった。さすがに失礼極まりねえなと思った。


「善也に言われてこの私がわざわざ……」


ワンちゃんこのベットの影からにゅにゅっと現れた変質者(おさななじみ)が偶然たまたま何かの間違いで俺の部屋に入って来たと期待したがそんなはずがなかった。どうやらこいつが例の使いのようである。それはそうと君のそれ(登場の仕方)は何の冗談だ?


「……うやらこの私の恐ろしさを忘れてしまったようね!ならもう一度自己紹介いたしましょう。最果ての幽境の試練を超え……」


 さて、俺が一切聞いてもないのに勝手に自己紹介を始めるこの末期の中二病を拗らせているのは宵宮。中学一年生からこいつはこうなってしまい、今になっても完治していない。俺とこいつは幼馴染であり幼い時からその片鱗は正直あった……が、まさかここまで重症になるとは思ってもいなかった。


「……そう、この私こそが主神『クルトポルカ』……」

「……ていうかどうやって部屋に入って来たんだよ、宵宮」

「人の話を最後まで聞け!」


そして話が回りくどいくせに自分の話を遮られると怒る。俺の顔を指さしながらに声を荒げる宵宮。ああ、分かったからちょっと落ち着け。そんなに大きい声出したら怪しまれるだろうが……


 俺がなんとかして宵宮を宥めると、落ち着いたこいつはわざわざ左手でやや長めな黒髪をかき上げながら片目を隠した体勢で事の顛末を話し始める。


「この私は恒星(エデン)の子……定められた終焉の地を切り開こうと挑む白亜の英雄の祈りに応えるべく汝に彼の覚悟を伝えに来た。さあ、これが彼の答えよ(以降()内は意訳、善也に頼まれた手紙を持ってきたよ)」


そう言ってこいつは善也からの手紙を右手で人差し指と中指で角を挟むように持ちながら渡す。そういう仕草や、こちらを一切見ないあたりが非常に深刻な彼女の状態を示している。ちなみにだが普段の学校ではここまで露骨ではなかった。多少の恥じらいとかはあったのだろうか、ここまで堂々と『宵宮節』を披露することはなかった。

 こんな歩く黒歴史辞典みたいなやつを目の前にするとかつての自分にもそんな時期はあったことを嫌でも掘り起こされ、多少の恥じらいを覚えると同時に、こいつに比べりゃ俺のなんてかわいいもんだなと安心させられ、何とも複雑な気分になるのだ。


 そんなことを思いながら俺は善也からの伝言を確認しながら先程聞きそびれたことをもう一度尋ねてみた。


「……で『能力』はなんだ?」


こいつは確かにあの時……最初に能力を確認する時にはいなかったはずだ。


「フフッ、そう易々と我が手の内を他人に明かすとでも思うとでも?」

彼女は右手の人差し指を振ると俺を小馬鹿にするように『フッ』と笑う。どうやら話す気はないと暗に示しているつもりらしい。


 普通の人間ならばそこであきらめるか、よっぽど重要ならば頭を下げてもう一度お願いするだろう。そうすれば彼女は一応教えてくれる……が彼女のただただ回りくどい妄言を数分間も聞かされることになるだろう(しかも結局のところ内容は『仕方ないわね、いいよ』……それ以上でもそれ以下でもない)もちろんそれを遮ろうものなら先程のように文句を言った後、彼女としては嫌がらせでもささやかな仕返しのつもりはないのだろうが最初から聞かされることになる。

 ただし幸か不幸か……とりあえずすっごく癪ではあるが……あるのだが……こいつと俺は幼馴染である。故に


「わーやっぱ下界の観測者様は言うことが違うなー。凄いなー」


多少の取り扱いの仕方は知っている。こうやっておだてることで彼女のセリフの文量をおおよそ三分の一に減らせる。


「フフンッ、それはもちろんこの私が主神『クトルポカル』に使える四界(テトラ)の最高観測者の一人、レボルバード・ヘブニア・ストラ(宵宮)ですもの。しかしこの私を崇拝する者に隠し事をするのは神に仕える者としてはふさわしくない行為。……仕方ありません。自らの手の内を語ることは愚行ではありますが、迷える羊たちの可愛げな頼みですからお教えいたしましょう」


そう言って彼女は腰に手を当て得意げに話し始めるのである。

(ちょれーぜ)

まあ、それでも長いのだが……


「私の能力……いいえ、封印されし力の一つ……それは暗黒世界の秩序を保ち……光界と冥界の均衡を保つもの。神『クルト……ポルカ』が授け、幽境の試練を生き残り開眼した力……すなわち『E4D(イーフォーディー)』!」


「……???」


『決まった……』と言わんばかりに感涙しそうな宵宮。意味が分からず困惑する俺。


*E4D=『Excess Enhancing Entitled Eternal Dark』の頭文字をとったもので彼女が勝手に命名。大体の意味は『授けられし究極の闇の力』


「『E4D』!!」

「名前はいいから効果を教えてくれ」

「影世界を自由に行き来できる」


う~んと?


「つまり影の中に溶け込んで影の中を自由に移動できるってこと?」

「その通りよ。察しが悪くなったわね」

その言葉だけで理解できる俺はだいぶ理解あると思うよ?


「なるほどな。それであの時にいち早く能力に気付き姿を消したと?」

「その通り!あなたもこの私の優れた先見の明に感謝しなさいよ。もし私がいなければ今頃もっと面倒なことになっていたことでしょうよ!」

「フフンッ」と笑う宵宮に合わせて褒めたたえる拍手を送る。すっごく癪……癪なのだが……話が迷走するよりもはましなのである。

「今もお前の存在は気づかれてないのか?」

「神の代行者であるこの私がそんなミスをするとでも?とんだ杞憂ね」


なるほどねぇ……それじゃあ現状動けるのは昼間の俺か夜間のこいつだけか。


 俺は善也の伝言を読み終えた後、『ナンセンスね~』とブツブツ言いながら俺を見下そうとでもしているのだろうか、微かに顎を上げにやにやと笑う宵宮の状態には何も突っ込まずに今度はこちらから送る手紙を渡す。


「ところで今まではどこで何してたんだ?」


ふと気になったので尋ねてみた。


「フフフッ、よく聞くがいい、迷える者よ!私はこの王宮に意図的に隠された真実……彼らの闇の気配に気づき、独自で調査していたのよ!」

おお!まさかそんなことをしてくれていたのか⁉

「それで成果は⁉」


俺が期待するようなまなざしをしながら尋ねると宵宮は露骨に目をそらし急に歯切れが悪くなった。


「……こっ、この国の根幹を揺るがす罪の記録書。さすがに……一筋縄ではいかないわね……」


……そうか


「……ないんだな」

「いっ……今のところはよ!何よその顔は⁉」


すまん。期待した俺が馬鹿だった。


「だいたいね、さっきも言ったけど私がいなかったらもっと大変なことになってるのよ⁉もうちょっと私を敬いなさいよね!」


それは本当にそうだから、そう言われるとなんも言えねえよ。


「もういいわ。次に会うときにはもう少し、この私……ひいては我が主神『クルトルカポ』への態度を改めておきなさいよ!」


彼女は捨て台詞のようにそう言うと出てきた時と同じようにベットの影に今度はズズズッ……と消えていった。


 さておそらく彼女が部屋から出て行っただろう……そう思うと同時にどこからともなく疲労感が襲ってきたので残りの借りてきた本は明日に回して寝ることになった。


ちなみにあいつが仕えている神の名前が毎回微妙に変わっていることには突っ込まない。突っ込んだら負けだ。

お読みいただきありがとうございます


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