16話 終章
王宮内のごたごたは物語の展開の都合で二章に入ることになりました
~翌朝~
「今頃王宮内は大混乱しているだろうな」
窓には木の板が乱雑に打ち込まれ、すっかり日は上っているのも関わらず、暗い室内に、そんな独り言が響く。
俺たちは一時的にメフィトが長期休暇の時限定で使うらしい、町外れの別荘に避難している。ここの存在を知っているのはメフィトの腹心だけであり、ここまで捜査の手が及ぶ頃には王位の継承は住んでいるだろう、と俺たちは考えたのである。
ちなみに完全に余談だが、東の国との戦争が始まってからは忙しい日々が続き、一度も手入れされていなかった別荘はなかなかに無残な姿になっていた。俺はその姿を見たメフィトが家の前で見たこともないくらい美しい『絶望のあまりに膝をついて落胆する』瞬間を目撃してしまった。
おそらく紀貫之もこういう気持ちになったんだな……とどこか感慨深い気持ちに浸っているとメフィトに恨みのこもった鋭い視線で睨まれてしまった。やはりこの世界の人々は趣なんてものに興味がないようだ。
話を戻すが、特に戦闘能力もなく、また他にやるべきことはあるものの王宮内にいる必要のない俺は危険と判断され、あれから結局外へは一度も出ていない。外でやらなくてはいけないこともあるが、そう言った類のものは宵宮たちにまかしている。おそらく昼頃になれば町中も騒がしくなるだろう。
さて、俺がいるメフィトの別荘から王宮までは歩いて移動しようものなら半日以上はかかる。……が、勿論そんな正規の方法を使うはずもなく
「何を他人事みたいに言ってるんですか黒幕さん」
それを可能にした張本人は紅茶を片手に優雅なモーニングを堪能していた。
このどこかのお嬢様のように振舞っているのは響。おそらく善也が最も信頼を置いている人間の一人であり、クラス女子の代表的なポジションに位置している。
「ひどいなぁ……それじゃあ俺がまるで悪役みたいじゃないですか」
「実際そうじゃないですか。国家転覆って大罪犯してるんですから」
やめてくれ。それを言われちゃあ俺は何も言い返せなくなる。
「それにしても随分と派手なことを俺たちに内緒でやってくれたな」
耳が隠れるほどのツインテールの響と相対するように座りながら同じく朝食を堪能しているのが滝口翔ことショー君であり、戦闘能力の低い俺と響の護衛として同じくメフィトの別荘に避難していた。
「何勝手に私が買ってきたパンを食べてるのよ」
「いいじゃねえか。その量、一人で食べるために買ってきたわけじゃないんだろ?」
彼の目線の先にある皿の上には三種類のパンがきれいに三つずつ積まれている。どう見ても響が一人で食べきれる量……いや、同じく小柄だが野球部らしく丸刈りで常に日焼けしているショー君でも食べきることはできないだろう。
「そうだとしても礼儀がなってないのよ、れ・い・ぎ、が。何か言うことあるでしょ?」
「ありがとうございます、お嬢様!」
「……お嬢様?」
響はゆっくりとカップをソーサーの上に戻す。
「……よろしい。さっ、あなたも硬くなってしまう前にいただきなさい」
あっ、特に何も突っ込みはないんですね。
俺の突っ込みをよそに早速食べ始めるショー君。言われるがままにパンを一つ食べてみた。王宮で出されたものとはまた違うがこれはこれとしておいしかった。
「しっかし……俺たちだけこんな風に優雅なモーニングを堪能してもいいものなのか?」
今頃あっちは修羅場だぜと苦笑するショー君。
「まあ、いいんじゃない?私たち、本件の功労者なんだから」
響は俺がまとめた資料を片目に、個人的には以外にも、そこまで気にしていない様子であった。
「それに数日後にはあなたも私も忙しくなるんだから今のうちに休んでおくべきよ」
「えっ、そうなのか?」
「……あなた、書画からもらった今後の予定、まだ見てないの?」
彼女はいつもの穏やかそうな表情を崩しはしない、がその眼は一切笑っていない。
「ああ、あれね……見たよ……うん、軽く……読んだよ……」
なぜか声の大きさが尻すぼみに小さくなっていっていたが、寛大な心で気にしないでやった。
まあ、俺が許す許さない関係なしに、「それじゃあ後で綿密な打ち合わせをしましょう?」と優しく微笑む響からの提案に黙って頷く以外の選択肢はショー君にはなかったのだが……
さすがはあの宵宮を唯一、何度も黙らせることのできた人だ。人心掌握が上手すぎる。
さて、彼らの能力を説明するとまず響の能力が『瞬間移動』名前のとおりであり、シンプルながらに非常に有用な能力である。俺たちが早朝にはここに退避できたのは彼女の能力によるおかげである。
注意点としては響が一度も行ったことのない場所やあまりにも遠い距離を移動することができないが後者については歩いて半日程度の距離なら問題ないそうで前者についても宵宮の力を借りれば気づかれずに王宮を抜け出すことは可能でありこれもさしたる障壁にはならなかった。
そしてショー君の能力は『颯』。圧倒的なスピードを手に入れることができるそうだ。しかもそれは移動に限らず行為そのもの(例えば腕を振ったり、バットのスイング)とかにも適応可能……そう、つまり文字を書く速さも上げることが可能であり、俺の『速筆』の上位互換みたいな面をしているのである。
やっぱ俺の能力ってゴ……っていかんいかん。
唯一の救いはその効果量は汎用性の高さ故かあまり高くないらしく、またかなり燃費の悪いものとして有名らしい(メフィト談)だから俺の十八番が奪われることはないそうだ。よかったよかった。
今回の計画はこの二人のおかげで様々な課題を気にする必要がなくなり結果としてほぼひと月で計画を実行できるようになった。
「おそらく次が一……いや、二つ目の山場になるだろう、あまりに不確定要素が多すぎるから臨機応変に対応する必要がある。特に俺たち三人と修羅場にいるメンバーはその場その場でアドリブを入れる必要が間違いなくあるだろう」
朝食を食べ終わり、今後の予定を確認する二人に対して俺は改めて念押ししておく。
「了解」と素直に返事をするショー君に対して、響は少し思案した後、俺にギリギリ聞こえるくらいの大きさで呟くのであった。
「『国家連合発足』ねぇ……聞いた感じかなりドロドロな関係らしいけど本当にうまくいくの?」
<一章終>
お読みいただきありがとうございました
次章についてはまたストックがたまり次第投稿を再開する予定です。
少しでも今後の展開に興味がありましたらブックマークをしてもらえると幸いです。
予定では二月ごろとなっていますがおそらく二月終わり~三月初めごろになるかと思われます。




