14話
まさかの戦闘までいかず
ここら辺のことももう少し前から小出しにすべきでした
ここまでは本当に順調であったが
「いったいどういう状況ですか?メフィト、そして英雄さん」
「イグサ⁉」
後ろから入って来たメフィトは、中にいた男を見て驚きの声を上げる。
「いったいこんな夜分に何用かね?」
部屋の中に立つ王の問うその声は不気味なくらい優しい。だが、その顔面には得たり顔が浮かんでいた。
俺はすぐさまに状況を整理しようと頭を働かせる。メフィトが裏切った? いや、それにしては先ほどの驚き顔があまりにも不自然だ。それじゃあ国王はとっくの前から気づいていたのか?
(……いや、もし仮にそうならばわざわざ俺たちをここまで泳がす理由はなんだ?今は国内の粛正に回せる余裕なんてないことは理解しているはずだ)
そこまで思案したところでふとイグサは俺の方を見てため息をつく。
「そのように思案するのは大切ですが表情に現れすぎです。もう少し隠そうとしなさい」
「余計なおしゃべりはいらん。いいからそいつらを確保しろ」
ひじょうに落ち着いた様子のイグサに対して国王は声を荒げながら命令をする……が、指示されたイグサはあからさまに顔をしかめるだけであり、むしろ一歩も動こうとしない。
「国王様、現在の国内の状況をきちんと把握していらっしゃいますか?」
「なっ……?」
そうやって王に進言するイグサの視線は俺たちに向けるものよりも冷たい。普段そのような目線を向けられることがないのだろう、国王はたじろぎ、言葉を詰まらせている。
イグサの注意が国王に向いている隙にメフィトの方を確認してみたが、彼も状況を完全に理解できていないようで、下あごのあたりに手を当てながら何かを考えているようであった。
「……イグサ、一つ尋ねたいことがある」
静寂に包まれた寝室の沈黙を破ったのはメフィトであった。
「……今晩の動きはお前が独断で決めたのか?」
「……まあ、そうですね。君たちと接している人間は限られています。何か考えていることに気付いたのは今日の昼間ですね。不自然なほどに表情がこわばっていましたから。すぐに知らせることも考えたのですが君たちは特殊ですからね。先程まで国王に説明していましたが、今、この国で内乱をする体力はありません。下手に騒ぎを起こせばどうなるかなど、歴史を学んでいるものならば誰でもわかります」
イグサは俺たちを指さすと忌々しそうに話す。そして、今度はメフィトの方を向き、『正直、あなたが子供たちを唆して今夜の暴挙を引き起こした……と言ってくれれば、こちらとしては色々と面倒事を省けるのですが』とぼやく。
「いいや、むしろこいつらが俺をまきこ……」
「善也さん。今夜の出来事には目をつむります。幸い、あなた方が事を大きくしなかったので知っている人はほとんどいません。今この場で彼を切り捨ててくれるならばあなた方の命は保障しましょう」
「オイ待て!何を勝手に話を進めているんだ!」
メフィトの言葉を遮って、そう提案するイグサ。そして勝手な提案を糾弾する国王。俺がこめかみを押さえながら頭を悩ませていると響がそっと耳打ちする。
「どういうこと?国王とイグサは同じ立場じゃないってこと?」
「分からない。俺たちを試しているだけなのかもしれないし、向こうもただの一枚岩ではないのかもしれない」
俺は当初の筋書きから歪み、捻じ曲げられた現実を前に、今すぐにでも書画のもとに押しかけ、原稿を叩きつけて『考えなおしてくれ』と言いたくなった。『とりあえず最大の壁としてイグサが立ちはばかり、さらに想定以上に国内の状況は悲惨な設定にしてくれ』……そう言ったら、嫌な顔をしつつも書き換えられる空想ならどれほどよかっただろうか。
(俺の選択で俺たちの運命の行方が変わる……か)
♢ ♢ ♢
「それじゃあ、俺たちが望むことについて話させてくれ」
俺は覚悟を決めて何やら言い合っている三人に向けて話す。本件の目的。俺たちが望むもの。そして俺たちの計画の一部を。
「国王の座を明け渡せだと⁉ふざけるな!そんなことができるわけないだろ!」
国王は声を荒げながらわめくが、彼の声に頷く人間はこの部屋に一人もいない。……なんならイグサは俺たちの方を見て『この人一旦黙らせます?』とかなり本気そうな口調で提案する。この瞬間、彼は国王側の人間でないと確信する。
こちらとしては国王を引きずり下ろすのはこちらと同じで既定路線であるので、本人が聞いていようが聞いていまいが……まあ、どうでもいいことではあるが、さすがにそれはかわいそうだし、イグサの脅迫が効いたのか、国王はすっかり委縮してしまったので、そのままで話を進めることにした。
そして話を進めているうちに、やはり彼らもまた何かを画策していたようである。もちろんその目的は国王を玉座から引きずり下ろすためである。それならば、いがみ合うのではなく手を取り合うべき……ではあるが、お互いに譲れないものがある。
「……大陸統一の指揮は事実上お前たちが執る……だと?いったい何を根拠にそんなことを言うのだ?」
イグサは俺たちが大陸統一の指揮を執ると言った瞬間に難色を示す。それもそうだ。突然外から召喚され、まだ付き合い始めて一か月弱の人間が国の命運を握りたいなんて言ってきているのだ。常人なら誰でも警戒する。
ただし、メフィト。何でお前が「それはそう」って深く相槌を打っているんだよ。お前はどっちの味方なんだよ。もう少し俺たちを信用しろよ。
「それはもっともな疑問です。ですから、どうすれば俺たちをあなたは信じることができるますか?」
「……ふむ。少し考えさせてくれ」
イグサは天井を見上げ、少考した後にこちらを見てある提案をする。
「今回の一件でお前たちにある程度の計画性と行動力があるのは認めてやろう。メフィトもいるならばそのあたりの心配はない。……だが、今のように予想外の出来事に直面した時の対応力。それが非常に心配だ」
それだけ言うとイグサはおもむろに剣を抜いた。
「本来ならば俺は国王に忠誠を誓う兵士としてお前たちと交える運命だった。……ならばこれが一番手っ取り早くお前たちの対応力を測れる」
……結局こうなるのか。と俺はため息をつく。部屋に入り、イグサの姿を見た瞬間から覚悟はしていた……が、それでも死が間近に迫っていることによる危機回避の本能からか目が大きく開き、脳がクリアになった気がした。
「善也!」
俺がこの人に全く勝ててないことを知っている響が止めようとするのを無言で制す。ここで退くなんて選択肢はない。
俺は黙って剣を抜き、構えると「交渉成立だな」とイグサは冷たく言う。
国王にとっては仲間割れに近い状況に変化したことでわずかに口角を上げたが、「俺が勝った瞬間、お前はここで死ぬ」とイグサに宣言されたことで目を見開いて、その表情のまま一歩、二歩とメフィトの方にすり寄っているのが視界の端に映る。……が、そんなことはどうでもいい。
「能力の使用も自由だ。それじゃあ、いざ……勝負!」
とりあえず保身したい国王とよくわからないメフィト
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