12話
文調が前話までと大きく変化しているかと思います。
おそらくこちらの方が読みやすいと思いますのですが、いかがでしょうか?
そしてとうとう決行日となった
この世界にはどうやらまだ電気は普及しきっていないようで、深夜ごろになると街中はもちろん、僕が暮らしている城内でさえも各々が燭台なり、小さなランプなりを持っていなければ満足に移動することはできない。こんな時間に外に出ようものならば本当に月明りのみが最後の頼りとなりそうであった。
決行時間の数分前に、俺の部屋には宵宮がとある仲間を連れて姿を現す。
「こんばんは、書画さん」
途中で今回の作戦に合流し、そして今後、俺が最も頼りにするであろう者がにこやかに手を振る。ごくごく普通の、客人の振る舞いであったが、俺はそれに感動してしまいそうになった。何せここ数週間の来客といえばほぼ彼女だけであり、どうやら俺は無意識のうちに彼女に毒されかけていたようだ。
「さあ、時は満ちた。この素晴らしい満月の輝きが……かの愚王の罪業を暴き……」
「宵宮ちゃん時間がないわ。あとにしてください」
いつものように決め台詞を放とうとする直前で遮られた宵宮は、当然不服そうな表情をし、何かを口に出そうとしていたが
「時間がないのよ」
口調や表情はあまり変化していないが、彼女の目の光が消えていく気配を感じた。その眼で見られた宵宮は小さく『ヒッ……』と表情をこわばらせ、一歩二歩と後ろに下がったかと思うと、そのまま影の中にズズズッと消えていった。逃げたな……
さて、宵宮が消えたのを確認しきった彼女はこちらに視線を移しやや申し訳なさそうに
「すみません、本当に時間がないのです許してくだ……」
「いや、気にするな。悪いのはあいつだ」
「ちょっとそれどう……」
どうやらまだ部屋に残っていたようで、ドアの近くの物陰からニョキっと顔を出した宵宮が抗議しようとするが、俺と彼女の二人からの冷たい視線を受け、再び影の中へと消えていった。
俺と彼女は二人で軽くため息をつく。多分彼女が何も言わなくても、数秒後にはきっと俺があいつを黙らせていただろう。
「持っていくものはまとめてありますか?」
彼女の問いかけに対し、俺は問題ないとすぐそばに置いた袋を持つ。すでに今後必要になりそうなものは輸送済みであり、残っていたものは計画の都合上、どうしても最後まで持っとかないといけなかったペンといくらかのインクだけであったために、荷物はほとんどなかった。
しかし、彼女は部屋にいまだに散乱しているたくさんの紙束を指さす。
「あそこにあるものは必要ないのですか?」
「ああ、あれは別に大したことも書いてないから必要ない。むしろ、俺のことを探そうとこの部屋に来た人間たちに見つかって、何かあるかもと思わせ、捜査の目を減らせればいいな程度のもの。実際は王宮の図書にあるものを書き写しただけのもので、彼らが望むようなものなんて何も書いていないんだけどね」
「あれだけの資料を隅々まで調べるとなるとどれほどの労力を割く必要があるか……考えたくもないですね」
彼女は納得したような表情を見せるとそのまま、彼女は能力を使う準備をする。これから俺はしばらくの間逃亡生活を送ることとなる。
非常に残念(?)であるが、決行日当日にやれることは俺にはなかった。むしろ何が起こるか分からないこの城内で俺は完全に足でまといになるだけでなく、後々、一部の人間たちが血眼になって俺を捜索し、それに見つかろうものならば、さらし者にされ、打ち首にされてもおかしくないくらいのヘイトを買う。
幸い、当日に俺にしかできないようなことは全くないため、わざわざこんな危険な城内に残す必要はないということで、しばらくの間は城外のとある場所に隠れることとなった。
……と簡単に言っているが、これがなかなかに厄介な話で、前にも宵宮たちと話したが、現在自由に城外に移動できるのは宵宮だけであり、俺たちは城外に出ることをいまだに許されていない。もちろん彼女の能力があれば、俺も外に出ること自体は可能であるがその後が大きな問題となる。
まず、メフィトとその一派が仲間になったとはいえ、他の大多数の有力者は敵対、あるいはせいぜい中立の立場を貫くだろう。彼らと本気で争うことになってしまったら、こちらには勝ち目はない。現王一派が捜査指令を出そうものならば王宮及びその付近はくまなく捜査されることになり、そんな場所で隠れ切るのは不可能であろう。
故になるべく離れた地に移動する必要があるが、この時間から夜明けまでの間、つまり人の目の一切ない期間で逃げられる距離なんてたかが知れている。
前提として多くの平民の俺たちを見る目は最初は『逃亡者』だ。得体のしれない人間を国王に背いてでも匿うような人間がはたしてどこにいるだろうか?
きっと多くの民はこれから起こる不確定な未来に託すよりも、俺にかけられる懸賞金を頼りにすることを選ぶ。俺の姿を見ようものならば嬉々としてそのことを密告するだろう。
このようなことから、短時間で、誰にも見つからず、できるだけ遠くの場所へ、そして計画の都合上、そこでしばらく生きなければならない。当初は乗り物を使うことなんかも考えたが、結局、足がつくのは避けられそうにはなかった。
なので今回の作戦を考えていた時に、この部分をどうするかで悩んでいたが、善也がそんな難題を鼻で笑える素晴らしい人材を用意してくれたのである。それが彼女であった。
彼女の能力を発動するのに必要な文章を唱え終えると同時に俺の体は淡い光で包まれる。
「きちんと隠れていてくださいね」
「そちらこそ気をつけて」
その言葉と同時に俺の意識はどこかへと飛ばされる感覚がした。すでにこの能力を二度受けているが、いまだにこの感覚になれず、次に目を開けると同時に軽い乗り物酔いのような気分になる。
おぼつかない足で何とか立ち上がって回りを見ると、あらかじめ輸送しておいた資料の山が目に留まる。どうやらきちんと成功したようだ。
さて、数日ほどはやることもできることもほとんどないのでどうしようか……と椅子に座り考え込んでいたが、ここ数日の疲労と、一応、自分がやらなければいけないことがひと段落したことによる安心感からか、猛烈な睡魔に襲われ、いつの間にか寝落ちしてしまっていた。
他の仲間はこれからが山場だというにもかかわらず。
……本当にごめん。他のみんな。
そしてまた、後々に思ったことであるが、ただの高校生が追われ身になったにもかかわらず堂々寝ているあたり、俺はすっかりこの世界になじんだんだな……とそのことに気付いた時、言葉にできない高揚感を感じていた。……が、そんなことをメフィトに話したら
「この世界をなんだと思っているんですか」
とため息交じりに、そして奇人を見るような目で言われてしまった。ちなみに九重に話しても当然、ドン引きされたのでどうやら俺はどちらの世界でも浮いている異質な存在へとなり果てていたようであった。
一方、書画が睡魔と戦っているそのころ、王宮では作戦が決行されようとしていた。
お読みいただきありがとうございます




