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「ペンは剣よりも強し」と言うそうなのでペンの力で乱世を統一せしめん  作者: 果ル神頼(遥か未来)
第一章 大陸統一の下ごしらえとして国家転覆しましょう
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11話

 間もなく夜が明けようとする時刻に少女は王宮を抜け出して、とある老商人のもとにいた。



「さあ、これが本日分の恵みよ!感謝しなさい!」


重い瞼をこすって机の上を確認すると山積みに置かれている紙の束。

一方で机の上に用意してあった数枚の金貨はなくなっていた。

「ああ、そうか……」

早朝と呼ぶにも早すぎる時間帯にもかかわらず、何処からともなく聞こえる明るくはっきりとした女性の声。きっと気が強くて、ちょっとばかし傲慢な人間だろうと……長年の商人としての勘が予想しているのだが、


「ところで、お前はいったい何者なんだ?なぜ一度も姿を現さない?」


姿が見えないので相手がまだこの部屋に残っているかは分からなかった。……が、しばらくすると


「だからこの前に言ったじゃない。私は下界の管理者であり、主神『クトルポルカ』に命じられ、神の言葉を伝えし者……そう!その名は……えと……そう!

レボルバード・ヘブニア・ストラ(宵宮)ですもの!」


 いったいこいつは何者なのか。精霊か、悪魔か、はたまたは他国からのスパイなのか。その正体こそは謎だらけではあるが、商人としては下手に詮索して機嫌を損ねさせ、せっかくの好条件の取引先を失う可能性のあることもあり、結局、はっきりと問いただすことはできなかった。

 どちらにせよ彼女からの取引がなければ、今頃自分は路上暮らしをする羽目になっていたのだろうから。これはきっと神からの慈悲だと……割り切って考えることにした。少なくとも敵意はないのだから。


 とは思っているものの、やはり正体不明の何かというものは商人にとってはこの上なく興味深いものである。取引先にはなるべく無関心を装いつつも彼女の言動はしっかりと記憶に残してある。


ただ……


……また違う名前だ。この前はたしか『リボルバード・ヘブニア・ストラ(宵宮)』だったはずだが……


 次の日になれば全く別の肩書や名前を名乗る正体不明の存在に対して、真面目に調べる意味があるのか……そう問われれば儂は適当に笑ってごまかすことしかできないであろう。


しかし、それにしても……


 儂は傍に置いてあった老眼鏡をかけ、何百枚と積み重なった紙に書かれた内容を見る。そこには二日前に起きた市場での盗人が捕まっただとか、先日からどこかの店で新たな商品が販売されたなど……本日もまた様々なタイムリーな出来事がつづられている。


いったいどのようにしてこんなことを可能にしているのか。


得体のしれぬ存在に今日もまた一種の感謝と恐怖を覚えるのであった。

 


♢ ♢ ♢


 それから少し時間が経過して、王宮内のとある一室では無秩序に紙が散乱する床に腰を下ろして……


「なるほどなるほど……僕の知らない間にそーんな計画が動いていたんだ」


焼き菓子を片手に計画表を見ながら目の前のクラスメイトは興味深そうに呟いた。さて、色々突っ込みたいことがたくさんあるが、とりあえず……


「その焼き菓子はどうしたんだ?」

「ああこれ?これは『君たちも頭使うんだから甘いものを取りなさい』って買ってきてくれたんだよ。もちろん君も遠慮なく食べてってさ」


そうだよな。さすがに『買ってきた』よな。となるとだな……


「……それ、おそらく善也に必要そうなものがあったら買ってくれって俺が渡した金のはずなんだが、なんで焼き菓子なんか買ってくるのさ?」


いったいどういう思考回路をすれば革命に焼き菓子が必要になるのだろうか?


「そうなの?それじゃあ……ごちになります?」

「いや、ちがう、ちがうんだ……いや、いい。気にしないでくれ」


 うまく言葉で形容できないこの微妙な感覚が、小骨のように心の中で突き刺さっていた……が、そんなもやもやした気持ちは全部甘味でぶっ飛ばしてしまえと結論付け、並べられた焼き菓子を手に取った。


「何か言いたげな顔してるけど結局食べるんだね」


いろいろ言いつつも焼き菓子を手に取る俺の様子がおかしかったようでクスクスと笑う。……まあな、今の俺からすれば宝石みたいに見えるからな。


♢ ♢ ♢


同時刻、別の部屋では。

なぜか俺の部屋に置かれる円卓。その上に積まれる黄金色の焼き菓子たち。

「決行は一週間後だが……」

「問題ないわ。すでに必要な準備は済ませてある」

「善也も気にせず食べなさい」そう言って彼女は焼き菓子を一切こぼさずに上品に食べる。


それを買った金はそれを買った金は俺が……いや、書画が稼いだ金なのだが……


「甘露、甘露~」


眉を細め、心から甘いものを堪能する姿を前に彼女を前にあまり無粋なことは言うべきではないと結論付け、これ以上は何も言及しないことにした。

 それに、彼女に対する報酬と考えればこれくらいかわいいものだろう。


なにせ、彼女のことについて善也に話したのだが……


「ホントに⁉それなら面倒な過程を全部すっ飛ばせるし、やれることの幅がすごく広がる!」


ちょうど必要としていたピースだったと喜ぶ彼はすぐに計画を変更すると張り切ってしまった。


しかし……


「本当に助かった。おかげで多くの手間が省けた」


改めて礼をすると、彼女はそんな堅苦しいことはよしてと顔を上げさせる。


「それよりも、私はむしろあなたが過労で倒れないかが心配です」


いや、俺なんて大したことないよ。

 俺は咄嗟に首を横に振る。今回はもっと無茶している奴らがいるからな。と笑う。その瞬間に俺の中である思いが芽生えた。


(この程度のことで音を上げるようじゃあいつらに合わす顔がねえからなぁ!)


そして目の前の彼女はこれからきっと大変になるだろうしな。


そう思うと、自分がこんなところで足踏みしているのが馬鹿らしく感じる。

『彼は……そう自然発火物みたいなのである』

この瞬間、彼は発熱し始めた。


いっぽうで目の前のクラスメイトは

(あいもかわらず自己評価が低いこと……)


……と自分がやらかしたことと、しばらく先の未来に自分があちこちに駆り出されることになる……などは露知らず、二つ目の焼き菓子に手を伸ばすのであった。


♢ ♢ ♢


「お話があります国王様」


玉間にて一人ひれ伏すメフィト。もちろん相対するはこの国の現王である。


「英雄たちの最終調整を行うべく第三兵団駐屯所の使用許可をいただけないかとお願い申し上げます」


メフィトの要望に、王は僅かに視線を宙に移し、あごひげをなぞる。

 メフィトはそのような王の態度に困惑した。この王は大陸統一の野望はあり、前王の父の手ほどきを確かに受けていたこともあって秀才ではあったが、政治……殊、他社と競い合い、出し抜くような、例えば隣国とのにらみ合いなど以外については驚くほど関心がなく、基本的に自分たちに丸投げをしていた。そのような王が、答えを出すことを渋っているのである。


「お前がそのようなことを申すとはな……いったい何を考えているのだ?」


王の(本当は当然の質問)に対し、メフィトは内心困惑しつつも、大丈夫だ。落ち着くんだ。どのような扱いを受けようと三十年も仕えてきたんだ、疑われているはずがない。と平静を装う。


「あのものたちは私が召喚した英雄でございます故、私が責任をもって教育すべき……そう判断したにすぎません。本件の責任者は私であり、私の沽券にかかわるものですから」


緊張の余り背筋から冷や汗が滑り落ちる。王の反応は乏しく、何を考えているのかは顔や仕草からは全く読み取れない。


「……好きにしろ」


王は興味を失ったようにぶっきらぼうにそれだけを言うと、「さっさと控えよ」とメフィトを退出させるのであった。



こうして謁見の間から退出したメフィトは当初の目的は達成しつつもその内心は複雑であった。



そしてついにその時はやって来た。

お読みいただきありがとうございます

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