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「ペンは剣よりも強し」と言うそうなのでペンの力で乱世を統一せしめん  作者: 果ル神頼(遥か未来)
第一章 大陸統一の下ごしらえとして国家転覆しましょう
10/10

10話

 街の明かりはとうに消え、冷たい様相を醸すころであった。


 今日もまた、就寝前に本日の報告をまとめ、明日の予定を確認し、それが終われば燭台の火を消し、床に就く。


 いったい、何時からこんな単調な生活になったのか……と顧みても記憶にある生活はみんな同じ。どうやらそのことに気付くにはあまりに遅かったのかもしれない。


 代わり映えのしない日々……ただただ自分の衰えだけを感じる日々であった。


そう、この日の夜までは。


「こんばんは。今宵の月はきれいですね」

「誰d$#!」


燭台の火を消し、床に就こうと席を立ちあがった時であった。

 突如として背後に現れた男は素早く羽交い絞めにするともう一人の男が剣先を首にあてながら口を手で塞ぐ。

「落ち着いてください。私たちは貴方ととても友好的な関係を気付きたいだけなのです。殺すつもりはありませんので少々お時間よろしいでしょうか?」


 月光に照らされてぼんやりと見えるその顔は何とも温厚そうであったが、眼鏡の先に見える目からはどこからともなく悪寒を感じさせる薄気味悪さがあった。必死の形相で何度も無言で頷くと彼はニコッと笑いなが

「うんうん。誰も血を流さない。実に友好的だ」

などと平然と口にするのであった。


「……これのどこを見てそう思うわけ?」

背後から私の心の中を代弁するかのように今度は女の声がした。その通りなのだが、いったいどういうことだ⁉ こやつらはどこから侵入してきた⁉


 目の前の男は刃をしまうと机の上に立てられていた燭台に火がともされるとその姿がよりはっきりと現れる。

 彼らの服装を見てすぐに気づいた。彼らは自分たちが召喚した英雄たちであった。ただしこの場には私以外に三人いたはずだが、なぜか二人の姿しか確認できなかった。



♢ ♢ ♢



 善也に総政院の議長であるメフィトを押さえつける力を弱くしてもらい、呼吸が落ち着くのを少し待ってから俺は話を切りだした。


「まず単刀直入に概要をお伝えしますと私たちは近い未来に現王を打倒する予定です。そして、打倒後の次期国王をあなたに担っていただきたいのです」

「……???」


周りの様子を確認していた目の動きが止まる。どうやら言葉の意味を全く理解できていない様子であった。そりゃそうだよな、いきなり爆弾二つ投げられたら誰だってそうなる。


「現王を打倒し……儂を国王に……?」

「はい」

「……分からん。全く分からん。お前たちはいったい何がしたい?」


戸惑うメフィトを前に俺たちは計画の一部、そしておそらく知っているだろうがこの国の状況について話す。



「私たちとしては国に縛られることなく自由に行動できる権利。それと私たちの声を通すためのある程度のバックグラウンドを求める」

「対して儂はこの国家の最高権力者の身分を手に入れられる……と」

「いいえ、この大陸の最高権力者の身分です」

そう自信たっぷりに目の前の少年は言った。


「……解せんな。あまりに価格が釣り合ってなさすぎやしないか?」

「私たちは富や権力なんてどうでもいいのです。あるのは元の世界へ帰りたい。その一心だけです」

その表情や声色からおそらく嘘でないことは読み取れる。


「……お前たちのいた世界はそれほどまでによい所なのか?」

「ええ、皆様には想像できないほどに」


彼からの返事を聞き、儂はしばらく悩むそぶりを見せる……といってもこちらに選択肢などほとんどないに等しいのだが。


「……分かった。儂も乗ろう。……だが、そこまでのことをするならば生半可な策ではいかんことくらい分かっているだろうな?」

「もちろんですよ。きっとお眼鏡にかなう策をこしらえてきましたから」

若造が、ずいぶんと自信があるようじゃないか。



 まだ資料を全て確認したわけではないが、これは驚いた。正直な話、若者特有の楽観的で打算的なものとばかり思っていたが、まさかすでにこれほどの数の資料を手に入れているとは。それにしても……

「いったいどうやって入手してんだ?」

中には内政に関わっているものでなければ知りえないこともたくさんあり、この世界に来たばかりの彼らが本来ならば知りえないはずである。


「それは言えませんね」

手の内を軽々話さないあたり、どうやらこいつらは見た目の割にはそれなりに頭も切れるようだ。これではおそらくどのように儂の部屋に侵入したかも明かしてくれぬだろう。

どうやら楽観的だったのはむしろ儂らかもしれぬ。こやつらは我らに従順だとばかり思っていたがきちんとした我を持っている。


「……それで?儂には何をしてほしいのだ?」

「現王政に不満を持つ派閥を取り込んでいただきたいのとあらかじめ根回ししてもらいたいのです」

「……というと」

「現王政打倒後はスピード勝負です。兵士が混乱し、民衆が困惑し、革命の不安が伝播することは避けられません。私たちの力でできる限りのサポートや妨害は致しますが内輪揉めを泥沼化させられるほどの体力はこの国にはございません」


「……なるほど。その類の内政はつまり儂に丸投げするつもりと」

訂正。やはり打算的であった。

「恥ずかしながら私たちには務まりませんでしょうから。革命が成功したところで、ろくに統治もできず、滅ぼされる未来が見えますので」

いや、そのことに気付いているだけこの国の中ではましなのかもしれぬ。


「ところで最後に確認だが」

儂はこやつらを試すべくある疑問をぶつける。この回答次第でこやつらの思慮の深さが大方予測できるだろう。


「本件を国王に報告されるとは思わないのか?」


いくら儂が現王政で不遇な立場にあるからといって、彼らの向いている方向と儂の向いている方向が一致しているとは限らなければ、本件をだしにしてまた国王側にすり寄ろうと画策する……といった可能性も捨てきれないはずだ。


 この至極まっとうな問いに眼鏡をかけた彼は一切の迷うそぶりを見せることなくはっきりと断言した。まるで、その質問があることを予期していたかのように。


「私たちを英雄として召喚したのは貴方です。そんなことをしたところであなたは本件の最高責任者みたいなものですから、私たちのことを密告しようと結局、英雄召喚どころか反乱分子を生み出したことを問われ、左遷されるなり降格される運命を辿るだけですからね。少々不快な言い方かもしれませんが、そこまでするほどあなたには現王に忠誠心はないと私たちは見てます」


だから私たちは貴方に誘いをかけたのです。少年は意地悪そうな笑みを浮かべた。


……なるほど、完璧な回答だ。彼らとならば本当にできるかもしれない。


「分かった引き受けよう」


儂は資料を机に置き、ゆっくりと右手を差し出す。

 そのしぐさに目の前の少年は少し安堵したような表情を浮かべると、同じく右手を差し出す。


「よろしく頼む」

「こちらこそ、メフィトさん」



こうして無事にメフィトを仲間にできた俺たちはいよいよ、国家転覆に向けての最終調整へと入るのであった。


お読みいただきありがとうございます

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