転生、まさかの『お局』
佐藤和夫は、45歳の普通のおじさんだ。どこにでもいるような存在で、特別な才能もなければ、人に自慢できるような特技もない。ただ、彼はいつも温かい笑顔を絶やすことなく、周囲のために力を尽くすことが好きだった。しかし、その優しさは時に彼自身を影の薄い存在にしてしまうこともあった。
その日、和夫はいつものように仕事を終え、電車に乗って帰ろうとしていた。しかし、突然、電車の手すりが外れた。和夫の運命は、その瞬間、恐怖と共に一変した。
目を開けたとき、彼は知らない天井を見上げていた。何かの病院のようだった。慌てて起き上がろうとしたが、鏡に映る自分の姿に愕然とする。彼は『鬼塚優子』という名の、強い影響力を持つ年配の女性に転生していた。
「お、お局!?」
慌てふためく和夫。目の前の鏡には、白髪交じりの髪を束ね、厳しい表情をした女性が映っている。スーツも完璧に着こなしているが、その姿は彼が知っている自分とはまったくかけ離れていた。お局とは、職場で恐れられる存在であり、後輩たちから「鬼」とも呼ばれる女性なのだ。
「何で俺がそんな存在になってしまったんだ...」
混乱する和夫の心の中で、いくつもの思いが交錯する。今までの優しさはどうなるのか。彼はどうやってこの生活を乗り越えていくのだろうか。それでも、彼の内なる優しさは、あきらめきれない気持ちを掻き立てていく。
気がつけば、彼はその職場にいることが分かった。通いなれたオフィス、そしていつも顔を合わせていた同僚たちの顔も見える。恐れられたお局としての存在でありながら、彼の心の中には優しさの灯りが燃えていた。
「よし、やってやるしかない！」
新しい日常が始まる。通りに出ると、早速、若手社員たちが視線をそらして通り過ぎていく。彼の心に、優しさを持ち続ける決意が芽生える。恐れられることに屈せず、彼は少しでも彼らを助けることができたらと思っていた。
ある日、一人の新人社員がミスをして泣いている場面に遭遇してしまった。彼女は、「鬼塚さんに怒られる」と怯え、頭を抱えていた。和夫はその姿に胸が痛んだ。優しかった頃の自分を思い出し、行動を起こすことにした。
「大丈夫だよ、とにかく頑張ってみよう」
鬼塚の声が意外にも優しく響き、彼女の目が驚く。しかし彼の持つ温かさに少しずつ心を開き始め、次第に心の壁が崩れていった。和夫の優しさは、周囲に少しずつ影響を与え始める。
しかし、彼の行動がもたらす影響には、まだ気づいていなかった。徐々に鬼塚の姿に当てはまるようになっていく自分、そして周りの人々との関係。その変化は、これからの展開を予感させるものであった。
耳に残る不安を抱えつつも、佐藤和夫は、お局として、そして心優しいおじさんとして、これからの生活に向かった。「このままじゃ終わらせない！」彼の心の中で、何かが目覚め始めていた。
そして、彼の新たな職場での生活が、徐々に、大きな波を引き起こすことになる。優しさは恐れを克服し、人々の心を動かしていくのだった。
