36-5.予想外の展開
「長老と?」
「ええ。あの後すぐにね。
長老からお声がかかったの。
私、びっくりしちゃった」
どうやら長老は、私とセフィ姉が帰ったすぐ後に、エルお姉ちゃんを呼び出して話をさせたらしい。
内容はもちろんセフィ姉の事だ。
あとついでに私の話もしたんだとか。
「ごめんなさい、アルカさん。
実はプロポーズの事、長老に話してしまったの」
「それは別に良いんだけど、何でまたそんな話に?」
「それはその……私がはしゃぎ過ぎちゃって」
つい口を滑らせてしまったのかしら。
意外とエルお姉ちゃんって、うっかりさんなのね。
「そしたら長老が色々教えてくれたの。
アルカさんの活躍とか、ルネルとの生活についてとか。
ふふ。あの日は遅くまで盛り上がってしまったのよ♪」
なんか恥ずかしい。
そういう話を改めて聞かされてしまうと。
というか長老、一体何処まで知ってるのかしら。
滞在中の行動は筒抜けだったりするのかな?
流石に無いか。ルネルから聞いた内容って意味なのだろう。
ルネルが何をどこまで話したのかも気になるけど。
「それで、エルお姉ちゃんもより興味を持ってくれたのね」
「ええ。そうね。
そういう部分もあるかな」
「他にも大きな理由があるの?」
「それはもちろん、セフィと一緒に来てくれた時の事に決まってるじゃない」
そっか。他に何かあるわけじゃないのか。
勢いが凄いから、知らないキッカケがあるのかと思った。
「うん。わかった。
ならエルお姉ちゃんの気持ち、ありがたく受け取るね。
エルお姉ちゃん、ううん。エルヴィの準備が済んだ頃に迎えに来るね。
どう?どれくらいで来れそう?
ゆっくりで良いし、いっぺんに全部済ませなくても良いからね?
必要なら、暫く通ったりしても良いだろうし。
って、そういうのは長老から許可を貰ってからだよね。
とにかく、しっかり準備して進めていきましょう♪」
「なら早速長老の所へ行きましょう!
実はアルカが来たら何時でも来て良いって言われてるの!
それに、私待ちきれなくてもう殆ど準備しちゃってたし!
長老への挨拶が済んだら、すぐにでも引っ越せるわ!」
おっとぉ?
それは予想外の展開だぞぉ?
実は内緒で出てきてるから、今すぐ連れ帰っちゃうとまた怒られちゃうぞぉ?
『『『よそうどおり』』』
デスヨネ~。
「えっと、そうそう。
次長老に会う時は、ルネルを連れて行くつもりだったの。
だから、ごめんね?
長老への挨拶は、明日にしましょ?
明日また、セフィ姉とルネルを連れて出直してくるから」
「……」
無言で視線を合わせるエルヴィ。
どうしよう。すっごい泣きそうな顔してる。
流石に二度目の引き伸ばしは不味かったかしら……。
「あ!いや!でも!
やっぱり挨拶くらいしてこよっかな!
今日はまだ声かけてないし!
この国に来ておいて、長老に一言も無しってわけにもいかないもんね!
ルネルの件はまた後日にするわ!」
「アルカ!」
嬉しさのあまり飛びついてきたエルヴィ。
『『『あ~あ』』』
ぐぬぬ……。
結局観念した私は、エルヴィと腕を組んで長老の下を訪れた。
「そうかい。
おめでとう、アルカ。エルヴィ」
エルヴィの言う通り、長老は既に私達の事を把握していたようだ。
すんなり私達の関係を認めてくれた。
つい先日セフィ姉を連れてきたばかりなのに、すぐまたエルヴィとの結婚を告げられて、内心本当はどう思っているのだろう。
ルネルを連れてくるのは、その辺のご機嫌取り目的もあったのだけど……。
あかん!
罪悪感のせいか、長老の視線から何か違和感を感じる気がする!
そうだ!
ルネル呼んじゃおう!
今のルネルなら、もしかしたら勢いで許してくれるかも!
むしろ何も伝えないままの方が怒っちゃうよね!
長老が良いって言うならとは言っていたけど、何も無しだとそれはそれで怒るもんね!
私は勢いのまま、抱き寄せ魔法でルネルとセフィ姉を召喚した。
「!?」
突然飛び退る長老。
何故かその長老に向かって、ルネルが飛びかかった。
それは一瞬の出来事だった。
私の思考が追いついたのは、ルネルが長老を取り押さえた後だった。
「お主は誰じゃ!
レルネをどうした!!」
ルネルが聞いたこともない強い口調で長老を問い詰める。
「くっくっく。まさか私を捉える者がいるなんてね。
ニクスもなかなかやるじゃない」
「答えよ!さもなくば!」
「やめておきなさい。
この肉体は間違いなくお前の言うレルネのものよ。
私はこの者を繰っているに過ぎないわ」
「なんじゃと?」
「小春。私の目的はあなたよ。
あなたにご褒美をあげようと思ってね。
まさか、見抜かれるとは思わなかったけど。
あら?
そうでもないみたいね。
なによ。単なる偶然じゃない。
まあでも、それでこそ小春よね。
増々気に入ったわ。ご褒美は……そうね。
完全な神化なんてどう?
あなたまだ、中途半端な状態みたいだし。
それにしても不思議よね。
折角色々お膳立てしてあげたのに。
これは誰が邪魔した結果なのかしら。
今のニクス程度でどうにかなるとも思えないのだけど」
「あなた、誰?」
「ふふ。まだ気付かないのね。
前に名乗ったでしょ?
私は混沌ちゃんよ」
「……私の知ってる混沌ちゃんとは、随分話し方が違うみたいなんだけど?」
「ミーシャにお婆ちゃんなんて呼ばれたのがショックでね。
この話し方なら、そんな風に呼ばれる事もないでしょ?」
……本当に混沌ちゃんなの?
いや、今はそこを気にしてる場合じゃない。
本当に混沌ちゃんなら、真っ先に止めないといけない事がある。
「生憎、完全な神化には興味がないの。
というか、正直遠慮したいわ。
どうせなら他のものをくれないかしら」
「何が欲しいの?
言ってみなさい。
小春の願いなら大抵の事は叶えてあげるわ」
「……」
「あら?
思いつかない?
なら、」
マズイ!!
「ノルンよ!
ノルンを私に頂戴!」
「良いわ。その願い、叶えましょう」
私とノルンのパスが強化されたのを感じる。
直後ノルンとミーシャが現れて、私を守るように立ち塞がった。
ニクスはどうしたのかしら。
ニクスももう気付いてると思うけど……。
混沌ちゃんはノルンとミーシャには目もくれず、続けて私に問いかけてきた。
「もう一つは?」
「え?」
「今のは新しい生命の創造を成し遂げた事へのご褒美。
もう一つは、さっき私を驚かせてくれた事へのご褒美。
さあ、言いなさい。
でないと、神化させちゃうわよ?」
クスクスと笑う混沌ちゃん。
どうやら完全に遊ばれているようだ。
以前に会った時の、老成した雰囲気とはまるで別人だ。
口調と一緒に精神まで若返ったみたい。
どうしよう。混沌ちゃんが納得しそうなご褒美なんてすぐには思いつかない。
二度と私達に近づくなとか?
流石に無理よね。
下手なことを言って、即神化させられても困る。
なら、どうすれば……。
「五~♪」
な!?
「四~♪」
性格わっる!
「二~♪」
飛ばされた!?
「一~♪」
「混沌ちゃん!!」
「良いわ。ふふ。私が欲しいのね♪」
「え!?いや!ちが!」
「けれどざ~んねん。
丸ごとは無理よ。
流石に今回のご褒美にしては多すぎるもの。
あなたのえっと、分体?を一つ借りるわね。
そこに入るだけ詰め込んであげる♪
ふふふ。どんな私になるのか楽しみね♪」
混沌ちゃんの側に、いつの間にか私の分体が現れていた。
どうやらエリスと訓練していた分体を強制召喚したようだ。
既に私とのリンクは切れている。
完全に混沌ちゃんに乗っ取られているらしい。
何かが、奪われた分体に流し込まれた後、分体は少しニクスに似た雰囲気の少女に姿を変えて倒れ込んだ。
長老もいつの間にか意識を失っていた。
どうやら混沌ちゃんは既に離れていたようだ。
ルネルが長老を抱き起こし、長椅子の上に横たえた。
「アルカ!!何があったの!?」
ニクスが今頃になって慌てて飛び込んできた。
この様子だと、こっちの状況は掴めていなかったようだ。
混沌ちゃんによって、妨害されていたのかもしれない。
「混沌ちゃんが現れたの。
それで、その、その子、多分混沌ちゃんだと思う。
もしかしたら、その一部とかかもだけど……」
「本当に何があったのさ!?」
「神ニクス。場所を移す。後にせよ」
ルネルに従って、私達は自宅に戻る事になった。
エルヴィには長老を見ててもらう事になり、セフィ姉も付き添ってくれるそうだ。
私、ルネル、混沌ちゃん(仮)、三女神の六人で、私の部屋に転移した。




