36-4.様子見
取り敢えずマノンの事は暫くセフィ姉に任せるとしよう。
もちろん私も一緒に訓練には参加するけど、マノンの真の目的を考えたらあまり干渉しすぎるのも良くないはずだ。
その分私は、エリスと過ごす事にしよう。
セフィ姉がどこまで我慢できるかはわからないけど。
セフィ姉、意外と大人げないところもあるからね。
注意して見ておく事にしよう。
エリスと遊びに行くのは週末にしておくべきかな。
一日くらい休んでもと思ってたけど、エリスは訓練も大好きだから、むしろ本人が休みたがらないだろうし。
ともかく、訓練組はそれで良いとして、後優先するべき事はなんだろうか。
マノンとアニエスのフィリアスも決めてしまうべきかしら。
とは言え少し迷ってるのよね。
まだサンドラ王妃との話がついていない状況で、そこまで本格的に手を出すのも不味い気がする。
そんな事はあり得ないと思っているけれど、場合によってはマノンやアニエスをお返ししなければならない事だってあるかもしれない。
一応、今ならまだ元の生活に戻る事だって出来るのだ。
私が手放せないであろうという問題を無視すれば。
まあとにかく、そっちも少し様子見ね。
私の意思はどうあれ、礼儀としての猶予は必要だ。
あまり強引な事をしてしまえば、それこそ敵対の意思ありと捉えられても文句は言えない。
せめて話し合いが済むまでは、慎重に事を進めるとしよう。
一旦、エルお姉ちゃんの様子でも見てこようかしら。
本格的に迎えに行く時はセフィ姉とルネルに同行してもらうつもりだけど、その前に少しだけ顔を見ておきたい。
何時までに決めるかとかも約束してないし、エルお姉ちゃんがどの程度で答えを出せそうか見極めるのも重要な事だろう。
わざわざルネル達に来てもらっておいて、無駄足になってしまっては申し訳ないものね。
『いつもの』
『そうね。また言い訳こね始めたわね。
結局のところ、自分が我慢できなくなっただけなのにね』
『アルカは堪え性無いな~』
うっさいやい!
私は一人(+三人)でエルフの国に向かった。
そう言えばノアちゃんに外出申請しないで出てきちゃったけど、まあエルフの国くらいなら問題なかろう。
いくら私が巻き込まれ体質だろうとも、ここで悪さ出来る者がそうそういるとも思えない。
『むりすじ』
『巻き込み体質だから禁止されてるのよ』
『そういうのよくないと思うなぁ』
ごめんて。
少し挨拶したらすぐ帰るから。
『『『……』』』
うぐっ……。
『『『まあ、いいけど』』』
ありがと……。
エルフの国に近づいたところで、見張りの人達に早速貰ったばかりの許可証を提示したら、何故か笑われてしまった。
「今更そんな物出さなくたって止めたりしない!
アルカなら何時でも大歓迎だ!」
いやいや、見張りがそれは不味かろう。
まあでも、そう言ってくれるのは嬉しいけども。
エルフは義理堅く気の良い人達だ。
こうして何時まででも歓迎してくれる。
私、人間社会よりエルフの国の方が性に合ってるかも。
人間達は、すぐに手の平返してくるし。
良い方にも悪い方にも。
『何だか魔王にでもなりそうなセリフね。
いっそ魔王、名乗ってみたら?
数多の魔物を従える王なんだし』
ちょっと心惹かれるわね。
この世界の魔王とは意味が違うけど、先代魔王の後継いじゃおうかしら。
『ぼうけんしゃ』
『より』
『はくがつく』
『私もさんせ~!
冒険者アルカより魔王アルカの方が絶対格好いいよ!』
でも私、神の使徒でもあるのよね。
勝手に魔王名乗ったら、ニクスが怒るんじゃないかしら?
『それに何だか、ニクスが邪神みたいにもなるわね。
先代魔王の経緯を考えると』
そうだよ。
あの人、邪神に唆されて魔王名乗ってたんだし。
そう言えば、何で魔王だったんだろう。
別に魔物を従えていたわけでも、国を滅ぼして王に成り代わっていたわけでもないのよね。
そもそも、何かする前に討たれたっぽいし。
何時かアムルに聞いてみようかな。
ニクス、全然教えてくれないし。
『アムルの気持ちを考えたら、おいそれと聞ける事でもないけどね。
まあ、本人が乗り越えた後でなら話してくれるんじゃないかしら』
その頃には私が忘れてそう。
別に、そこまで強い疑問でもないし。
『案外、本人の自己申告だったんじゃない?
先代魔王はアルカの同郷だったんでしょ?』
それもいまいちハッキリしないのよね。
あの人は私を同郷だと認識してたみたいだけど。
そもそも、世界が無数に存在している事を知らなかったのかもだけど。
でも自己申告は有り得るかも。
なんかそういう事言いそうな雰囲気はあったよね、あの人。
魔王と化しても、狂いきれないというか、軽く冗談を言うくらいの余裕はあったのだ。
とにかく、まだ魔王を名乗るのは止めておきましょう。
何だか、先代に勝てる気がしないもの。
あの頃からずっと強くなったのに、未だに前を行かれてるような妙な感覚なの。
『トラウマってわけでもなさそうね。
まあでも、わからないでもないわ。
アルカ的には、勝ち逃げされたままだものね』
結局本気すら出さなかったもの。
クレアも同じ気持ちなんじゃないかしら。
そんな話をしている内に、エルお姉ちゃんの自宅に辿り着いた。
早速ノックしてみるも、反応がない。
どうやら外出中のようだ。
流石にいきなり過ぎたわね。
約束も無しに簡単に捕まるわけもないか。
取り敢えずドアに書き置きを挟んで、湖の方に向かってみた。
先日と同じ場所で会えたりしないかしら。
なんかそれはそれで素敵よね。
『『『……』』』
なによ?
『『『べっつに~』』』
こんにゃろ。
残念ながら、そう都合良くはいかないようだ。
湖の周りを少し歩いてみても、エルお姉ちゃんらしき姿はみつけられなかった。
そろそろもう一度家を訪れてみようかと振り返ろうとした所で、突然声をかけられた。
「アルカさん!」
「エルお姉ちゃん!」
振り返ると、少し慌てた様子のエルお姉ちゃんが駆け寄ってきた。
片手には、私の残した書き置きが握りしめられている。
どうやら、それを見て急いでここに来てくれたようだ。
良かった。すれ違いにならなくて。
まさか迎えに来てくれるとは。
「こんにちは。
ごめんね急に」
「ううん!
来てくれて嬉しいわ!
今日は一人だけ?」
「うん。先に少し様子を聞きに来たの。
ほら例の件、何時までとかも決めてなかったでしょ。
まあ、それを口実に会いに来ちゃっただけなんだけどね♪
なんだか我慢できなくて♪」
「嬉しいわ!
私も会いたいと思ってたところだったの!」
何か、凄く勢いがあるわね。今日のエルお姉ちゃん。
どうしたんだろう。興奮してるのかしら。
「やっぱり私、アルカさんと一緒に行きたい!
私の事も受け入れて下さるかしら!」
「もちろん!なんだけど……どうしたの?
なんか、エルお姉ちゃん少し変よ?
緊張してるから?」
慌てて出しちゃった答えじゃ、意味がないのだけど。
時間を置いたのはその場しのぎの為だけじゃなくて、エルお姉ちゃんに後悔してほしくないって気持ちも本心だもの。
「もう!アルカさんのせいじゃない!
アルカさんこそどうしてそんなに余裕があるのかしら!
二十六人もお嫁さんが居るからなのね!」
自分で答えを出してしまわれた。
なんかごめん。
「あ、ごめん、エルお姉ちゃん。
今はもう二十七人いるの。
だからエルお姉ちゃんは、二十八人目よ」
「……え!?
あれからたった数日よ!?」
「まあ、うん。その……」
でもほら、グリアはずっと前から家族だったから……。
今回ばかりは情状酌量の余地も……。ないすか……。
「とにかくうちに行きましょう!
詳しく聞かせてくれるかしら!」
「はい……喜んでお供致します……」




