36-1.機嫌の取り方
「う~あったま痛ぁ~い~」
「アルカ、昨日どんだけ飲んでたの?」
「共有してあげよっか~?」
「嫌だよ!」
「大声出さないで~
あとハルカも付き合って~」
「付き合うわけ無いでしょ!
アルカが何かやらかしたんじゃなければ、イロハが助けてくれたはずでしょ!」
「ちがうの~そうじゃないの~」
『私は酔覚ましかけてあげようとしたわよ?
ハルが拒絶しただけで』
「どういうこと?」
「ハルちゃんが~
二日酔い経験してみたいって~」
フィリアスであるハルちゃんは、二日酔いなんてしたくても出来ないのだ。
二日酔いしてみたいって意味分かんないけども。
まあ、そこはハルちゃんだし。
それでまあ、私との融合を利用して、私の痛みを共有しているのだ。
正気の沙汰とは思えない。
昨晩の私はノリノリでおっけーしてたけども。
ハルちゃんが望む事なら喜んで叶えるけども。
ぐぬぬ。根性~。
『ふへ』
『なかなか』
『わるくない』
「……バカなの?」
『変態よ』
あ、やっぱダメそ。
ハルちゃんの為だからって流石にあほらし過ぎる~。
「もう良いでしょ~治してよ~」
『まだダメ』
「そんなぁ~」
『今日はそのまま分体維持してみたら?
頭痛も九倍になるんじゃない?』
『ふへ』
『たのしみ』
「そんなのいやぁ~あ~!」
「もう!
バカやってないで、今日の活動始めるよ!
イロハ!さっさと治しちゃって!」
『りょ』
『あ!あ~~~』
「ふ~。ありがとう、ハルカ。
イロハちゃん。
どうしてハルカの言う事にはそんなに素直なの?
やっぱり少し話し合いが必要かしら?」
「もう!イロハに絡まないでよ!」
「うっ……ごめん……」
『何時までハルカに嫉妬してる気よ。
いい加減慣れなさいよ。
そんなに私の事が信じられないの?』
「そうじゃないけどさ……」
「はいはい。イロハもそこまでにしてあげて。
ほら、起きてアルカ。支度して」
「は~い」
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「おはよう。
来たわよ、ルネル」
「ああ。もうそんな時間じゃったか」
朝の見送りを済ませた後、へスティの件で話を聞こうとルネルの家を訪れると、お疲れ気味のルネルが出迎えてくれた。
「珍しいわね。
まだ起きたばかりだった?
まさかルネルも二日酔い?」
「なわけなかろう。
ヘスティが部屋から出てこんのじゃ。
あやつ、大泣きした事を恥じているようでの」
あらら。
酔ってる間の事覚えてるタイプだったか。
それは暫く出てこれそうにないわね。
「なら日を改めるわね。
悪いけど、暫く預かってもらえる?」
「むう……しかたないのう」
流石に投げ出せなかったか。
散々飲ませたのはルネルだもんね。
とは言え、かなり渋々だ。
「そうそう。
頼まれてたお酒も持ってきたわ。
ここに出しちゃって良い?」
「うむ」
良かった。
あっという間に機嫌を治してくれた。
今後も定期的に貢に来るとしよう。
結局ヘスティの話を聞くこともなく、そのままルネルの下を後にした。
「さてどうしよっか。
マノンとの約束を先に果たしちゃおうかな」
『何でそういう事だけ覚えてるの?』
『いっしゅうかん』
『たのしみ』
『してた』
『むしろ真っ先に行きたいわけね。
ハルカの事で私に文句言うくせに、自分は愛人との逢瀬を楽しんでるんじゃない。
ノア達に言いつけるわよ?』
「ごめんなさい。それだけは許して下さい」
『なら私とハルカの事に一々口出さないで』
「それは無理よ。
イロハは私のだもの」
『あんたねぇ……はぁ。
まあ良いわ。別にやましい事なんてしてないし。
何れアルカだって落ち着くはずだものね』
「私が言うのもアレだけど、イロハって心が広いのね」
『……やっぱ言いつけてやろうかしら』
「ごめんなさい」
『いい加減、謝ってばかりなのはやめなさい。
本当に私をアルカのものだと言うのなら、命じてしまえばいいじゃない』
「……流石に自分が我儘言ってる自覚はあるもん。
イロハが私を裏切るわけないってわかってるんだもん。
命令なんて必要ないんだもん」
『まったく。
なら好きになさいな。
落ち着くまで付き合ってあげるわ』
「うん。ありがとう。イロハ」
『なるほど。
イロハはそうやって落とせば良いんだね。
アルカの手口は参考になるね』
『むり』
『アルカ』
『しぜんたい』
『イロハ』
『アルカのしこう』
『みたうえで』
『おちてる』
『そっかぁ~。
流石に真似できる気がしないなぁ……。
私とアルカってほぼ同一存在なのになぁ』
『しかたない』
『せいしんは』
『ちかいだけ』
『でも共有は問題なく出来てるんだし、本当にかなり近いはずなんだけどね』
『ハルカ、いい加減にしなさい。
私の眼の前で、何を堂々と話してんのよ』
『ねえねえ、イロハ。
何で私がアルカの真似出来ないの?
私もイロハ、メロメロにしたいんだけど』
『はぁ~。なんでそれを私に聞くのよ……』
『だってイロハなら知ってるし』
『……アルカとハルカは厳密には同じではないわ。
単に技術面を共有しやすいよう調整してあるだけで、全ての精神性が完全に一致しているわけではないの。
それに……そもそも私がアルカとハルカに向けている感情が違うもの。
受け取り方だって違うに決まってるじゃない……』
「『『……』』」
『……これで満足したわね!
もうこの話は終わりで良いわね!』
「『『……』』」
『何よ……』
「『『かわいい』』」
『うっさい!』




