35-49.種族の違い
「「「「「すみませんでした!」」」」」
「……話せ」
アムル、私、ニクス、セレネ、ノアちゃんの五人は、ルネルに向かって頭を下げた。
アムルが目の前に現れた瞬間、直前まで笑っていたルネルの顔から表情が抜け落ち、次第に怒りの気配を滲ませ始めたのだ。
ルネルの事だから、初めてアムルが復活した時点でその存在に気付いているものと思っていたのだけど、どうやらそうでもなかったようだ。
流石のルネルでも、とうに亡くなったはずのアムルが生き返っていたなどと、想像もしていなかったらしい。
だと言うのに、折角気持ち良く飲んでいるところに爆弾を放り込んでしまった。
これはルネルが怒るのも無理はない……。
いやまあ、怒ったのはそこじゃなくて死者蘇生に手を出した事だろうけども。
ルネルの求めに応じて、アムル復活の経緯を話し始める面々。
「という事で、記憶を持ったまま転生を果たしただけとも言えるから……」
「……そうじゃの。神ニクス。
お主がそう定義するのであれば、わしが物申す事でもないのじゃろうな」
どうやら怒りは収まったようだ。
とはいえ、笑顔が戻ったわけでもない。
なんというか、どう反応して良いかわからないのかも。
今のルネルからはそんな印象を受ける。
一応アムルは、輪廻の流れに沿って神の座に一旦戻った上で新たな肉体を与えられたわけなので、記憶こそ維持しているものの、概ね普通の輪廻転生と大きな差はないらしい。
まあ、ニクスが特別に自らの側に置いていた事からして、特別扱いだったのは間違いないけれど、流石にそこまではルネルが叱るような事でもないだろう。
そもそもルネルが怒りを覚えたのは、主犯が私だと思ったからのはずだ。
別に私の事を目の敵にしてるとかじゃなくて、自分の愛弟子が性懲りもなく倫理観の欠如した行動を起こした事に大して怒っていただけだ。
その部分が誤解だった以上、ルネルとしても怒る理由などないのだろう。
とは言え、それはそれとして素直に受け入れ難い部分もあるっぽい。
まあ、気持ちはわかる。
ルネルがこの手の禁忌に触れる事を嫌っているのは私もよく知っている。
けれど、ルネルからしたら責めるべき相手も理由もないのだ。
神様が輪廻転生に少し手を加えたからって、目くじら立てて叱りつける程の事じゃない。
ルネルはそう考えているのだろう。
それもまた、ルネルなりの正しさ故なのだろう。
「ルネル。
このような流れで言うのは心苦しいのですが、それでも再びこうしてお会いできた事は、嬉しく思っています」
「……そうじゃのう。
すまんな。妙な空気にさせてしもうた。
お主も付き合うがよい。
先ずは飲んで語らおう。全てはそれからじゃ。
それと、まあ、あれじゃ。
わしも再会を嬉しく思っておる」
「はい!ルネル!」
どうやら落ち着いたようだ。
良かった良かった。
「アルカ」
「なに?ノアちゃん?」
「私の用事は済みましたので、先に抜けさせて頂きます。
アルカも忘れずに来てくださいね」
「ああ、うん。もちろん忘れてないわ。
そろそろアリア達の勉強も終わってる頃だものね」
あぶないあぶない。
ぶっちゃけ忘れてた。
こっちには分体を残して、私もニクス世界に戻るとしよう。
これからニクス世界でも、昨日の続きのルイザちゃん歓迎会の為の作戦会議を開かなくちゃだ。
何ならもう、私の部屋に集まってるかも。
それくらいギリギリの時間だ。
と言うかノアちゃん、浮かれルネルを見に来たわけじゃなかったのね。
わざわざアムルとルネルの再会に立会に来るなんて、流石ノアちゃん。真面目よね。
私はその場に身代わりの分体を残してから、ノアちゃんと二人で早々に飲み会を抜け出し、ニクス世界に帰還した。
「おっそ~い!!」
戻るなり、私の体に馬乗りになっていたアリアから詰め寄られた。
どうやら、起こそうとしていたらしい。
残念ながら、私世界に潜っている間はその方法じゃ起きれないのよね。
今後は、私世界で活動するのは分体だけにしようかしら。
わざわざ肉体を放置しておく必要も無いんだし。
「ごめんごめん。
早速始めましょう」
私はアリアに手を引かれて体を起こし、昨日と同じようにノアちゃんを膝に乗せた。
更にリヴィがノアちゃんの膝に収まった。
私はリヴィの方まで手を伸ばして、二人まとめて抱きしめる。
ふふ。やわやわ。
「それじゃあ始めるわ!
先ずは昨日の続きからね!
各自考えてきた事を教えて!」
あかん。何も考えてない。
「最初は何も考えて無さそうなアルカから!」
「なんでよ!?」
「それはどっちです?
何も考えてなさそうの方ですか?
それとも、最初に指名された事に対してですか?」
私は無言でノアちゃんの脇腹をくすぐり始めた。
膝の上にリヴィがいるからか、単に満更でもないのか、きゃっきゃと笑いながらも大きく動かないよう耐えるノアちゃん。とってもくすぐりやすい。
暫くくすぐって意地悪ノアちゃんを成敗した後、再びリヴィとまとめて抱きしめた。
「時間稼ぎは十分でしょ?
さあ、アルカ。案を出してくれる?」
ノアちゃんがくすぐられている間、気にも止めずにカノンから意見を聞いていたアリアが、こっちに再び話を振ってきた。
そう言えば、今日はレーネいないのね。
ああ、そっか。
レヴィとルビィを見てる人がいないからか。
レーネは子供達から大人気のお姉さんだものね。
やっぱりふかふかが良いのかしら。
そういえば、レーネよりレヴィの方が年上なんだよね。
種族違いで成長度合いが正反対だから忘れがちだけど。
人魚は成長が早く、エルフは成長が遅いのだ。
どちらも数百年は生きられる点に違いは無いのだけど。
たぶん、エルフの方が安全だからなのだろう。
もしくは、人魚が厳密には魔物寄りの存在であることも関係してるのかも。
ドラゴンであるリヴィも、成長速度が人よりずっと早かったし。
そういう違いも取り込んだ人生ゲームとか作ったら面白いかも。
「ボードゲーム大会なんてどうかしら?」
「良いわね。けど似たような案はもう出てるわ。
ボードを付けて、絞り込んだだけじゃない」
ホントだ。ゲーム大会はもうあったのね。
オセロとか以外にも、トランプとかビンゴ大会とかも注釈書きされてる。
うっかり見落としてたわね。
まあ、無理も無いよ。
もうホワイトボードいっぱいに書き出されてるもん。
これ以上の案は必要無いんじゃないかしら。
「アリアが作ってみたらどう?
私達家族には沢山の種族が集まってるから、皆の話を聞いて参考にすれば、少し変わった人生ゲームが作れると思うの。
上手くすれば、家族を紹介する事にも繋げられるかもね。
流石に人数が多すぎて、一度に全員で会うわけにもいかないだろうしさ。
それに人魚も吸血鬼も、ルイザちゃんは聞いたことも無いだろうから、事前に怖くないよって教えてあげたりとかも出来ると良いかな」
「良いわね!面白そう!」
良かった。アリアも乗り気になってくれたようだ。
「流石ね!小春!
そういう話なら私も力になれるわ!
◯鉄もマ◯パもやり込んでたし!」
前世ツムギはお友達いっぱいいたのかな?
まさか、一人プレイじゃないよね?
そのまま会議の内容は人生ゲームの内容にシフトした。
どうやら他の案と協議するまでもなく本採用らしい。
ゲーム作りはアリア達に任せて、私もお菓子作りくらいはしておこう。
丁度、最近サナ達とも家事をするようになったところだし。
「流石に時間無いから、出力はシーちゃんに任せましょう。
どんなゲームにするかと、各マスの内容とかはアリアとツムギが中心になって話し合ってみてね」
「うん!やってみるわ!
ツムギお姉ちゃんもよろしくね!」
「……じゅるり。
アリアたんと共同作業~♪」
「ツムギ、アリアに手を出したら追い出すわよ」
「あはは~!
そんなわけないっしょ!」
「ステラ、見張りよろしくね」
「承知いたしました。必ずやお守り致します」
「もう!何もしないってば!」




