35-46.似た者同士
「~~~♪」
アリスが最初に私達を連れてきたのはカラオケ店だった。
どうやらアイドルライブで火が付いてしまったようだ。
このまま自分もやるって言い出さないかしら。
もしそうなったら、メアとナハトも一緒にやってみる?
『『やっ!』』
あ、はい。
そうよね。二人共柄じゃないものね。
というか、メアの声初めて聞いたわ。
そんなに嫌だったのね。
『さいきん』
『たまにしゃべる』
『せいちょうした』
なるほど。
それは良い事だ。
ならいっそ、次はアリスと一緒に居てもらおうかしら。
本当はアニエス達の相方にどうかと思っていたけど、あっちは私の側を離れる事になりそうだし、アリスのお供ならそういう心配もないものね。
それに何より、アリスとなら明るく楽しく過ごせそうだ。
いっそナハトもセットで付けてあげようかしら。
最近のアリスはヘスティが気がかりで、私世界の発展にはあまり手が回ってないっぽいし。
どう?
二人は、どっちが良い?
アニエスかマノンと契約して、ムスペルに行ってもらうのと、アリスの付き人として私世界の管理者になるのと。
『『アリス』』
即答ね。
ならお願いしようかな。
『今の質問は意地悪じゃない?
そんなの、この二人がどっち選ぶかわかってたじゃない。
それに、二人の成長を見逃したくないなら、素直にアルカの側付きとして置いてあげたら?』
仕方ないじゃない。
私には既にハルちゃんとイロハがいるもの。
きっと私の側じゃ、二人の成長の妨げになってしまうわ。
折角良い調子なんだから、このまま誰かに預けるべきだと思うの。
『まあそうね。
アリスは術の制御もまだまだ甘いし、いっそ契約もさせてみたら?』
出来るの?
『むむ』
『りろんじょうは?』
『いやでも』
『大丈夫よ。私がサポートするわ。
アルカの精神体への同化が出来るのだから、アリスとも契約も同化も出来るはずよ』
なるへそ。
私関連の技術の進歩は、アリスにも応用出来るのか。
あれ?
つまりハルカにも?
『ハルカはダメよ。
私が認めないわ』
もしかして独占欲?
『イロハママ』
『きびしい』
『おめがね』
『ハードル』
『てんじょう』
なんなら、イロハが契約してみる?
いっそ融合しちゃうって手も。
『……わるくないわね』
まじで?
冗談だったのに。
というか、私との融合断っておいて、どういうつもり?
『違うわ。そうじゃない。
アルカとはしたくても出来ないのよ。
けどハルカなら話は別よ。
それにハルカと融合する事で、間接的に私の経験を伝授できると思うの。
そうすれば、ハルカの修行だって一気に短縮出来るわ。
当然それは、アルカに引き継げるものね。
本当に良い手かもしれないわ』
うむむ。
嘘ではないだろうけど、何かイロハの態度引っかかるわね。
まるでそうしたいから慌てて理由を用意したみたい。
浮気はダメよ?
『どの口で言ってるのよ!
別にそんなんじゃないわ。
ただ、ハルカの頑張りに報いてあげたいだけよ。
仕方ないでしょ。
何千年も一緒に修行してたら、そう考えるのも変な事じゃないでしょ』
……何千?
どういう事?
そんな話聞いてないし、フィードバックも受けてないわよ?
『……』
イロハちゃ~ん?
いつの間にそんなに潜ったのかな~?
『イロハを虐めないで、アルカ。
私が無理言って付き合ってもらったの。
ごめんなさい。悪気は無かったの。
けど程々にって言われてた手前、言い出せなかったの』
まあ良いけどさ。
それを役割としてハルカを生み出したのは私達なんだし。
別に文句を言うつもりも、厳しく制限するつもりも無いよ。
それがハルカのやりたいことでもあるものね。
だから、せめてちゃんと報告してね。
『うん』
今後は隠し事は無しよ。
気付いたらハルカが私の知ってるハルカじゃなくなってたとか嫌だもの。
『うん。わかった。
ごめんなさい。
溜めてた分、アルカにも共有するね』
早速ハルカから経験が送り込まれてきた。
今回は随分と多いわね。
最初の千年と違って、ハルちゃん因子も目覚めた後だから尚の事だろう。
と言うか、数千年って事はもしかして、今の私はハルちゃんを越えてしまったのだろうか。
後でちょっと試してみよう。
とにかく、私としては有り難い事だけど、内緒で鍛えすぎたせいで共有出来ないんじゃ本末転倒だわ。
私だってハルカの頑張りにお礼を言いたいし、褒めてあげたいのだ。
『ありがとう、ハルカ。
いっぱい頑張ってくれたわね。
その事は本当に嬉しいと思ってるわ。
だから、これからもお願いね』
『うん!』
それにしても、全然違和感を感じられなかった。
ハルカとイロハも記憶のバックアップはしてたんだろうけど、それにしたって……。
『当然よ。
私は元々長い時を生きてるし、ハルカの心は私が産み出したんだもの。
しかもアルカっていう半神まであったのよ。
長い時で摩耗しないよう作ってるに決まってるじゃない』
『イロハ。
都合が悪くなると黙って最愛の娘に弁解を任せた上で、状況が良くなると調子に乗るのはどうかと思うわ。
あなたはもっと反省しなさい。
ハルカにはああ言ったけど、時には我慢も必要よ。
それを教えるのは、親であるあなたの役目よ。
その事を肝に銘じておきなさい』
『……ごめんなさい』
よかった。
流石に反省してくれたようだ。
イロハが私の言葉に素直に謝ってくれるなんて珍しい。
ハルカの存在は、それだけイロハにとって大きいのだろう。
融合、どうしようかな。
イロハにそんなの許したら、ハルカとイロハだけで……いや、流石に無いとわかってるけども。
とにかく、決断は少し時間を置いてからにしよう。
そもそも、今は私とハルちゃんの側を離れられないものね。
融合しなくたって、その内ハルカがイロハから学ぶ事もなくなるかもだし。
そうすれば、そもそもイロハの言っていた口実は無くなるのだ。
まあ、イロハもハルカを見ながら修行を続けてるみたいだし、追いつくのは難しいかもだけど。
何にせよ、そこまで慌てる事でもない。
ゆっくり慎重に進めていくとしよう。
誰一人欠けること無く永遠を共に生きるつもりなんだから。




