35-41.母と娘
今回はセレネ視点のお話です。
「どうだったの?
グリアさん」
グリアさんがアルカの下から帰ってきた。
私はアルカからも逐一報告を受けていた。
改めて結婚を申し込む事も、それが受け入れられた事も。
つまり、この質問の答えはもう知っている。
とは言え、グリアさん本人から聞くことにも意味がある。
こういう事なら尚更だ。
それにしても随分遅かったわね。
アルカが結果報告をくれたのはもう半時近く前の事だ。
グリアさんは今まで頭を冷やしていたのだろう。
冷静になるのにそれだけ時間がかかると言う事は、グリアさんの中で間違いなく大きな決断だった証左なのだろう。
「……受け入れたとも」
「そう!それは良かったわ!
これからずっとグリアさんとも一緒にいられるのね!」
「……そこは要相談だ。
母様の庇護の礼に残りの生涯を費やすのはやぶさかでもないが、それが永遠では些か過剰というものだ」
「またそんな言い方して。
グリアさんったら、素直じゃないんだから。
本当はグリアさんだって口実が欲しかったんでしょ?
アルカのお嫁さんになるための」
「滅多なことを言うものではないよ。
それではまるで、私が弟と実家の破滅に便乗したかのようではないか」
「そうね。言葉が過ぎたわ。ごめんなさい」
「……まあ、君の推測もあながち的外れではないがな。
少なくとも、母様の件は大して心配していないよ。
アルカ君が手を回してくれたのだ。
最悪の結果にはならんとも。
それくらいの事は、私だって信じているのだよ」
「お母様の今後は?」
「猶予付きの取り潰しだ。
本当に寛大過ぎる処置だな。
これではアルカ君に頭が上がらなくなってしまうではないか」
「そんな風に気にする必要は無いわ。
いっぱいお尻に敷いてあげて」
「そんな役目は君等に任せるよ。
君等と一緒になって、アルカ君の取り合いする気になどなれんのでな」
「別に取り合ってるわけじゃないわ。
アルカは当然として、私達全員の精神性を正しい位置に置くために必要な儀式ってだけよ」
「それが説教とは、随分と回りくどい手段だとは思わないのかね?」
「そういうものよ。
人で在り続けるっていうのはね」
「まあいい。君達の好きにしたまえ。
私も好きにさせてもらう」
「永遠の回避は不可能よ。
アルカは決して自分の伴侶を手放したりはしないわ」
「もう十分いるではないか。
私一人、今更執着する必要も無かろう」
「思ってもない事言わないで。
グリアさんが、アルカの事をそんな風に甘く見てるわけないじゃない」
「やはり今からでも断ってくるべきだろうか」
「それこそ思ってもない事でしょ」
「君は本当に変わったものだね。
初めて出会った頃は、もう少し可愛気のある性格だったと記憶しているのだが」
「お母さんの教育の賜物よ♪」
「私ではなく、アルカ君の方ではないかね?」
「何言ってるのよ。
確かに二人共がお母さんではあるけど、私に手本を示してくれたのはグリアお母さんの方じゃない」
「反面教師という言葉もある。
アルカ君からの学びが無かったわけではあるまい」
「もちろんよ。
アルカから得たものだっていっぱいある。
そんなの当然の話よね。私はアルカの娘で伴侶だもの。
だからこれは、グリアさんからもそれと同じくらい学ばせてもらったって話よ。
だってそうでしょ?
グリアさんとも、母娘だけの関係だけではないのだもの」
「……勘弁してくれたまえ」
「そうね。今だけは見逃してあげるわ。
グリアさんを落とすのは、諸々落ち着いてからにしましょう」
「何を言われようと私にその気はない。
今もこれからもだ」
「落とし甲斐があるわね♪」
「どうやら教育を間違えたようだ。
母の一人として、不甲斐ない限りだ」
「こればかりはグリアさんのせいじゃないわ。
もう一人のお母さんの影響だし」
「君の場合は元々ではないかね?」
「かもしれないわね。
きっと類友ってやつよ。
グリアさんも含めてね」
「……」
「もう。そんな目で見ないでよ。
アルカに惹かれてる時点で、言い訳のしようがない事でしょ?」
「……そうだな」
「ふふ。やっと素直に認めてくれたわね」
「ふん!
そうでなければプロポーズなど受けんよ!
例えどんな恩や打算があろうともな!」
「グリアさん、顔真っ赤よ?」
「うるさい!
そういう事は口にするもんじゃぁないよ!」
「まだ素直になるには時間がかかりそうね」
「だから君は!
……いい加減、この話は終わりだ。
何時までも無駄話を続けている余裕はないはずだ」
「そうでも無いかもしれないわよ?
ルスケアの解体が成されるなら、何かしらの影響はあるかもしれないし」
「推測塗れの希望的観測だな。君らしくもない。
……ところで、何故君がルスケアの件まで知っているのかね?」
「……さ、お仕事お仕事♪」
「……まったく」




