35-39.着地点
「理事長先生が?」
「うん。出来れば今日にでも来てくれって」
学園が終わって帰宅したアリアが、制服姿のまま私の部屋を訪れた。
ところで、なんで同じクラスのルイザちゃんより遅いの?
あなたまさか、寄り道でもしてたの?
そんな伝言を預かっておきながら?
そもそも、なんで念話で伝えてこなかったの?
「私もさっき聞いたの。
放課後になって、理事長先生に呼び出されてね。
だからルイザより遅くなったのよ。
それに、念話で伝えるのも、こうして直接転移して話にくるのも大して変わらないでしょ?」
「なるほど。
ごめん。アリア」
「アルカったら、私の事なんだと思ってるのかしら?」
「世界一可愛い私のお嫁さん」
「もう。仕方ないなぁ~」
照れてクネクネしてる。
チョロ可愛い。
「いやでも、世界一?
そんなんじゃ足りなくない?
あらゆる世界の中で、最も可愛い存在がアリアなのだと言い切れるわ。
この場合なんて言うべきなのかしら。
私のアリアったら、可愛すぎて言い表せる言葉が思い浮かばないわね」
「も~お~!何言ってるの~!
流石に恥ずかしいよ~!」
とか言いつつ、満更でも無さそうだ。
クネクネ度合いが増している。
『はいはい。
何時までもアリアで遊んでないで行くわよ。
アリアも、ルネルを待たせていても良いのかしら?』
「やっば!」
慌てて駆け出そうとするアリア。
「待って!」
私はアリアを抱き寄せて、そのまま思いっきり抱きしめた。
「ぎゅ~~~~!!!
よし!補充完了!」
家族以外と話すと、どうしてもメンタル削れるからね。
お母様との話も、今回ばかりは楽しいだけでもないだろうし。
こうしてアリアニウムを補充しておかないとだ。
「なら私も!」
今度はアリアから抱きしめてくれた。
アリアも私から何かを取り込んでいるのだろうか。
「今週末、ルイザちゃんが遊びに来る事になったから。
今晩寝る前にでも、秘密の作戦会議しましょうね」
「なにそれ!?
ルイザと何話したの!?」
別に何も話してないけど、そう言ってもすぐには納得すまい。シクシク。
経緯の説明も作戦会議の時にするとしよう。
「後でね~♪
ルネルが待ってるわよ~♪」
私はアリアの返事を待たず、アリアを自室に転移させた。
もういい加減着替えて訓練場に行かなきゃだし、アリアもこの状況で戻って来る事もないだろう。うんうん。
「ダメ!今すぐ!」
戻ってきちゃった……。
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「急に呼び出してしまってごめんなさいね。
アルカちゃん」
流石のクリスタさんも少しばかりやつれて見える。
息子の逮捕があったばかりなのだし当然だ。
理事長や貴族としての立場にも、随分と影響があった事だろう。
いくら減刑が成されたとは言え、こればかりは私達にも手の出しようがない。
せめてサマラス先生が噛みつかないよう、リリカに抑えてもらうくらいはしておくけど……。
「いえ。
お母様からのお誘いであれば、何時でも伺います。
それより、少々体調が優れないように見えます。
少しでもお休みになられ方がよろしいのでは?」
「ふふ。ありがとう。
けれどそうも言っていられないの」
「私でお力になれる事があれば、何でも言ってください。
お母様には沢山お世話になっていますから」
「あらあら。そんな事を言って良いのかしら?」
「はい。
私に出来る事なら何なりと」
私の言葉を聞いて、少し考え込むクリスタさん。
早速何か頼みたい事があるのかしら。
「なら正直に答えて下さるかしら?
先日この王都で起きた大捕物について、アルカちゃんはなにかご存知?」
……どこで感づいたのだろう。
私の関与を匂わせる証拠は何一つ残していないはずだ。
それとも単に、話の前フリとしての確認をしてるだけなの?
わからないけど、慎重に答えなきゃ。
万が一にも、私の関与に気付かれるわけにはいかない。
クリスタさんの立場からするなら、私は恩を仇で返したのだと思われても文句は言えないのだ。
手段を選ばなければ、もっと都合の良い着地点なんていくらでもあったんだから。
けれどそれでも、私はクリスタさんに何も言わずに息子さんを逮捕させたのだ。
あの判断を間違いだとは思わないけど、開き直って話して良い事ではないはずだ。
「……アリアから御子息が捕縛された件は伺いました」
「……そう。
ごめんなさいね。変な事を聞いて」
あっさりと引き下がるクリスタさん。
「いえ。そんな。
私に話せる事であれば、どうぞお話を。
他者に聞かせる事で、楽になる事もあるかもしれません」
「……ありがとう。
けれど止めておくわ。
きっとアリアさんが聞いた話は全て真実よ。
私も何時までこの職についていられるかはわからないけど、アリアさん達に影響は無いようにします。
どうか今後も信じて任せて頂けるかしら?」
「はい。お母様の事は信頼しております。
今後とも、どうか宜しくお願いします」
「……そう。良かったわ。
今日話したかったのはそれだけなの」
「その……グリアには……」
「あら?
まだ伝えないでくれていたのね?」
「はい。必要なら私から伝えておきます。
そうでなくとも、グリアは現在我が家を離れて活動しておりますので、近い内に本人も情報を掴む事でしょう」
「それは……」
「あ!いえ!
ご安心ください!
グリアと仲違いしたという話では無いのです。
今は以前のように聖女の活動を補佐してもらっています。
グリアの性格的に中々毎日というわけにもいきませんが、定期的に我が家に帰って食事も共にしていますし、変わらぬ付き合いを続けていますから」
「そう……。
ならもう一つお願いしても良いかしら?」
「なんなりと」
「やっぱりグリアちゃんを貰って下さらないかしら。
正直、我が家はもう後が無い状況よ。
グリアちゃんがもし一人になってしまっても、帰る場所が無くなってしまうの。
だからどうか、安心させて頂けると嬉しいわ」
「……わかりました。
グリアと相談の上でお返事します。
お母様も、この国でのお役目を終えた際には是非我が家に来て下さい。
ご希望なら、近場にグリアと住める家もご用意します」
「あらあら。
ありがとう。アルカちゃん。
とっても嬉しいわ」
ようやくクリスタさんの笑顔が見れた気がする。
社交辞令じゃなくて、本気の誘いと信じてくれると嬉しいな。




