35-36.良い終わり
「久しぶりの故郷はどうだったかしら?」
「何もかも変わりなく驚きました。
そして、何より安心しました」
「そうかい。
ふふ。長く外に出た者達は、皆同じような事を言うねぇ。
それだけ外の暮らしは慌ただしいものなのかしら」
「ええ。この国とは全然違います。
人も物も、あっという間に移り変わっていきます」
「セルフィーはどちらの方が好きなのかしら?」
「……選べません」
「そうかい。ふふ。
それは良かったわ。
なら、これからは何時でも帰って来られるわね」
「……ですが」
「これを渡しておくわ」
「え?」
長老が差し出したのは、絵馬みたいな木製の板だった。
何やら紋章が掘ってある。
「これは通行証よ。この国のね。
本当はセルフィーにこんな物は必要ないのだけど、それではセルフィーが納得出来ないのでしょう?
なら、これを受け取ってくれないかしら。
私からの結婚祝いと思ってね」
「……はい。ありがとうございます。長老」
涙を滲ませながら、長老の差し出した通行証を恭しく受け取るセフィ姉。
セフィ姉が素直に受け取ったのは、今日一日があったからこそだろう。
というか、エルお姉ちゃんとのやり取りがなければ、多分受取を拒んでしまったと思う。
長老はそれらを見越して帰り際に渡してくれたのだろう。
これが真の大人というものなのかしら。
『今日のあんたらは、とても大人とは呼べない何かだったものね』
言われなくてもわかってるよ!
「アルカの分もあるの。
ルネル様には内緒よ」
長老は悪戯っぽい笑みを浮かべながら、そう言って私にも差し出してくれた。
さっきのセフィ姉に対する態度とは打って変わって、子供っぽい表情だ。
いやむしろ、こうやって自らの意思で使い分けてこそ、真の大人と呼べるのかしら?
『先は随分遠いわね』
勉強になります。
「ありがとう!!長老!とっても嬉しいわ!
けど、ルネルに内緒ってなんで?」
「アルカはルネル様のお気に入りだもの」
えっと、つまり、横から手を出したと思われるって事?
まあ、うん。
ルネルはそういう事気にするわね。
結構子供っぽいところあるし。
「何れバレるんじゃない?」
「その時はその時よ」
これはむしろ、ルネルに悪戯したいのかしら。
もしバレても、問い詰める為にルネルが帰って来るなら、それはそれで嬉しいのかも。
最近うちに籠もりきりだから、全然こっちには帰ってないんだろうし。
「今度ルネル連れてくるね♪
なんか口実考えて、口裏合わせておきましょう♪」
「あらあら。ふふ」
長老は無邪気に見えるくらい嬉しそうに笑ってくれた。
けれど、私の提案には乗ってくれないようだ。
私一人で成し遂げて欲しいという事なのだろう。
ルネルを慕っているのと同時に、ルネルを敬ってもいるので、あまり迂闊な事はしたくないのだろうし。
取り敢えずセフィ姉と、もしかしたらエルお姉ちゃんとも一緒に、ルネルを引きずってくる作戦を考えなきゃだ。
長老にいっぱいお礼したいしね♪
いっそ早く強くなって、ルネルを負かせば何時でも連れて来れるかも。
『任せといて!
何億年だって修行しちゃうよ!』
いや、あの、程々にね?
ハルカがルネルみたいになったら嫌だよ?
いや別に、ルネルは好きなんだけど、それはそれとしてね?
まあ、私の素質だと本当に億年単位で修行しないとルネルに追いつけ無さそうなんだけどね……。ぐぬぬ。
『もんだいない』
『ハルいんし』
『ゆうしゅう』
そうだった!
今のハルカならきっと数百万年くらいで追いつけるよね!
『それでも長すぎよ。
そんなの認めないわ』
そうね。イロハママの言う通りね。
ハルカの監督よろしくね。
それから私とセフィ姉は、再び長老に別れを告げて帰宅した。
案の定、帰るなりお説教大会が開催され、さらにエルお姉ちゃんとの一連のやり取りも焚べた事で、より一層の火力で燃え上がったのだった。
----------------------
「はぁ~~~」
ボスンと布団に倒れ込む。
今日もいつも通り、濃い一日だった。
やっぱりお説教は懲り懲りだよ……。
「アルカ、こっち」
ハルカが私の体をくるりと回して仰向けにし、私の頭を自身の膝の上に移動させた。
「癒やしてくれるの?」
「そうだよ~」
とか言いつつ、私の頬をこねくりまわすハルカ。
どう見ても、癒やすと言うより遊んでる。
今日一日、大して相手出来なかったから、寂しかったのかもしれない。
「ハルカは怒ってないの?」
「なにが~?」
今日は意識共有はしないのかしら。
ちょっと口で説明するのもあれな内容なんだけども。
「その……私がハルカを放って、新しいお嫁さん作った事」
「……」
「いひゃい」
「ちょっと今のはムッと来た」
「ごへん」
「昨日の話、私だってちゃんと理解したんだよ。
先ずは娘から。そういう話だったでしょ?
何れお嫁さんにもなるけど、今はまだその時じゃないの。
折角なら、娘も極めておかないとね。
全部やりきって、その時改めて新しい関係も始めるの。
その方がいっぱい楽しめるでしょ?」
「そうね。うん。いい考えだと思う」
「でっしょ~♪」
可愛い。




