6-16.見直し
私はノアちゃんと一緒にダンジョン巡りを続けていた。
既に転移門で直接最奥に行ける場所は確認を終えている。
今のところは異変も見つかっていない。
この町の周囲にもダンジョンは複数存在し、
一回目の原因となったダンジョン跡地との距離を考えるなら、
次に狙われる可能性のあるダンジョンは相当数存在する。
しかも、現状の調査方針は全て推察を元にしている。
前回は魔道具という物証があり多少はマシだったけれど、
今回はなんの根拠もない。
あの町が狙われているのかすら確証はない。
つまり、あの町を中心としているこの調査には何の意味もないかもしれない。
「やっぱり無茶よね・・・」
「まあ、そうなんですが。
そうは言ってもやるんですよね?」
「う~ん。少し迷いはじめているわ」
「珍しいですね?
アルカなら投げ出したりはしないと思いますが」
「まあね。そんなつもりはないのだけど、
調査の方法がいくらなんでも手探りすぎるのよ。
危険ではあるけれど、もう少し相手の動きを待ってから
情報を集めて行動するべきなんじゃないかなって」
「なるほど。そういう意味ですか。
ただ、わかってはいると思いますが、
今度は被害が出る可能性は高いですよ」
「だからこそってところもあるわ。
私が転移で周辺の村の避難を手伝えば、
救える人もずっと多くなると思うの」
「調査は一旦諦めてそっちに専念するんですね」
「そう思ったんだけどね。
ただ、あの町が標的でないなら、
それも意味がないかもしれないのよね」
「それで悩んでいるのですね。
犯人が捕まるのがてっとり早いですし、
あのダンジョン跡地の周辺の町で普段見ない人がいなかったか、
聞き込みをしてみるのはどうでしょうか」
「それはギルドが既に動いているはずよ。
次に戻った時に念の為確認はしておきましょう」
「アルカの転移門で犯人の場所に行きたいってイメージはできないんですか?」
「アハハ、流石に無理よ。
そもそも、ある程度私が心を開いている人の元にしか開けないの。
多分私がその人に会いたいとか話したいって思える人じゃないと無理ね」
「そう都合よくはいきませんよね・・・」
「でも、良いヒントだわ。
ちょっと、ギルドに戻りましょう」
「ギルド長さんになにか用事ですか?」
「違うわ。私達の町のギルドに行くの。
そこで、あの魔道具を借りてきましょう。
それを持って、あの魔道具と同じ物を探す魔法が作れないか試してみるの」
「できるんですか?」
「正直なんとも言えないけれど、
せっかく持っている能力なのだし、
ちょっと頑張ってみましょう。
どうせ手がかりも無いのだしね」
「そうですね!」
私はギルド長をイメージして手のひらサイズの転移門を開く。
「わかった。いつもの会議室を開けておく」
ギルド長に話をつけて
転移先を確保してから転移する。
「お久しぶりです。ギルド長」
「ああ。ノア達も元気にやっているか?」
「はい!」
「それは良かった。で何のようだ?」
「以前ダンジョン暴走で使用されていた魔道具を貸して欲しいの」
「すまんが、今手元には無いな。
一つはこの国に、他はギルド本部に納めてしまっている」
「それもそうか。
あんな危険物いつまでも持ってないわよね」
「また事件なのか?」
「ええ。調査のためにあれを貸してほしかったのよ」
「相変わらず苦労しているな」
「まあね。ギルド本部から取り寄せたりできないかしら?」
「やってはみるが、難しいだろう。
それに上手くいったとしても、かなりの時間がかかるはずだ。
それは困るんだろう?」
「そうね。いっそ本部に乗り込もうかしら」
「やめておけ。本部はお前の味方だけじゃない。
今ギルドと問題が起こったら、最悪国を超えて指名手配されるぞ」
「そうね。って私この国だともう指名手配されてるの?」
「いや、流石にまだそんな事にはなっていない。
仮にもギルドが誇るSランク冒険者だ。
ギルドが反対しているのに、
国内だからってそこまでは出来ない。
だが、ギルド本部と揉め事が起きたらその限りではない」
「私はそんな事しないわよ!」
「そんな事はわかっている。
お前はトラブルの方から寄ってくるのだから、
用心するに越したことはないと言っているんだ」
「わかったわよ。なんか釈然としないわね」
「アルカ。やっぱりお爺さんにお願いしてみませんか?
あの魔道具の事も何か知っているかもしれませんよ?」
「う~ん。気が乗らないわね。
それに、聞くにしてもせめて現物が無いとね・・・」
「まあ、アルカがそう言うなら無しにしておきましょう」
「ごめんね。せっかく案を出してくれたのに」
「一先ず様子を見に一度戻りましょうか」
「そうですね。
では、ギルド長、ありがとうございました。失礼します」
「ああ、また何時でも来るといい」