35-28.第二幕
「……あの……セフィ姉?」
「……なに?」
セフィ姉とカノンからのお叱りが済んだ後、私の部屋に場所を移して三人で寄り添いあっていた。
というか、私を中心にセフィ姉とカノンが、ガッツリ掴みかかる勢いで私の両腕にしがみついていた。
正直、これが苛立ちからなのか、不安からなのか、それすらわからないくらい強烈な感情が伝わってくる。
そんな二人の様子に、どうしてもかける言葉が恐る恐るになってしまうのだった。
「そろそろ戻らないとレヴィが心配するんじゃないかなぁ~って……いえ!なんでもないです!ごめんなさい!!」
めっちゃ睨まれた!?しかもなにこの威圧感!?
そうだよね!これだけ長い時間レヴィの側離れてるんだし、今晩はもう誰かに頼んであるんだよね!ごめんね!余計な事聞いたよね!
「……不満なの?」
「いえ!滅相もございません!」
「レヴィは心配いらない。
今日はレーネ達と一緒」
「左様でございましたか!」
「ふざけてるの?」
「あ、いえ、ちがいます……」
「セフィ。落ち着いて。
アルカを怖がらせ過ぎよ。
もうお説教は済んだでしょ?」
「……そうだね」
ふっと落ちるようにして、セフィ姉の威圧が収まった。
カノン!さっすが皆のお姉ちゃん!
お姉ちゃん属性は偉大なのだ!
あとで深雪お姉ちゃんにも慰めてもらおう!
きっとハルカと二人で迫ればイチコロだ!
「アルカ」
「はい。何でしょう、カノン」
あれ?なんかカノンまで目が据わってるよ?
まさか気づかれた?お姉ちゃんの事考えてたの?
ハルちゃん?フィルターは?
『なし』
『いまとざす』
『あくしゅ』
ですよね~!!
「ごめんなさい」
カノンが言葉を続ける前に謝ってみた。
「……まったく」
カノンからも剣呑な気配が消え去った。
どうやら許してくれたらしい。
「アルカ」
!?
今度はセフィ姉!?
「……なに?」
「私が一番怒ってる理由わかる?」
「……えっと、娘を気軽に生み出した事……でしょうか?」
セフィ姉、ダンジョンコアでフィリアス生み出すの嫌がってたし……。
「アルカは軽い気持ちでハルカを産んだの?」
「いえ、決してそのような事は。
確かに予期せぬ事だったとはいえ、ハルカの全てに責任を持つ覚悟よ」
「なら違うってわかるよね?」
「あ、はい……すみません」
「謝罪はいらない。ちゃんと答えを見つけるまでは」
「えっと……深層を乱用してるから?」
これもセフィ姉が嫌がった事だ。
厳密には、ノアちゃんとの約束を破る事に対ししてだけど。
とは言え今となってはノアちゃんが半ば許してくれたようなものだし、これも違う気がする……。
「違う」
ですよね~。
「本当にわからないの?」
「……はい……すみません……」
無言で私の二の腕辺りに軽い頭突きを繰り返すセフィ姉。
何やら色々抑え込んでくれているようだ。
ごめんなさい……。
「私、嬉しかったの」
えっと、今日の訓練での事?
私が久しぶりに参加したから?
それとも……って!
「ごめんなさい!
ハルカが頑張ってくれたのに!」
あの時はセフィ姉に内緒にしてたからって、あれはダメだよね!
ハルカの頑張りを自分の手柄にしてそのままなんて!
セフィ姉が絶対嫌うやつだよね!
あげくそれでセフィ姉を喜ばせてたんだよね!
久々に私がやる気出したとか、鍛え直したとか、純粋に信じてくれてたんだよね!
裏切られた気持ちでいっぱいだよね!
「ダメだよ。そういうの。
ハルカを娘と思うのなら、絶対」
「うん。もうしない。
ハルカにもちゃんと謝るから」
「そうだね。
わかった。なら私も許してあげる」
「セフィ姉!」
空気を察したカノンが私の片腕を離してくれた。
私は空いた両腕で、セフィ姉を抱きしめた。
暫く抱き合っていると、今度はセフィ姉がカノンの方へ行くよう促した。
私はセフィ姉を手放してカノンを抱きしめる。
どうやら今度こそ本当に二人とも許してくれたようだ。
「許す?
何を寝ぼけた事を言っているの?
まだに決まってるじゃない」
「え?
でもさっき、お説教はもう終わったからって……セフィ姉に……」
というかナチュラルに思考読まないで……やってるはカノンじゃなくてスミレなんだろうけど……。
「ええ。
ハルカに関するお説教はこれでおしまいよ。
けれど、ここの家計を任された立場としていい加減言わせてもらうわ」
あ、はい……。
「正直、今の調子で増やされると流石に無理があるの。
私達のパンドラルカはまだまだ立ち上げたばかりよ。
アルカの貯蓄とノアの稼ぎで賄っているのが現状なの。
日々の食料や消耗品にかかる費用だけでなく、子供達が学園に通い始めた事だって甘くみる事は出来ないわ。
その辺り、アルカは家長としてどう考えているの?
元々金遣いは荒い方だったけど、今でも何も考えてくれていないの?」
あかん。ガチのやつだ。
というか、どうしよう。
先日セレネの町にお屋敷買ったのまだ言ってない……。
この状況で私の財布がすっからかんになってるの知られたらどう言い繕えば……。
しかも新しくお嫁さんになった娘達の指輪買いに行くのにも、ある程度纏まったお金も必要なのに……。
『やっぱカルラ達の稼ぎを貢ぐしかないんじゃない?』
イロハ!?
どうしてこのタイミングで刺してくるの!?
『むり』
『かせぎもう』
『アイドルけいかく』
『まわした』
『ほとんど』
『すっから』
なんですと!?
いや別にあてにするつもりはなかったけども!
いやでも、使い切るの早すぎない!?
依頼受領制限のせいで一日の収入は限られているとはいえ、それでもここまでの全部引っくるめたら結構な額だったはずよね!?
『とちかった』
『すこしずつ』
『どーむけんせつ』
『よていち』
そりゃぁいくらあっても足りないわ!!
王都のど真ん中で少しずつ買収かけてってるって事でしょ!?それもお金が入る度に!
『ハルも金遣い荒いわね。
アルカとそっくりだわ』
『ふへ』
褒めてないよ!それ笑うとこじゃないよ!
「アルカ。
作戦会議はその辺にしてもらえるかしら?
それで?あなた、いくら残ってるって?」
あ、れ?
もしかして今のも?
『ふぃるたー』
『さいていげん』
『アイドルけいかく』
『もれてない』
お屋敷購入の件は?
それも内緒にしてくれてるよね?
『……』
『めんご』
「ごめんなさぁい!!!」




