35-26.正妻会議
「遂に自給自足まで始めたわけね。
これで行き着くとこまで行き着いたんじゃないかしら」
「うぐっ……」
家族に諸々報告すると、いつも通りにセレネが鋭い一撃を放ってきた。
どうやら今回のお説教はノアちゃんとセレネだけのようだ。
カノンとセフィ姉も含む他の娘達は席を外してしまった。
何か念話で示し合わせでもしたのだろうか。
カノン達、流石にもう付き合いきれなくなっちゃったのかな……。
いや別に皆から責められたいわけじゃないけども……。
ノアちゃん達からのお説教が終わったら二人のところにも顔を出してみよう……。
「まあ、やってる事はダンジョンコアで生み出すのと大差ありませんけどね。
正直ドン引きですよ。
一応言っておきますが、アルカにとって意図せぬ事態だという事はわかった上で引いているのです。
どう言い繕おうが、今更結果は変えられません。
むしろ言い繕おうなどとは決してしないで下さい。
それはハルカに対する侮辱です。
軽い気持ちで娘を創ってしまったという意味にしかなり得ないのですから」
「はい……」
いつも通りにノアちゃんからのガチ説教も飛んでくる。
「それで?
嫁にもするつもりなの?」
「……そっちは……まだ……」
「まだ?
元はアルカの分体ですよね?
アルカは自分自身とまで恋愛出来るのですか?」
「うっ……それは……その……中身は……別人だし……」
「確かに中身は大切ですが、外見が一切関係無いわけでも無いでしょう?
普通の人はどれだけ愛おしく思っていても、未成年には手を出さないのです。
精神の成熟度合いを測る指標として、外見で判断するのも一般的には有効な手立てであるはずです。
幼い少女に恋愛感情を抱かないというのは、普通の人にとって当たり前の事なのです。
まあ、私もリヴィと関係を持っている以上、この件でアルカにとやかく言う事はできませんが」
めっちゃ言ってるじゃん!
ほんとに言えたことじゃないよ!
ノアちゃんだってロリどころかペ◯に手出してるじゃん!
しかも自分の娘に手を出した例出してどうするの!?
いくら何でも棚上げしすぎだよ!
それで私責めるのは無理があるよ!
そもそも本題からズレてるよ!
言いたいのは、外見も大切だよねって話だけだよね!
今回問題なのは、ハルカの容姿が幼い事じゃないでしょ!
あと一応、あんなでもこの世界基準なら成人済みだからね!
ハルカは私の十五歳頃の容姿だし!
ノアちゃん達と大差ないから小学生くらいにしか見えないけども!
「ほんと、ノアが言う事じゃないわね。
少しは私を見習いなさいな」
「……なんだか釈然としません」
ほんと、不思議な事にね。
まさかセレネが、こんな真っ当にお母さんやるとは思わなかった。
いやでも、別におかしな事でもないのか。
セレネは元々愛情深い子だし。
自分の懐に入った子に深い愛を注ぐ事自体はなんらおかしな事ではない。
ただそれが、真っ当に母子としてのものだから、少し不思議なだけで。
いやまあ、セレネにだってあるんだろうけどさ、母性。
その母性が強いのもおかしな話じゃないんだろうけどさ。
要は初めて見たのだ。私もノアちゃんも。
ほんと、子供が出来ると人って変わるものなのね。
「それは単に、ルビィがその気になっていないだけです。
大体、セレネだってリヴィのつまみ食いくらいしていたはずです」
つまみ食いて……。
「そりゃあ、皆で乱れていればそんな時もあるわよ。
自慢じゃないけど、私はノア程我慢強いわけでも、正しい倫理観が備わっているわけでもないもの。
それでもルビィに手を出したりはしないわ。
母親ってそういうものでしょ?」
「本当にそう思ってますか?
まあ良いです。あと五年以内にルビィと関係を持たなければ信じてあげましょう」
「五年は長すぎないかしら?
うちに住んでる以上、興味を持つのは早いはずよ?」
あれ?
結局将来的には手を出す予定なの?
なら私と変わんないじゃん!
それと、相変わらず話がそれっぱなしだよ?
そろそろ本題に戻らない?
「さっきの言葉はなんだったんです?
それでも諌めるのがセレネの母としての役目では無かったのですか?」
「時と場合によるわ。
少なくともルビィの精神が幼い内は、たとえ肉体的に成長していたとしても手を出すことはあり得ないわ」
「リヴィはそうではないと?」
「ええ。あの子の心は十分に成長しているもの。
魔物であるリヴィまで人の成長速度と一律で考えるべきではないわ。
そもそもフィリアス達も同じ事でしょう?
そうでなければ、アルカどころか私とノアだって、生後一月やそこらの幼いルチア達と関係を持っていた事になるんだもの」
「フィリアスはある程度以上の知識も持った状態で生まれてくるのです。
それこそ一緒くたに考えるべきではないのでは?」
それならハルカも見逃してくれない?
私の記憶を持って生まれてきたんだよ?
いや、うん。
そういう話してないってわかってるんだけどさ。
そもそもハルカは精神もまだまだ未成熟だし。
いや、そっちも本題とは微妙に関係無いんだけども。
とにかく、今重要なのはハルカの幼さではないのだ。
私とハルカの場合は、娘だとか元は私自身だとか、他にも色々問題が山積みなのだ。
「というか、あなた一体どの立場で喋ってるの?
ノアだってリヴィに手を出しているのよ?」
「……そうですね。
元々はそういう話でした。
流石に本題からそれ過ぎましたね。
いい加減話を戻しましょう。
それでアルカ。
ハルカを嫁にするつもりなのですね?」
「……はい。いずれは」
「自分の顔には欲情出来ないんじゃなかったの?」
「……頑張って克服してみようかと」
「何故そうまでして受け入れたいのですか?
娘として可愛がるだけではダメなのですか?」
「……そこは……私の決めたルールがあるから」
「……ハーレムの運営についてですか?」
ちょっと妙な言い回しだけど、まあそういう事です……。
「ハルカが私と関係を持たずに私以外と関係を持つのは認められないの。
イロハと駆け落ちされたら堪らないもの。
だからハルカの事も縛り付けておきたいの。
私の持てる全てでぶつかってでも」
「そんな事考えてたら何時までも増え続けちゃうじゃない。
アルカに言うのは酷だけど、何れは去るもの追わずの精神だって必要になるのよ?
あなた、そんな事も気付いていないの?」
「えっ……」
「勿論私もノアもアルカの下を離れるなんてありえないわ。
けれど、レヴィのように私達の感覚についていけない普通の子だっているの。
ルネルのように、思想の一致しない人だっているの。
グリアさんのように、永遠を拒む人だっているの。
人が増えていけば、色んな考えを持つ人が出てくるの。
何れはアルカの指の間から零れ落ちる人だって現れるわ。
アルカはそんな人達まで縛り続けるつもりなの?
永遠の魔女として呪い続けるの?
本当にそんな覚悟があるの?
相手の望む幸せよりアルカの自己満足の方が大切なの?」
「そんな言い方……」
「必要なことよ。
よく考えてみなさい。
それでも縛り続けると言うのなら、私達も手を貸してあげるわ。
一緒に鎖を掴んであげる。
アルカ一人の手のひらに乗り切らなくとも、私達の手も添えてあげるわ。
だからこそ恐れないで。
失う事を必要以上に。
失ってもしかたない。けれど精一杯掴み続けよう。
それくらいの心持ちでいると良いと思うの。
そうでなければ、アルカの心が保たないわよ?」
「……うん」
「私達は永遠を生きるつもりなのだもの。
何れあなたもニクスと同じような存在になってしまうわ。
私はそんな事認めないからね?
必要ならアルカの記憶全部消して、私とノアで攫っちゃうからね?
それで、また三人だけで一から始めましょう。
私だってルビィや他の誰かを失うのは怖いけれど、それでもアルカを失う事だけはどうしても受け入れられないの。
一番大切ってそういう事でしょ?
アルカだって、私とノアの事を一番に想ってくれているのでしょ?」
「うん」
「良かった。信じてはいたけど即答してもらえなかったら、どうしてくれようかと思ったわ。
今すぐ記憶消させて連れ去っていたかも。
私としてはそれはそれで魅力的でもあるけれど、それでもやっぱり悲しいから、一緒に頑張りましょう。
この楽園を維持する為に出来る事を精一杯ね。
その為には、何れ取捨選択も必要になるの。
そう、心に留め置いてね」
「……」
「まだわからない?
例えばグリアさんとアルカが愛し合ったとして、グリアさんに一緒に老いて死んでくれと請われたら、アルカはどうする?」
「……グリアに永遠を押し付ける」
「そう。それならそれで良いのよ。
アルカがそう決めて押し付けられるなら。
アルカがその決断を後悔しないのなら。
言った通り、私達も手を貸すわ。
例えグリアさんが苦しもうとも、それ以上の幸せを押し付けてあげましょう。
私達にとって、アルカが苦しむよりはずっと良い選択なのよ」
セレネは何故か心底嬉しそうに笑っている。
これはどういうつもりなのだろう。
「ならレヴィはどう?
大人になって色んな事を知ったレヴィが、もうこんなところには居たくないと言って飛び出してしまったら。
アルカはどうする?」
「……」
「そうよね。答えられないわよね。
ならアルカも心のどこかでわかってるのよね。
何れ私達の下を」
「連れ戻す」
「え?」
「レヴィを見つけ出して連れ戻して、いっぱい抱きしめて二度と手放さないようにする」
「……そう。
わかった。ならそっちも私達が協力してあげる。
レヴィが不安になる度に、耳元で甘く囁いて惑わしてあげる。
アルカのしたい事ってそういう事でしょ?
ハーレム内恋愛を認めてるのもそれが目的なのでしょ?」
「うん」
「ふふ。やっぱりアルカは恐ろしい魔女なのね」
「どうして喜んでるの?」
「わからない?
まあそうよね。アルカだものね」
「答えてくれないの?」
「ええ。答えてあげないわ。
ね♪ノア♪」
「はい……とは言い難いですね。
私は別に全面的に賛成しているわけではありませんから」
「それでも受け入れてくれてるじゃない」
「当然です。
私のアルカが真に望む事ならば、私の全てを使ってでも叶えてみせましょう。
ただし、アルカの為になるよう軌道修正はさせてもらいますが」
「まあそうね。
大切よね、軌道修正。
説教で済むならそれに越したことはないのだけど」
「正直、今更説教にどれほどの意味があるのかと言いたくなりますね。
軟禁しようが、ダンジョンコアによるフィリアスの生成を禁じようが、どうしてか嫁は増え続けているのですから」
「ほんとにね。
私達はただ、アルカに悲しんでほしくないだけなのに。
ニクスのように何でもかんでも抱え込んでほしくないだけなのに。
そんな些細な望みも叶えてもらえないんだもの」
「最早アルカの意思は関係ないのかもしれません。
であれば……もういいです。
いっそ膨らみすぎて破裂してしまえばいいんです。
そしたらアルカの残骸だけかき集めて逃げ出してしまいましょう。
私とセレネとアルカの三人だけでやり直しましょう。
今度はもっと私達好みのアルカになるよう、作り直してしまいましょう」
ノアちゃん……?
なんか怖いよ?
「そうね。それもいいわね。
安心しなさい、アルカ。
例えアルカが抱えきれなくなって壊れてしまっても、私達が大切に修理して使ってあげるから。
もう全部あなたの好きにしてしまいなさい」
あ、これ、そういう……。
「ごめんなさい!!」
「あら?
何を謝ってるのかしら?
私は好きにして構わないと言ったのよ?」
「セレネ!お願い!見捨てないで!
反省してます!本当なんです!」
「?
どうしてわかってくれないのかしら?
私達がアルカを見捨てるわけないじゃない。
さっきからそう言い続けてるはずなんだけど?」
「そうですよ、アルカ。
何を焦る必要があるのです?
あなたの好きにして下さい、あなたが失敗しても私達がカバーしてあげます。
私達はそう言っているのです。
反省は必要ですが、反省したってどうにもならないのでしょう?
ならもう、不毛な事は止めてしまいましょう。
何時までもこんな事で説教を繰り返したって何の意味もありません。
私だってアルカに厳しい事は言いたくないんです。
本当はただただ甘えていたいんです。
そんな事、アルカだってわかってくれていますよね?」
「わかってる!勿論わかってるから!
ノアちゃん!ごめんなさい!
何度も何度も繰り返して!
ノアちゃんが呆れちゃうのも当然の事なの!
本当に今度こそ改めるから!
お願いします!もう一度だけチャンスを下さい!」
「まったく。話が噛み合っていませんね。
アルカは何をそんなに恐れているのでしょう」
「ほんとよね。
私達の言葉まで信じてくれなくなっちゃったのかしら」
「ノアちゃん!セレネ!」
「「ぷっふふ」」
「え!?」
「少しは反省したかしら?」
「重要なのは反省に意味があるかどうかではありません。
意味がなくとも、反省し努力を続けて下さい。
例えアルカにはどうにもならない事だとしても、諦めずに正しさを求め続けて下さい。
私達も決して諦めません。
例え内心無意味だと思っていても、こうして叱り続けてあげます」
「それはそれでどうなのかしら。
根性論はあまり好きではないわ。
問題点を洗い出して修正していく事こそ重要よ。
どうせ努力を続けるのなら、方向性を間違えてはダメよ」
「この期に及んで具体的な方法なんて見つかってないじゃないですか。
そもそも今となっては何が問題なのかすらハッキリしていません」
まあ、整理する間もなく次から次へと新しい出会いや問題が湧いてくるものね。
改めて私達の目指すべきゴールってどこなのかしら。
「何にせよ一つだけハッキリとした問題があるわ。
要はアルカの力が膨大すぎるのよ。
アルカが好き放題出来ないよう、力を抑え込んでしまいましょう」
「具体的にはどうやって?
仮にそんな事が出来るとしたらニクスくらいでは?
けれどニクスは今手が離せません。
そもそもよしんば協力してくれたとて、ニクスでは簡単にアルカの頼みを聞いてしまいます。
何時でも解除出来る封印になんの意味が?」
「いるじゃない。もう一人。お誂え向きの人が。
その人にハルカの件を報告すれば、私達の意見に同意してくれるんじゃないかしら」
「ああ。ルネルさんですか。
たしかにそうですね。
ルネルさんが嫌う手段なのは間違いありません。
いい加減堪忍袋の尾も切れる事でしょう」
「え?ノアちゃん知らないの?
今のルネルは私が変なことしても褒めてくれるんだよ?」
「は?
それはどういう事ですか?」
「どうもこうも、いくらフィリアス達の力を借りても怒らないの。
むしろ成長したって褒めてくれるんだよ?」
「「……」」
「……」
「……まさかね?」
「いえ、流石に無いと思いますが……」
「え?」
「うん、まあそうよね。
きっと単純に認めているだけよ。
ルネルとアルカの思想は相容れないでしょうけど、それはそれとしてアルカが強大な力を持っているのは事実だもの。
ルネルはそこまで至ったアルカを軽視するほど浅慮な人ではないわ」
「……それは間違いありませんが、だとすると尚の事問題なのでは?
ルネルさんはアルカが勝てばアルカの伴侶になると言い出したのです。
つまりそれも単なる軽口だったわけではなく、既にそこまで認めているという事なのでは?」
「……そうね。そうなのでしょうね。
はぁ。ルネルはまだ先だと思っていたのだけど」
「言っても仕方ありません。
アルカなら何れは成し遂げていた事なのですから」
「えっと?
二人とも?
私の力を封印するとかいう話はもう良いの?」
「「はぁ~」」
え?何?どゆこと?




