35-15.大丈夫だ問題ない
「やっぱ無理だよぉ!」
早速分体を生み出してはみたものの、フルモードを使わない私では一体が精々で、二体以上を自由自在に動かす事は叶わなかった。
『別に一体ずつで良いじゃない。
先ずは本体と二人同時で動き続ける訓練よ。
そうして慣れてきたら、三人目以降を増やしていけばいいのよ』
「でもやることいっぱいあるんだよ?
セフィ姉達との訓練も再開するって約束しちゃったし。
ステラとも仲良くなりたいし。
いい加減レヴィ達とも遊びたいし。
マノンの事だって放っておけないし。
ミヤコ達には色々任せっぱなしだし。
チグサ達は……まあ楽しそうにやってるから良いとして。
ヘスティの件も何時までも放置しておけないし。
一人で国に通ってるツムギも心配だし」
『ならいい』
『ふるもーど』
『きょか』
『仕方ないわね。
まあいいわ。
フルモードで頭数増やして、分体修行の方もさっさと始めちゃいましょう。
増えたアルカ達が頑張れば、結果的に本体の経験にもなるはずなんだし。
先に上げた九人以外にももう一人用意しなさい。
そのアルカには私が修行を付けてくるわ』
「どゆこと?
イロハ離れられないじゃん」
『一瞬なら不可能でもないわ。
私がアルカの分体を一人連れて深層に潜るのよ』
「私はこっちにいるままなんでしょ?
こっちから深層にいる分体の制御なんて出来ないよ?」
『仮人格は私が用意するわ。
修行を積ませて本体にフィードバックするだけなら、それで十分なはずよ』
「さらっと凄いこと言うわね。
まあイロハがそう言うなら任せるけども。
でも、その娘に愛着持ちすぎて一緒に反乱起こしたりしないでよ?」
『無いわよ。
そこまで強い自我は持たせないもの』
やっぱ何か不安なんだよなぁ。
うっすら妙な予感もしてるし。
「無理しないでよ?
適度にこっち戻って休憩するんだよ?」
『任せなさい』
「わかった。
許可するわ」
『行ってくるわ』
『……行ってきたわ』
……?
ああ、そっか。深層だもんね。
もうイロハと分体が修行を済ませて戻ってきたのか。
一瞬すぎて知覚すら出来なかった。
あれ?
何で分体が子供の姿になってるの?
「えっと?
修行は出来たの?
フィードバックは?」
『……』
あれ?イロハちゃん?
取り敢えず分体を取り込めば良いのかしら。
うん?あれ?
おかしいな。分体に干渉できない?
繋がっている感覚はあるから、眼の前にいる子供私は私の分体で間違いないはずだ。
なのに、取り込むどころか自分の意思で動かす事すら出来ない。
これは仮人格のせいかしら。
私の分体、仮人格ちゃんに乗っ取られちゃったの?
「やっぱイロハの言った通りか。
ハルってこんなに優秀だったんだね。
私の方が長く修行したはずなんだけどなぁ」
何やら勝手に喋りだす分体。
「イロハ?
ハルちゃん?
これは何事?」
『ぶんたい』
『のっとろうとした』
『アルカのこと』
ほわい?
『ごめんなさい』
イロハが言い訳もなく素直に謝っている。
珍しい事もあるものだ。
「謝罪はいいから、先に説明して欲しいんだけど」
『やりすぎちゃった』
「育てすぎちゃった?」
『そう。
それで仮人格が根付いちゃったの。
アルカの魂の強さと悪い意味で作用しちゃったみたい』
ほら言わんこっちゃない!!
「イロハ!ひっどい!
私の事そんな風に思ってたんだ!!」
『あ、いや、違うのよ?
あなたの事を否定したいわけじゃなくて……』
あれ何この……なに?
イロハが私の知ってるイロハと違う。
「適度に休憩する約束は?」
『ごめんなさい……』
一体何年ぶっ通しで修行してたのかしら。
ハルちゃん以上って事は、六百年以上って事よね?
幸い元の素質が私のものだから、ハルちゃん超えはしなかったみたいだけど。
それがなければ、私、この子に乗っ取られてたの?
イロハは……いや。それは後だ。
「それよりえっと、アルカって呼ぶのも変だね。
私も自分の事まだアルカだと思ってるし。
本体?メイン?オリジン?
いや、この際だから私が改名すればいいのか?
自分の事アルカだと思わなければ、新しい自分を始められるかも?
ということでアルカ。私に名前をつけて♪
イロハったら『あなた』としか呼んでくれないんだもの」
何言ってるのこの子?
まさか今後も存在し続けるつもりなの?
「イロハ、この子取り込んだらダメな感じ?」
『ごめん……』
「もう!物騒な事は止めてよアルカ!
修行の成果はちゃんと引き継ぐから!
それに今後も代わりに修行は続けてあげる!
だから私の事、認知してね♪
もちろん良いでしょ?
だって私はアルカとイロハの子供なんだよ?」
真っ先に私を乗っ取ろうとしたくせに、よく口が回るこって。
「……少し考えさせて」
この子は油断ならない。
私の姿と私の記憶を引き継ぎながら、全く別の人格が宿ってしまったらしい。
アリスとだいぶ似てるけど、アリスとは違ってこの子は肉体的にも私と同一だ。
更にイロハと千年近く修行している可能性まである。
ハルちゃんがいなかったら、この子は私の上位互換だ。
この世で唯一、私のハーレムを脅かしうる存在だ。
「え?そんな事心配してたの?
安心して。さっきも言ったでしょ。
修行の成果はちゃんとフィードバックするから。
さっきの乗っ取り未遂はただの出来心だよ♪
ハルに対して力試ししてみたかっただけなの!
それに、私はイロハ以外に興味ないから大丈夫だよ!」
この子もナチュラルに思考読んでくるわね。
私からは見えないってのに。
「そんな言葉信用できないわ。
あなたが私の記憶を持っているのなら、ノアちゃん達に感心が無いなんてありえないもの。
というか、イロハだってあげるわけないでしょ」
「う~ん。
どう説明したら良いのかなぁ。
確かにアルカの記憶は持ってたんだけど……。
ほら、強いて言えば前世の記憶みたいなもんだよ!
物心ついた頃には確かにアルカと自分をごっちゃにしてたし、イロハが名付けてくれないから、取り敢えずで自分の名前はアルカだと思ってたけど、いつの間にやらそんな感覚は薄れていっちゃったんだよ。
イロハの方はあれだよ。
私にとってはお母さんみたいなものだし。
それもダメってんなら、私もアルカのハーレムに入れてくれる?
ハーレム内恋愛なら認めてくれるんでしょ?
私はイロハの側にいられて、思う存分修行出来るならそれだけで良いんだから。
後の事はアルカの好きにしていいよ?
何せこれ、アルカから貰った器だしね♪」
むむむ。
ここまで自我を見せつけられては、流石に消すのは憚られる……。
とはいえ、こんなのどうすれば……。
それにまたノアちゃん達に叱られるのか……。
「なんかまだ私の事物扱いしてない?
私こんなでも、もうアルカとは別個の生命だと思うんだけど」
「そんな事いきなり言われたって納得出来るわけないじゃない」
「今までも似たような事は散々やってきたじゃん」
いやまあ、そうですけどね?
「ねぇ~良いでしょ~
私もアルカの事愛せるよう頑張るから~」
「誰もそんな話してないわよ……」
「お願い♪
私のこと、イロハとの子供って認知して♪」
「もうそれはわかったってば!
今更消したりしないわよ!」
「やった♪」
何か調子狂うわねこの子。
子供Verとはいえ、私の顔で私の声なのに、私らしさが全然感じられない。
アリスと似たような生まれ方をしたのに、まるで正反対だ。
「イロハ、取り敢えずこの子の事は受け入れるから、もう少し詳しく説明して」
『がってん……』




