35-8.大好きな匂い
『がったいせんし』
『おもろ』
『かのうせい』
『むげんだい』
『まだまだ』
『ためす』
「そうやな~。
ええデータ取れたわぁ~」
「「またやりたい!!」」
ハルちゃん、チグサ、カルラ、フェブリは超ラヴェリルちゃんを甚くお気に召したようだ。
今後も、私の分体を入れ物にして何人かのフィリアスを混ぜ込んだ合体戦士が生み出され続けるのかもしれない。
『アルカ本体も実質似たようなものじゃない?
私とハルが主軸なくらい、アルカ本人の実力なんて大したこと無いんだし』
まぁたイロハは!そういう事ばっかり言って!
なら良いもん!
私、今日からイロハルちゃんって名乗るもん!!
『やめときなさいよ……。
色春って、字面が悪すぎるわ』
イロハが邪なだけじゃない?
「嫁昇格後の最初の呼び出しがこれってどういう事です?
私の初夜忘れてません?
指輪だってまだ作りに行ってないんですよ?」
あかん。ミーシャがキレてる。
なんだかんだ、さっきまでノリノリだったくせに。
初夜の方はほら、ツムギ達と過ごさせてもらったから……。
「同時に何人も手を出すからそんな事になるのでは?
もう少し誠意というものは無いのですか?」
ぐぅ……。
まあ仕方ない。
本当は、今はノアちゃんの気分なんだけど。
とはいえ、今のままだとやり過ぎてしまいそうだものね。
少しミーシャと発散しておきましょう。
私はミーシャを連れて深層に潜り込んだ。
「全部聞こえてますよ?
ノアの前座扱いですか?」
あ、ごめん。
『むねん』
『のいきゃん』
『いっぽうだけ』
『かたておち』
『流石に止めてあげなさいよ。
いくらミーシャだからって可哀想よ?
アルカの嫁に加わったのだから、相応な扱いをなさいな』
『しかたない』
『イロハが』
『いうなら』
本来イロハが一番ミーシャに恨みを持っていてもおかしくないものね。
私もいい加減切り替えよう。
私は何も言わずにミーシャを抱き寄せて、強く唇を押し当てた。
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「えへへ~♪
アルカ様~♪」
「ミーシャ、そろそろ」
「ダ~メ~で~す~」
「悪いけどまた今度ね。
ミーシャといたら何年でも籠もれてしまうわ」
「それって!
私と一緒はそんなに居心地が良いって事ですか!
えへへ~照れちゃいますよ~♪」
そうか。
深層にいる間は、流石のミーシャも私の心が見えないのか。
ミーシャは怠ける事に関してだけは、他の追随を許さぬベテランだ。
ぶっちゃけ、私との相性が良すぎるのだ。
二人でダラダラし続けたら際限無く籠もれそうなくらいに。
「ほら、お願いよ、ミーシャ。
私も名残惜しいけど、まだいっぱいやる事があるの。
諸々片づけてから気兼ねなく過ごしましょう。
次はもっと長く一緒に過ごしてあげるから」
「えへへ~約束ですよ~」
見事な浮かれ具合だ。
本当に名残惜しい。
『何か妙な精神汚染にかかってない?
ミーシャを深層に連れ込むのってやばいんじゃない?』
『だいじょうぶ』
『ハル』
『ゆうごうした』
『ここはもう』
『ハルのせかい』
『ともいえる』
『ぼうえい』
『ばっちり』
そう言えば、ハルちゃんは相変わらずミーシャに辛辣よね。
私と融合したんだから、もう少し愛しく思っていても不思議はないのに。
『私が何のために制御してるのか忘れたの?』
そうね、イロハ。
イロハの仕事が完璧な証拠ね。
その割に、ハルちゃんからイロハへの矢印は随分と太くなってるみたいだけど。
『しかたない』
『そうじょうこうか』
まあね。
私もハルちゃんも、元々イロハ大好きだしね。
『はいはい』
イロハの返しもワンパターンになってきたわね。
そろそろ新しいやつ考えてみない?
『しかたない』
『てれかくし』
『違うわよ。そんなんじゃないわ』
まあ良いけど。
私はようやく動き出して服を着直してくれたミーシャを連れて、私世界表層に戻った。
ミーシャ達と別れて、今度はノアちゃんを待つためにニクス世界の私の部屋に戻ってみる事にした。
「あれ?
どうしたのノアちゃん?
お仕事中でしょ?」
ニクス世界の本来の肉体で目覚めると、何故かノアちゃんが私の上に跨っていた。
先にギルド長さんと話でもするものかと思ったけど、あの後すぐに私の方に来てくれていたようだ。
「今の私はティア。
アルカも知ってるよね?」
「……」
あうち。
普通に話しかけちゃったけど、ノアちゃんたら仮面も外套もつけっぱなしじゃない。
気配もだいぶ変えてるし、私の技能で一瞬で見破れる程度のものではないのだ。
さっきまでラヴェリルちゃん越しにティアちゃんモードのノアちゃんを見慣れすぎていたのが仇になったか……。
というか、それ内緒にしとくやつじゃなかったの?
いやまあ、全部台無しにしたのは私の方なんだけどさ。
「何か言う事は?」
「その話し方も似合ってるわ。
たまには新鮮で良いわよね。
でも出来れば仮面は取ってほしいかな?
知ってるでしょ?
私、ノアちゃんの瞳が大好きなの。
ノアちゃんと話す時は、ちゃんと目を見て話したいな♪」
「……」
いけるか!?
大丈夫!
余計な事さえ言わなければ!
私なら、どんな気配のノアちゃんだろうと見破る事は造作もないと言い張るだけで問題ないはずだ!
きっと大丈夫だ!乗り切れるはずだ!
「今の私はティア。
知ってるでしょ?」
繰り返してきた!?
どういう意図なの!?
「どうしてティアちゃんなの?
それに、なんで私に言うの?
ノアちゃんが秘密にしたかった事なんでしょ?」
「それをわかっていて暴く不届き者がいるから」
「私を疑ってるの?」
「アルカ」
「はい。ノアちゃん」
ノアちゃんは仮面を取って覆いかぶさってきた。
もしかしてノアちゃんも発情しちゃってる感じ!?
行っちゃっていい!?
深層に連れ込んで、全部有耶無耶に出来そう!?
「ミーシャ……チグサ……カルラ……それにフェブリ」
「!?」
「私の鼻を誤魔化せるとでも思っていたのですか?」
猫ってそこまで鼻良かったっけ!?犬ならわかるけどさ!
じゃなくて!ノアちゃんの鼻の良さは知ってるけども!!
「えっと?
何の話?
確かにさっきまで、ミーシャとイチャイチャしてたし、その前はチグサやカルラ達とも会ってたけど……」
「そう。誤魔化せないのです。
いくら姿を変えようが、気配を隠そうが。
あの白いやつからも私の大好きな匂いがしていました。
怠りましたね、アルカ。
あれはアルカの体だったのでしょう?」
「……」
「何か言う事は?」
「私は外出してないよ。
信じてくれる?」
「ええ。だからそう言ってるじゃないですか。
アルカの分身体を別の誰かが動かしていたのでしょう?」
「それも心当たりが……」
「無いのなら全力で調査しなければなりませんね。
アルカの偽物なんて放っておけるはずがありません。
家族全員巻き込んで、諸々ハッキリさせる事にしましょうか」
「……」
「何か言うことは?」
「……ごめんなさい」




