6-12.暴走
「アルカ!緊急案件だ!悪いが協力してくれ!」
・・・・
・・・・・・え?
私達は依頼の山を全てこなして、
ギルドに最後の報告に来ていた。
ギルドに入った途端、
ギルド長さんが慌てて寄ってくるなりそう言ったのだった。
ギルド内も騒然としており、
事態が深刻である事が伺える。
なんか前もこんな事あったな~
しばらくのんびりしようと思ったのにな~
「何があったの?」
「突然魔物の集団が出現し、
凄まじい勢いで町に迫っている。
集団は進路上の魔物達も取り込み
今なお規模を拡大し続けている。
町の防衛に協力して欲しい」
「偵察に行ってくるわ。
可能なら足止めもしてくるから。
ノアちゃんはここで防衛に協力してくれる?」
「はい!」
私は転移門を開いて町の上空に出る。
ギルド長さんの指示した方角を見ると、
かなり遠くの方で魔物が土煙を巻き上げて迫ってくるのが辛うじて見える。
とはいえ、あまり時間は無さそうだ。
少し前にも大量の依頼をこなした直後にダンジョンの暴走があった。
この状況の符号になにか意味があるのだろうか。
あの性悪女神の差し金だろうか
今はそんな事を考えている場合ではない。
私は集団の上空に転移して、
先頭集団から爆撃魔法で吹き飛ばしていく。
魔王との戦いでは何の役にもたてなかったが、
今更この程度の魔物に苦戦するはずもない。
杖の力もあるのだから、魔力も十分だろう。
結局そこからはそれ以上魔物を進めさせる事無く、
集団を壊滅させる事に成功する。
いくらなんでもこの魔物達の動きはおかしい。
最後まで逃げる魔物がいなかった。
お陰で全ての魔物を倒し切ることができたのだけど。
流石に全方位に一斉に逃げられていたら無理だっただろう。
日本で見た創作にはスタンピードという、
今回と似た事象が出てくることはあった。
だが、この世界で魔物達がこんな動きをしたという話はないはずだ。
この規模の惨事が伝えられていないはずはない。
少なくとも、最高ランクの冒険者であり、
世界中を旅した私でも聞いたことのない事だ。
あのダンジョンの時の様に
何者かが魔道具を使って引き起こした事象なのだろうか。
そう思った私は地上に降り立って、
先頭集団の魔物達から収納空間に納めていく。
そうして、辺り一帯を綺麗にしてみたが、
怪しい魔道具などは見つからなかった。
腑に落ちない点は多いが今は報告に戻ろう。
町はまだ混乱状態のはずだ。
早く安心させてあげよう。
ギルドに戻ると、再びギルド長が駆け寄ってくる。
「アルカ!まさかもう終わったのか!?」
まあ、そうか。
当然状況は見ているのだろうし、
爆撃魔法は目立つ。
だいたいの事は把握しているのだろう。
「ええ。もう問題ないわ。
それと話したい事があるの。
状況を落ち着かせたら時間を頂戴」
「わかった。しばらく待っていてくれ」
そう言って、ギルド長さんは事態の収拾に向かう。
私はノアちゃんに向かって転移門を開く。
最近、セレネに会いたい気持ちが強すぎたのか、
転移門を場所ではなく、人をイメージして開くことが出来るようになった。
私の能力が久々に役に立った気がする。
「ノアちゃん。終わったわ。
そろそろギルド長さんからも話があると思うけど」
ノアちゃんは町の外壁にいた。
ここには沢山の冒険者や兵が集まっている。
転移門で先回りしてしまったが、
ギルド長さんもすぐに来るだろう。
「・・・わかりました
何があったかはこれから聞かせてくれるんですよね?」
「ええ。もちろん。
事態が落ち着いたらギルド長さんも交えて少し話をしましょう。
気になっている事があるの。
ノアちゃんの意見も聞きたいわ」
「はい!
せっかくのんびり出来ていたのに、
アルカまた真面目モードになっちゃいましたね・・・」
「仕方ないわ」
「だらしないアルカもどうかと思いますが、
もう少しのんびりアルカでいさせてあげたかったです」
「ありがとう。
でも、ノアちゃんのせいじゃないもの。
気にしないでいいのよ」
「そうですね・・・」
「ほら、私達は先に戻っちゃいましょう。
少し考えを整理しておきたいし」
「わかりました」
私は再び転移門を開いて、
ギルド内の談話スペースに移動する。
予想通り人は出払っており、
少し話をするくらいは問題無さそうだ。
ここでギルド長さんが戻るのを待つとしよう。
「ノアちゃんは今回みたいな事って聞いたことある?」
「いえ、ないです」
「そうよね・・・
私も聞いたこと無いのよ」
「まあ、そのあたりのこともギルド長さんに確認してみましょう」
私は一通りノアちゃんにも情報を共有する。
ギルド長さんに話す前に自分の考えも整理しておきたかった。
そうしてしばらく話し合っていると、
ギルド長さんが帰ってきた。
「待たせたな。行こうかアルカ」