34-34.誤魔化し?
「そう。つまりここはヤ◯部屋ってわけね」
「お下品よ。
あなた、姫の自覚は無いわけ?」
というか、もうムッツリでも何でもないじゃない。
私に対しては隠さない事にしたのかしら。
「アルカが引きずり降ろしたんじゃない」
「それはツムギでしょ」
「誰よ、ツムギって」
「わかってるくせに。
ベアトの事よ」
「ベア姉さまはベア姉さまよ。
あなただけの呼び方なんて持ち出さないでよ」
「あれあれ~?
マノンちゃんは聞いてないのかな~?
ツムギの一番の秘密なのにな~?
ステラは知ってるのにな~?」
「くっ!」
ふふ。お可愛らし。
まあ、マノンには伝えていないとツムギ本人から聞いているのだけど。
「それで、マノン。
話を戻すけど、今後は週一でマノンをこの部屋に連れ込んであげる。
取り敢えずはそれで納得なさい」
何回かキスだけして帰すつもりだけど。
「ダメよ。
毎日連れてきなさい」
「無茶言わないで。
そんなの我慢しきれるわけないじゃない。
きっとマノンが引くくらい凄いことをしてしまうわ」
「へっへえ。良いじゃない。
やってみなさいよ」
あかん。言葉を間違えた。
興味津々な子に言ったら逆効果だった。
「ダメよ。
折角なら長くゆっくり楽しみたいわ。
乱暴にしてマノンを壊してしまうつもりは無いの。
だから先ずは秘密の恋人になりましょう。
じっくり関係を深めていきましょうね」
「私はそんなの求めてないわ。
欲しいのは快楽だけよ。
愛だのなんだのは、あなたが欲しいだけでしょ?
この契約は私優位なのだから、私に従いなさい」
「ふふ。マノンたらまだまだおこちゃまね。
至上の快楽は愛の先にあるものなのよ。
気持ちが伴わなければ、単なる作業と変わらないわ」
「……わかった。
そこまで言うならあなたの案に乗ってやるわ。
精々私を満足させてみせなさい。
でなければ、口が軽くなってしまうかもね」
「ふふ。期待していてね♪」
精々私のキステクでとろとろにしてやるぜ!
「ならさっさと続き始めなさいよ」
バサリとベットに両手を広げて倒れ込むマノン。
どうやら先程私が中断したのは、先にこの話をする為だと思っているらしい。
「ダメよ。気が変わったわ。
今日はもうお終い。
さっきのキスを思い出しながら、一週間過ごしなさい。
ちゃんと我慢出来たなら、次のキスは今日以上に素敵なものになるわ」
「……嫌」
「ダメ」
「嫌よ。今すぐしなさい。でないと」
「良いわよ。皆にバラしても。
そしたらこの関係もお終いね。
私は怒られるでしょうけど今ならまだ許してもらえるわ。
とはいえマノンとは後五年、一切の接触を禁じられると思うけど」
「……鬼畜」
「ふふ。お気に召してもらえていたようで何よりだわ」
「はぁ……なんでこんなやつと」
「最初に誘ったのはマノンの方じゃない」
「……仕方ないでしょ。
あんな風に迫られたの初めてだったんだから」
あれで?チョロすぎない?
「マノン、やっぱり私の事好きよね?
体だけなんて言わないで、素直になったらどう?」
「だまれ」
「はいはい」
私はマノンを引き寄せて膝枕をさせてみた。
マノンは抵抗する事なく受け入れてくれた。
暫くマノンの頭を撫でていると、私の空いた手を取って、指を絡めてきた。
どうやらマノンは、これくらいの触れ合いも好きなようだ。
「マノン」
「喋らないで」
仰せのままに。お姫様。
何やら考え込んでいるようだ。
今はそっとしておこう。
そうして撫で続けていると、マノンから可愛らしい寝息が聞こえてきた。
起きるまでこのままでいてあげよう。
幸いここは深層だ。時間の経過は関係ない。
『マノンは何を考えてたんだと思う?』
『母親の事でしょ。アルカの想像通りだと思うわよ』
『マノン』
『さみし』
そうだね。きっと。
マノンのお母様はあっさりと認めてくれたのだろう。
マノンが私の下へ嫁ぐ事を止めなかったのだろう。
マノンは隠していたけど、きっとそれが寂しかったのだ。
だから私に溺れようとしているのだろう。
寂しさを埋めたいのだろう。
なら私がしてあげるべき事は、欲望のままにマノンを貪る事ではないはずだ。
こうして膝を貸しながら頭を撫でてあげる方が、今のマノンが求めているものに近いはずだ。
私は母親代わりになってあげよう。
きっとマノンは誤魔化されてくれるはずだ。
全部わかっていながら、乗ってきてくれるはずだ。
愛人なんて、建前に過ぎないのだから。
私は溢れんばかりの愛を注いであげよう。
優しく抱きしめてあげよう。
沢山頭を撫でてあげよう。
マノン。私のマノン。可愛いマノン。
今はお眠り。安心なさい。私は側にいるわ。
大好きよ。マノン。
起きたら抱きしめてあげるからね。




