34-33.相性
「あれ?マノンは?」
「私世界に送ったわ。
アニエス達の側に付いていてもらおうと思って」
言えない。
盛り上がりすぎて腰を抜かしてしまったなんて。
それもこれも、全部マノンが悪いのよ。
あの子、誘い方が上手すぎるわ。
ついやり過ぎてしまったじゃない。
本人も何のかんの言って興味津々なのよね。
流石ムッツリちゃんだわ。
結局最後には自分から…………めてきたし。
思わず深層に連れ込みそうになってしまった。
廊下でやってんのも大概だけどさ。
「なんか、顔赤くない?」
「気の所為よ」
おかしい。
今更あれくらいで。
マノンの初々しさに当てられたかしら。
「取り敢えず帰りましょう。
ステラの荷物は?」
「こちらです」
ステラの私物を収納空間に収めてから、ツムギとステラを連れて帰宅した。
自宅では既にノアちゃん達が待ち構えていた。
一応逐一報告も上げていたので、既に全員事のあらましは把握してくれている。
それでも今回のお説教は普段に輪をかけて長かった。
一番の問題は、ムスペルを引っ掻き回してしまった事だ。
家族の皆も、悪いのは私だと認識しているようだ。
まあ、うん。
少し外出を許しただけでこれだものね。
言いたくなる気持ちもよく分かる。
私もここまで大事になるとは思わなかったし。
やっぱり式典なんて開かれたと気付いた時点で、回れ右するべきだったのかも。
あれが最初に起きた想定外だし。
というかだよ?
それならツムギも責められるべきじゃない?
私だけ虐められ過ぎだと思うの。
いやまあ、流石のツムギも責められ続ける私を見かねて止めに入っていたし、結果的にツムギにも反省を促せたのだろうけど。
これもハーレムを形成した者としての務めかしら。
度量の見せ所と言うのなら、受け止めるしかあるまいて。
「それで、誰をどのように扱うつもりですか?」
「アニエスとナディはエリスと同じよ。
エリスが成人するまでの五年と少しの間は、全員纏めて手を出さないわ」
ナディさんはとっくに成人しているけど、そういう契約内容だものね。
「一人足りていませんよ?」
「マノンだけ先に」
「ダメに決まっているでしょう?
エリスにどう伝えるつもりなのですか?」
「それは……」
「例え本人がその気であっても、大人が踏みとどまってあげるべき場面のはずです。
アルカだってそんな事わかっているはずですよね?」
「はい……仰るとおりです」
ノアちゃんが言えた事でも……ごめんなさい。なんでもないです。
「ならば一旦親元にお返ししましょう。
アニエス達と共に行動してもらいます。
ナディさんの恩返しだって、三人で力を合わせれば出来る事が増えるはずです」
「うん。そうだね。
そうしてもらう」
「結構です。
他に言うべき事はありますか?」
「……ステラとミーシャのお嫁さん昇格を認めて下さい」
「……アルカは今日何をしに行ったのです?」
「お嫁さんとご家族への挨拶に……」
「それでどうして五人も増えるのです?」
あかん。お説教がループしはじめてる。
というか、ミーシャもそこに加えるの?
流石にちょっと納得が……。
いや、この状況でそんな事口にしないけども。
そもそも名前出したの私だし……。
再び長い長いお説教の末、どうにかステラとミーシャの事は認めて貰えたのだった。
お説教フェイズが終わったので、マノン達を回収しに私世界に向かった。
次はようやく三人の紹介だ。
取り敢えずニクス世界につれていく前に、お説教の間に決まった事をマノン、アニエス、ナディにも伝えた。
「はあ?
あそこまでしておいて、まかり通ると思ってんの?」
マノンはブチギレた。
私は慌ててマノンだけ連れて、アニエスとナディから距離を取り、声を潜めて説得を試みた。
「悪いとは思ってるのよ……でも……」
「なら、さっきされた事、全部バラしてやるわ。
どうせ伝えて無いんでしょ?」
「ごめんなさい。止めて下さい……」
「交換条件よ」
「なんでしょう」
「私を愛人にしなさい。
家族には内緒でね」
「いや、流石にそれは……」
「拒否権あるとでも思ってるの?」
「うぐっ……」
「大丈夫よ。
心までよこせとは言ってないわ。
あくまで体だけの関係よ」
「このムッツリ耳年増め!」
「アニ!むがっ!」
「わかったから!
その条件受け入れるから!」
「そう。なら五年間よろしくね。
その間に私を落としきれば、それ以降はあなたの望み通り今度は嫁として愛してあげるわ」
「ぐぬぬ」
「ふふ。いい気味ね」
絶対わからせてやる!
どうせ一回深層に連れ込めば音を上げるに決まってるし!
いや、連れ込んじゃダメなんだけど。
口車に乗って本当に愛人らしい事するわけにはいかぬのだ。
適度に転がして誤魔化すしかあるまい!
例え耳年増のムッツリちゃんでも所詮はおこちゃまだ!
誤魔化しようはいくらでもあるはずだ!
精々ごっこ遊びに付き合ってあげるわよ!
どうにか自分に言い聞かせていると、突然マノンが私の耳元に口を寄せてきた。
「手を抜いたらわかっているでしょうね?」
マノンの囁くような声に私の中で何かがプツンと切れる音がした。
気がつくと深層でマノンを押し倒していた。
「え?」
マノンの表情は驚きに染まっている。
場所が変わった事にかしら。
もしくは、あまりにも簡単に挑発に乗ってきたので、拍子抜けしているのかもしれない。
『アルカ』
『すてい』
ギリギリ寸での所で、ハルちゃんの静止がかかった。
私の体が私の意思に反してマノンの上から持ち上がる。
『なんで止めちゃうのよ。
折角良いところだったのに』
イロハは不満そうだ。
『ダメ』
『こうかいする』
『これはダメ』
『ダメなひみつ』
ありがとう。ハルちゃん。
お陰で助かったわ。
『マノンにはえらく簡単に乗せられてしまうのね。
アルカとマノンってよっぽど相性が良いのかしら』
『そう』
『マノンきけん』
『アルカにとって』
『げきやく』
取り敢えず、折角だしここで少し話をしておきましょう。
ハルちゃん、万が一の時は任せたわ。
『がってん』




