34-31.契約
「ナディ姉?
起きてる?」
「どうぞ~」
「お邪魔します」
アニエスに続いて、ナディさんの私室に入る。
「また来てくれたのね~
嬉しいわ~二人とも~」
ナディさんはゆっくりと体を起こした。
どうやらまだ体調は良さそうだ。
少し安心。これから移動させなきゃいけないし。
「ナディ姉。
リベンジに来たよ」
「あらあら。
どういうことかしら~?」
「私の代わりにアル姉がナディ姉を幸せにしてくれるよ。
今度はお母様とベア姉も協力してくれたんだ。
それで、お祖父様の許可も引き出してくれたの。
だから、今度こそナディ姉を貰っていくね」
「それは……困ったわね~」
「え?」
「ありがとう、アニちゃん。
きっとアニちゃんがいっぱい頑張ってくれたのね。
けれど、折角だけど遠慮しておくね。
アニちゃんの想いを踏みにじってごめんなさい。
でも、アルカさんはアニちゃんの運命の人でしょ?
何より、私はもうあんまり長く生きられないの。
きっと沢山困らせてしまうわ」
「違うよ、ナディ姉。全然違う。
私は何もしてない。
アル姉の運命の相手は私だけじゃない。
それに、ナディ姉はまだまだ生きていられる。
アル姉が悪いもの全部やっつけてくれるの。
ナディ姉に困らされた事なんて一度もない。
何時も困らせてるのは私の方だよ。
だからこれから恩返しさせてね。
私、ナディ姉のお世話係を任せて貰えたの。
これからずっとナディ姉の側にいるからね」
「アニちゃん……」
「ナディさん。
私と契約を交わしてほしいの」
「契約?」
「私がナディさんの命を救ってあげる。
だから、私にナディさんを頂戴。
これはそういう契約よ。
永遠に続く健康な体と引き換えに、アニエスが成人したらアニエスと共に私に嫁いでもらう。
それまでの五年と少しは猶予期間よ。
健康になった体で、好きに過ごしてもらって構わない。
この国で恩を返すもよし。
身軽になった体で自由に過ごすもよし。
私のアニエスを悲しませないのなら、何をしても結構よ。
私はアニエスの為にあなたを救うの。
これはアニエスからの恩返しと思って頂戴」
「アル姉……」
「ふふ。そんな風に言われてしまっては断れないわ。
アルカさんたら。ひどい人なのね」
「そうよ。
私は救いの女神ではなく、悪い魔女なの。
少女を誑し込んで、永遠の呪いを与える悪い魔女。
だから慎重にね。
一度契約を結んでしまえば、決して逃がしはしないから」
「……そう。
アニちゃんたら。やっぱり見る目が無いのね。
どうして私やアルカさんみたいな人にばかり惚れ込んでしまうの?」
「おっぱいが大きいからかな」
「ふふ。もう。こんな時に何言ってるの~」
ゆっくりとした動作でアニエスを抱き寄せるナディさん。
アニエスは私の時とはまるで違う、穏やかな表情でハグを受け入れた。
「アルカさん。お願いします」
「本当に良いのね?
二度と引き返せないわよ?」
「ええ。アニちゃんともっと一緒に居たいの」
「わかった」
一旦アニエスを手放したナディさんの側に寄り、最初に私とナディさんの間で契約を結んだ。
それからハルちゃんの分体を同化させて、取り敢えずの処置が完了した。
後はハルちゃん分体が体を内側から支えてくれるだろう。
とはいえ、これはあくまで仮の措置だ。
ナディさん担当のフィリアスも決めなきゃだし、場合によってはシーちゃんにお願いして体を作り変える必要もあるかもしれない。
こればかりは初めての試みでもあるので、少しずつ様子見しながら進めていくとしよう。
一応、念の為私世界で様子を見よう。
シーちゃんの船なら緊急時の対応もすぐに出来るし。
「アニエス。
今から少しの間、私の体が無防備になるわ。
見張りよろしくね」
「え!?それって!?」
「好きにしても良いけど、興奮し過ぎて気絶しないでね」
私はナディさんを連れて私世界に潜り込んだ。
「ここは?」
私に抱き上げられたナディさんは、突然連れて来られた、見たこともない材質の空間に驚いている。
「私専用の別世界よ。
この子はシーちゃん。
シーちゃん、ナディさんの事お願いね」
「イエス、マスター」
「……」
ナディさんは突然目の前に現れたシーちゃんに驚いてフリーズしている。
どうやら許容量を越えてしまったらしい。
「やっぱりアニエスも連れて来るべきだったわね。
せめてあの子に先に紹介しとけばよかったかも」
私はナディさんをベットに寝かせてから、一旦ニクス世界に戻った。
「手を出すの早すぎない?」
「アル姉が良いって言ったんじゃん!
戻ってくるの早すぎだよ!!」
「やっぱり考え直したの。
アニエスにも来てもらうわ」
私は自分の胸に手を伸ばしていたアニエスの手を握って、再び私世界に戻った。
アニエスもナディさんと同じように驚いていたが、呆けているナディさんを見てすぐに正気を取り戻し、心配そうに話しかけ始めた。
「もう大丈夫よ~
驚いてしまっただけだから~」
「ほんとに?」
「ええ~。
それに体も~絶好調よ~」
そう言ってベットを降りるナディさん。
少しだけフラッとしたものの、とっさに手を取ったアニエスを支えにして、どうにか立ち上がって見せた。
「もう!無茶しないでよ!」
「ふふ~。ごめんね~」
取り敢えず二人でいれば問題無さそうだ。
シーちゃんに引き続き頼むとお願いして、私一人でニクス世界に戻り、ツムギ達の待つ離宮に転移した。




