34-30.合流
「おかえり、ベアト。
首尾はどうだった?」
「上々♪」
ベアトは一人で帰ってきた。
アレクシアさん達とはその場で別れたようだ。
「何よりね。
無茶してない?」
「ええ。もちろん。
アルカとこの国の仲違いは避けたいもの」
「そう。
それを忘れていないのなら安心したわ」
「むう。アルカったら疑いすぎ~。
そんなにフィアンセを信じられないの?」
私の腕に絡みつくベアト。
ベアトの場合、単純に甘えているだけでは無いのだろう。
私もいい加減学んだのだ。
ベアトはそういう子だ。少なくとも平常時は。
「ベアトの気持ちは信じてるわ」
「手段が気に入らないとでも言いたげね?
仕方ないじゃない。
王族を引き抜くなんて簡単に出来る事ではないのだもの」
「それを予め教えてくれなかった事に不満があるのよ。
マノンとアニエスの事だって、今日まで一言も言ってこなかったじゃない」
「タイミングが無かったでしょ。
それに大切な妹分達だもの。
無闇に吹聴したりはしないものよ?」
「それはわかるわ。
けれどベアトが秘密主義な事も知ってしまったのだもの。
多少は警戒心を抱くのも仕方のないことでしょ?」
「ダメよ。無条件で信じて。
私が欲しいのはそういう伴侶よ」
「そういうところが信じられないと言っているのよ。
私との結婚だって、手段に過ぎなかったはずでしょ?」
「あ~あ~そういう事言うんだぁ~」
「ごめんなさい。言い過ぎたわ。
先に言った通り、今のツムギの気持ちは疑ってないわ」
「ほんとにぃ~?」
「お望みなら今すぐに証明してあげるわ。
私のツムギへの愛を」
ツムギを抱き寄せて顎に手を添える。
「させるわけ!!無いでしょぉ!!!」
マノンがドロップキックを放ってきた。
ツムギの顎から手を離して、空いた手の中にマノンを抱き寄せ魔法で召喚する。
「……は!?」
「流石にやりすぎよ、マノン」
「またなのね!?
その魔法はズルいわよ!
正々堂々戦いなさい!」
「別にいいけど、流石に今のマノンには負けないよ?」
「くっ!!この!」
惜しい!
「二人ともすっかり仲良しね」
「違うんです!ベア姉さま!」
「どこも違わないじゃない。
アルカに抱きしめられても振りほどこうとしてないし」
「は!?」
シュバッと私の腕の中から飛び出すマノン。
どうやら慣れすぎて気付いていなかったらしい。
「マノ姉ばっかズルいよぉ。
私はダメって言われたのに……」
仕方ないじゃん。
アニエス抱きしめたら気絶しちゃうんだもん。
一度成らず二度までもあんな反応されたら、流石に我慢せざるを得ない。
ところで、ナディーヌさんに抱きしめられてた時と反応違いすぎない?
私には下心しか向けてくれないの?
「アルカったら。
私を口説いたばかりなのに。
もう二人も落としてしまったのね」
「ベアトが言うのは無しでしょ。
仕掛け人のくせに」
「アニエスはそうだけど、マノンは違うのよ?
その為にマノンを引き継ぎ要因にしたんだから」
「そこで私と接点を持たせて、時間をかけて口説かせるつもりだったの?」
「ええ。
流石にここまで早いとは思っていなかったもの。
困ったわ。
まだ次の引き継ぎ候補なんて決めていないのに」
「本当に?
さっき王様とも話し合ってきたんじゃないの?」
「小春」
「ごめん。流石に疑いすぎたわね」
「そろそろ教えてよ、アル姉。
そのコハルとツムギってなんなの?」
「教えるのは良いんだけど、長くなるから後にしましょう。
いい加減次の行動に移らなきゃ。
次はナディさんに会いに行きましょう」
「うん。わかった」
「アニエスとアルカに任せるわ。
今度は私が留守番ね」
「そうね。
首尾良くナディさんを回収したら家に帰りましょう。
マノンも連れて行くからそのつもりでね。
とはいえ今日はただの挨拶よ。荷物は要らないわ。
夕食後にはこっちに帰すわね」
「承知したわ。
ベア姉さま。私も少し外させて頂きます。
母様にも伝えておきたいので」
後日マノンのお母様にも挨拶に行かなきゃね。
表向きには王様の命令って形にはなるでしょうけれど、突然十歳の娘と引き離される事になるのだもの。
最大限のフォローが必要だ。
とはいえ、マノンの場合は通いという形にするのも難しいかもしれない。
ツムギが強引に毟り取ってたし。
アニエスとセットで何か口実を作れないかしら。
アニエスの護衛扱いにでもして、ナディさん達と一緒に一旦この国に戻すとかも考えておこう。
本格的に私達の下へ来るのは、成人後にしておきたい。
お母さんから幼い娘を奪い取るなど外道のする事だ。
アニエス、マノン、ナディさんには、取り敢えず五年くらいはこっちメインで過ごしてもらうとしよう。
その間は週一くらいでうちに来てくれれば十分だ。
これもまた侵略行為と取られてしまうのだろうか。
サンドラ王妃との関係次第かな。
頑張ろう。




