34-29.ライバル?
「もぉ~。
逃げないでよ、マノン。
というか逃げられないんだってば。
諦めて大人しくしてて」
「!?!?!?」
抱き寄せ魔法で膝の上に戻されたマノンが目を白黒させている。
そろそろ本気で嫌われてしまうかしら。
折角懐いてくれたらしいのに。
本当に懐いてる?
「マノ姉だけズルい」
「アニエスも後で抱っこしてあげるわ♪」
「やった!」
「マノンが大人しく出来るようになったら交代ね」
「……」
私の膝の上で横抱きにされたマノンが、睨みつけるように見上げてきた。
「うちに来るんでしょ?
何時までそんな態度のつもり?」
「……ベア姉さまの側に居たいだけだもん」
もん?
「私の弟子にもなるんでしょ?」
「ならない!」
「それは残念ね。
丁度片腕が欲しいと思っていたのに。
今なら世界の半分を牛耳れるくらいの力をあげるのになぁ~」
「世界なんて要らない!
欲しいのはベア姉さまだけよ!!」
「なら私を口説き落とすのが早いんじゃない?
ベアトを私に差し出させるの」
「……一理あるわね」
「頑張ってね♪」
「……好きになさい」
覚悟を決めたように目を閉じるマノン。
「マノンにも手を出したりはしないわ。
当面は普通に可愛がるだけよ」
私はマノンのおでこにキスをしてから、マノンを解放して隣に座らせた。
「なに?
怖気付いたの?
残念だわ。
舌入れてきたら噛みちぎってやろうと思ったのに」
「マノンってむっつりなの?」
「あれ?
私に聞いてる?
えっと、マノ姉は、」
「なんでそうなるのよ!!」
「いやほら、十歳児のくせにディープなやつを御所望だったみたいだから」
「望んでないわよ!
あんたがしそうってだけでしょ!」
「そもそも普通、子供は思いつきもしないのよ?」
「誰が子供よ!!」
ほんと可愛いわね。このおこちゃま。
「ごめんね~。
期待させて悪かったけど、マノンも成人までは待っててね~」
「してないわよ!!」
もう。隣でキンキン騒がないで欲しい。
「次はアニエスの番ね」
今度はアニエスを抱き寄せ魔法で膝に乗せた。
二人とも、条件満たすの速かったわね。
『即落ちじゃない。アルカが』
はいはい。
「でっへっへ~」
「ダメよ。お触り禁止」
「しかたないんだよぉ~
当たっちゃうんだから~」
そう言いながら、片手を私の胸に添えるアニエス。
どうやらエンジンがかかってきたようだ。
「仕方のない子ね」
私はアニエスを正面から抱きしめ直して、アニエスの顔を胸に押し付けた。
「はうっ!ふは!
はぁはぁ!」
鼻息が荒い。
「結局手ぇ出してんじゃない!!」
「何を勘違いしてるの?
普通に抱きしめてるだけよ?」
「アニの欲望知っててそれは通らないわよ!!」
「それ言い出したら、アニエスとはハグ出来ないじゃない」
「それをすんなって言ってんのよ!」
「仕方のないお姉ちゃんね。
もう少しだけ待ってなさいな。
アニエスの番が終わったら、もう一度マノンの番だから」
「早く交代しろなんて言ってないでしょ!?
何をどう聞いたらそうなんのよ!!」
「それより、アルカ様。
そろそろアニエス殿下が限界かと」
あ。
ステラに言われて慌ててアニエスを離すと、鼻血を出しながら恍惚とした表情で意識を失っていた。
「アニエス!死んじゃダメよ!アニエ~ス!!!」
「死にゃあしないわよ。まったく」
マノンは手早くアニエスの口元を拭って鼻血を拭き取り、私にアニエスを寝かせるよう指示して、ステラと共にアニエスの看病を始めた。
「手際良いわね」
「慣れてるだけよ」
そう言えばこの子、マリアさんに武術習ってるっぽいのよね。
見た目は可憐なお姫様だけど、怪我とかの処置は日常茶飯事なのか。
私は自分とアニエスに洗浄魔法をかけた。
丁度そこに、ステラが水の入った桶を持って来てくれた。
ごめん……。
先に言えばよかったよね。
「素晴らしいですね。
その魔法、私にも教えて下さい」
あら?そっち?
私の胸元に興味を示すステラ。
既に私の服にはシミ一つ残っていない。
「触ってみる?」
「はい。それでは遠慮なく」
「なにおっぱじめてんのよ!?」
「もう。
マノンたらやっぱりムッツリなのね。
何でもかんでも結びつけ過ぎよ」
「そうです。姫殿下。
私は洗浄魔法の効果を確かめようとしているだけです」
「ぐっ……」
ステラにまで言われては、流石のマノンも反論出来ないようだ。
「そうだわ!
帰ったらステラにはサナと契約を結んでもらいましょう♪
きっとサナが、色々教えてくれるはずよ♪」
「契約ですか?」
「うん。詳しいことはまた後でね。
取り敢えず、契約を交わせば簡単に魔法が覚えられるわ」
「なにそれ?」
マノンが怪訝そうな声音で問いかけてきた。
簡単に魔法が覚えられるという、怪しい売り文句に警戒しているようだ。
「強力な魔物と契約する事で、その魔物の力を借りる事が出来るの」
「うへぇ……それがあんたの強さの秘密なの?」
「ええ。大部分はそうよ」
「インチキじゃない!」
「かもね。
まあでも良いじゃない。
その強力な魔物達を支配下に置ける力が無ければ、実現しない事なんだから」
「それは……そうね」
「私はその契約を斡旋できるの。
マノンを今すぐ剣聖以上の強者にしてしまう事も出来るわ。
とは言え、一旦マノンには普通に強くなってもらおうかな。
契約はしてもらうだろうけど、力は貸さないでねってお願いするつもりよ」
「……そうね。私もその方が良いわ。
どうせなら自分で強くなりたいし」
「ふふ。良い子ね。
やっぱりあなたは見込んだ通りよ♪」
「あっそ」
ぷいっと顔を横に向けたマノン。
その横顔は真っ赤に染まっている。
この子、なんでこんなに褒められるのに弱いのかしら。
普段、そんなに褒めてもらえてないの?
あの父親やツムギが側にいてそんな筈無いと思うのだけど。
『なら特別な人から褒められたからじゃない。
それだけアルカの事を意識してるって事よ』
まだライバル的な感情しかもってなさそうよ?
『子供は素直で敏感なのよ。
アルカから向けられているのが愛だと伝わっているの。
自分を好きだと言う人に敵意を向け続けるのは難しいものよ』
イロハって人間の子育てまでしたことあるの?
『そんなのフィリアスだって人間だって変わらないわ』
そうかなぁ?
何かはぐらかそうとしてない?
『無いわ。そんな事』
イロハにこそ素直な心が必要だと思うわ。
『はいはい』




