34-27.説得
「まさかジュスタンまで引っ張り出してくるとはな。
これはベアトの差配か?」
「いいえ。父様。
全てアルカの尽力によるものよ」
「ふむ。
やはり距離を置くのが正しかったようだな」
今更後悔してももう遅い!!
いやほんと。
私としても程々の距離感を望んでたんだよ?
なのに、そっちから散々ちょっかいかけてきたんだよ?
後別に、王子の件は私何もしてないよ?
結局、私、ツムギ、アレクシア第一王女殿下、アニエス、マノン、ジュスタン第二王子殿下の計六人で王様の所へ乗り込む事になった。
王子はなんかまあ、あれよあれよと言う間にマノンに丸め込まれてしまったのだ。
こんなんが皇太子で、この国大丈夫なのだろうか。
見た目の雰囲気も、シルヴァンや王様とは似ても似つかない。
言っちゃ悪いけど、王子と言うよりサラリーマンみたいだ。
きっと昔は美少年だったのだろうけど、今は仕事に忙殺されてくたびれてしまったって感じだ。
シルヴァン王子は対象的に飄々として若々しかった。
本人の要領の良さもあるのだろうけど、こうして次男の方を見てしまうと、本来負うべき責任を丸投げしてきたのだとよくわかる。
まあ、既に亡くなった方を悪しざまに言うつもりはないけども。
王様はガッチリ体型の筋骨隆々って感じの大柄な人だ。
王様より将軍の方が似合いそうなくらいだ。
やはりこっちもこっちでジュスタン王子とは全然違う。
そうは言っても、今だけは雰囲気が似てるかも。
王様の方も、初めて会った時のような豪快な雰囲気が鳴りを潜めてしまっている。
何だかんだと、まだまだ落ち込んでいるのだろう。
シルヴァン王子の逝去は、それだけ傷を残したはずだ。
「陛下、私から話をさせて頂きます」
代表して、アレクシアさんが切り出した。
アレクシアさんは、最初にナディーヌさんの治療が可能である事を伝えた。
先ずは揺さぶりをかけていくつもりのようだ。
アレクシアさんの目論見通り、王様は目に見えてわかるほど大きな反応を示した。
喜びは当然の事、瞳の奥に何やら火が付いたようにも見える。
新しい企みごとでも考えているのかしら。
もう。これだから嫌なのよ。
妙な事考えてないで、素直に頼んでくれればいいのに。
そう思いつつ、この場はアレクシアさんに任せているので口を挟まず見守り続けた。
「アルカ殿の提示した条件は、こちらにとって都合の良すぎる程のものです」
「うむ。そうだな。
ナディーヌもその条件ならば否とは言うまいよ」
「陛下、ナディーヌの意思は関係ありません。
事は王族の婚姻に関するものです。
本来であれば、陛下の差配次第で完結する事なのです。
当然、それが国の為である事が前提とはなりますが」
「アニエスの話をしたいのかね?
そうだな。少しばかり個人的に過ぎたかもしれぬ。
あの子の望みを叶えてやろうという、祖父の節介ではあったのだが」
「あくまでもそれ以外の意図は無いと?」
「うむ」
「ならば結構です。
我が娘とアルカ殿の婚姻話は無かった事として頂きましょう」
「まあそう噛みつくでない。
余もそうまでは言っとらんだろうが。
あくまで、どうかと進めてみただけに過ぎぬ」
「陛下。王の言葉には責任が伴います。
そのようなこと、言われるまでもなくおわかりの筈かと」
「アレクシア。
お主こそ個人の意思で判断しておるのではないか?
娘可愛さに手放したくないのが本音であろう?
お主も言ったはずだ。
本来であれば、王族の婚姻は余が差配すべき事。
なれば、余の言葉に従うのも、また王族の務めではないかね?」
「当然です。
陛下のお言葉に異を唱える事などありません。
それが国の為であるなら、喜んで娘を差し出しましょう」
「言葉が過ぎるぞ。アレクシアよ。
それではまるで、余が国を狂わせていると言いたげではないか」
「本当にわからぬのですか?
アルカ殿は陛下の手に余る存在なのです。
剣聖、ベアトリス、我が娘、そしてマノン。
この者らがアルカ殿に魅入られたのは、全て陛下の差配の結果なのです。
アルカ殿にその意思が無いとは言え、このままでは何れ国を切り取られましょう。
アルカ殿ではなく、アルカ殿に魅入られた者達によって、それは引き起こされるのです」
やっぱり私、化け狐扱いされてるわよね?
『しんふぉーむ』
ダメだって。
『ここでやってみたら?
九つの尻尾生やして、「どうやら見破られてしまったようね」って高笑いしながら暴れまわってみましょうよ』
遂には展開に口出しまでしてきたわね?
『てこいれ』
『そうよ。
折角だし、楽しんでみましょうよ。
その内ニクスに寄らない勇者とかも出てくるのかしら』
『せかいのいし』
『ていこうりょく』
『はんのうするかも』
『面白そうじゃない♪
引きずり出して、屈服させてやりましょうよ♪』
『わるくない』
『せかいそのもの』
『しはいか』
『アルカならきっと魅了してしまうわね』
はいはい。
お二人共その辺で。
今は楽しく盛り上がるような雰囲気じゃないのよ。
もっと温度差考えてよ。
あとなんか、今日のイロハ軽くない?
実は偽物だったりしない?
『失礼ね。そんなわけないじゃない』
『えいきょう?』
『ゆうごう?』
『そんなヘマしないわ。
大丈夫よ。少し燥ぎすぎただけよ。
あんまりにもアルカが笑わせてくるものだから』
『しんぱい』
『要らないってば』
イロハの事はハルちゃんに任せるわ。
異常を感じたら、すぐに言ってね。
『まかせろ』
私達がワチャワチャしている間、話は進んでいなかった。
どうやら王様は言葉に詰まっているようだ。
心当たりが在りすぎるのだろう。
「なれば、お主は如何にすべきと考えておるのだ?」
「何より適切な距離感を。
そして、真摯な対応を。
アルカ殿は謀議を嫌います。
言うまでもない事ですが、アルカ殿の機嫌を損ねれば我らに打つ手はございません」
いや?
やらないよ?
武力制圧とか、国の切り取りとか、少なくともこの国では。
そんな事をすれば、折角セレネ達が慎重に国取りを進めているのに、全部台無しになりかねない。
この国やリオシアが直接知る事は出来なくとも、ギルドを通じて情報は出回っているのだ。
このタイミングでムスペルを落としてしまえば、クリオンの切り取りだって私の関与を疑われるはずだ。
いやまあ、そんな真面目な理由がなくたってやらないけど。
別にこの国にそこまでの興味無いし。
「ふむ……」
この期に及んで尚反応の鈍い王様。
まあ、元々普通に自覚もあるのだろう。
改めて指摘されるまでもなく。
なら、他にも何か想いがあるのだろうか。
私を利用して成したいことが。
それはナディーヌの事?
それとも、別の何か?
アレクシアさんはそんな王様に追撃を放った。
「今のこの国をサンドラ王妃がご覧になった時、どのような想いを抱くのかは想像に難くない事でしょう。
場合によっては、アルカ殿との全面戦争にすら発展しかねません。
陛下。今すぐご決断を。
我々は備えねばなりません」
おっかないお母さんが帰って来る前に、ちゃんとお片付けしておこうね。って話かしら。
とっ散らかった現状を纏めないといけない。
そしてそれは、陛下主導でなければならない。
そんな話を国の一大事風に話して聞かせるアレクシアさん。
まあ要するに、いい加減目を覚ませ。
企んでる事があるなら吐いてしまえ。
そんな事を滾々と言い聞かせ続けたのだった。




