34-24.味方集め
暫くアレクシアさんと話を続けてから、私達は離宮に移動した。
諸々疑問に思っていた事をアレクシアさんにも確認してみた所、結局アニエスの件は概ねアニエスの話した通りだったようだ。
元々ツムギの離宮に通い詰めていた時点で色々と噂されていた所に、ナディーヌさんへの求婚事件が決定打になってしまった。
とは言え、所詮はただの噂だ。
その程度の事で何らかの実害が出る程、この国は殺伐とした場所ではない。
ましてや、アニエスは未だ九歳だ。
アレクシアさんですら、何れそんな誤解は解けるからと、大して気にした風でもなかった。
余計な情報を外して事実を正しく見るなら、アニエスのやった事は、幼い子供が病弱な友人を心配して、自分に出来る精一杯で幸せにしてあげようとしただけの事だ。
王様の所に乗り込んで大騒ぎしたのはやり過ぎだったかもしれないが、事件そのものについては微笑ましいものでしかないはずだ。
優しい少女が大好きなお姉さんに、お嫁さんにしてあげると言っただけの事なのだから。
まあ、ツムギの件以外にも噂の原因はあるんだけども。
こっちは完全にアニエスの落ち度なので反省は必要かも。
どうやらセクハラ幼女なのも、それはそれで間違っていなかったそうだし。
お姉さんメイド達にチヤホヤされながらお茶会をするのが趣味なのは本当の事らしい。
胸部に並々ならぬ興味を示すのも、知れ渡っていたようだ。
普段からそんな事をしていたが為に、珍しく純粋な気持ちで起こした行動でも、誰にも信じてもらえなかったのだろう。
いや、多分身近な人達は信じたのだろうけど。
特に王様はそのはずだ。
でなければ、ナディーヌさんから引き剥がしたはずだ。
アニエスが邪な心で迫っていたなら、体の弱いナディーヌさんには害になりかねないのだし。
「アルカ様。
今度こそ間違いなく送り届けると。
そう仰ったはずですが。
何故増えていらっしゃるのですか?」
離宮に戻ると、ステラが詰め寄ってきた。
そうね。
一人帰そうとしたら、二人増やして来たのだものね。
ごめんなさい……。
「成り行きで……」
「まあ良いじゃない。ステラ。
アレク姉様まで遊びに来てくれるなんて珍しいんだし。
また話す機会が出来て私は嬉しいわ」
ツムギがステラを諌めてくれた。
どうやらアレクシアさんとツムギは疎遠気味だったようだ。
「もう。そんな事言って。
ベアトがここから出てこないからじゃない。
あなたがもっと社交的なら、アニエスが噂される事だって無かったかもしれないのよ?」
「勘弁してよ。姉様。
アニエスのセクハラは私のせいじゃないでしょ」
「それだって、きっとあなたが甘やかし過ぎたからよ。
可愛がってくれるのは嬉しいけれど、毎日帰ってきてもベア姉、ベア姉ってそればかりなんだから。
私の気持ちももう少し慮ってほしいものだわ」
「よく言うわ。
姉様だって猫っ可愛がりしてるじゃない。
厳しく叱るようになったのもつい最近の事でしょ?
甘やかしてきたのは姉様の方よ」
「……そうね。
自覚しているわ。
ごめんなさい。ついあなたのせいにしてしまったわね」
「ううん。
姉様の気持ちもわかるもの。
それに、私が甘やかしすぎたのも事実だから。
ステラが止めてくれるまで、セクハラも見逃してたし」
「ベアト?
それはどういう事かしら?」
「あ、いや。ほら子供のする事だから。
あはは。セクハラなんて言っても可愛いものだったわ。
むしろ言葉の綾ってやつよ~。
そう!スキンシップ!
ちょっとスキンシップが過剰だっただけだから!」
「もう。またそうやって甘やかして」
この二人、アニエスの事好きすぎじゃないかしら。
取り敢えず、二人から甘やかされてきたのは間違い無さそうだ。
私とツムギは皆をリビングに残して、二人で部屋を出た。
そのまま廊下を歩きながら、話を切り出した。
「それで、王様の方はどうだった?
面会、受け入れてくれそう?」
今日は大分忙しそうだし、もう一度ってのは難しい可能性もあるだろう。
「少し遅くなるけど大丈夫よ。
それまでここで時間を潰すとしましょうか」
「わかった。
なら折角だし女子会でもしましょうか」
「ふふ。良いわね。そうしましょう。
お茶と菓子の準備は任せておいて♪」
「ごめんね。
人数増やしちゃって」
「ふふ。良いのよ全然。
それにしても、マノンまで引っ掛けてくるなんて流石はアルカね。
マノンも連れて行ってくれるつもりなの?」
「その口ぶりって事は、まさかベアト、マノンもなの?」
「ええ。本当は私が一緒に居たいだけなの。
でも安心して?
もうこれ以上はいないから」
「結局あなたもハーレム作ってたんじゃない」
「アルカに言われるのは釈然としないわね」
「でも良いの?
マノンは王妃様のお気に入りなのでしょう?」
「う~ん。ダメかも。
最悪、アルカの命狙われるかも。
私、ステラ、アニエス、マノン、ナディーヌ、それにエリスちゃんもかな。
母様からしたら、次々と国の中枢から年若い乙女ばかり引き抜いていく危険人物にしか見えないでしょうし」
「そんな軽く言わないでよ……」
「ふふ。冗談よ。
責められるのは父様になるはずだから問題ないわ」
「え?
それってどういう事?」
「アレク姉様ならそうすると思うの。
姉様も兄様に負けないくらい策略家なんだから」
「ツムギはどこまで把握しているの?」
「ベアトよ。ベアト」
「ああ。うん。ごめん」
「大丈夫よ。全て上手く行くわ。
心強い味方も付いてくれた事だしね」
「ベアトが一番、何を考えているのかわからないわ」
「まあ。なんてことでしょう。
フィアンセに信じてもらえないなんてショックだわ」
「そうやってすっとぼけてるからじゃない。
どうやら私が考えている以上に、諸々の事情を把握してたみたいね」
「単なる匂わせかもよ?」
「手っ取り早く確かめる方法があるわ」
私はツムギを抱き寄せた。
「あら。こんな所で初めてを?
流石に殺風景じゃないかしら」
「違うわ。
それはまた今度ね。
そうではなく。ツムギにはまだちゃんと伝えてなかった事があるのよ」
「何かしら改まって。
少しドキドキしてしまうわ」
「大丈夫よ。
紹介した二十三人以外にお嫁さんはいないから。まだ」
「それで、何人になるの?」
「その話はまた後でね。
そうではなくて、私とツムギの話よ。
私達は契約を交わしたの。
悪いけど、緊急時だったから一方的に結ばせてもらったわ。
今の私とツムギの間には、パスが繋がっているのよ」
「具体的には何が出来るの?」
「今のところは力を送り込むくらいね。
けれどツムギとのパスは特別製なの。
ちょっと前に私自身に大きな変化があったから」
「それで?」
「やろうと思えば、ツムギの心を丸裸に出来るのよ。
あんまり隠れてコソコソするつもりなら、強引に暴いちゃうかもしれないわ」
「ふふ。怖いこと言うのね。
大丈夫よ。何も企んでなんていないわ」
「本当に?
アニエスやマノンの名前を私に伝えて来たのも、今この状況を作り出すためだったりしない?」
「そんなわけないじゃない。
名前を教えただけでこうなるなんて、どうやって想像できるの?
いくらなんでも疑いすぎよ。
可哀想に。兄様にいいようにされてしまったのが忘れられないのね?」
「そんな言い方しないで」
「本気で嫌そうね。
ごめんなさい。冗談が過ぎたわね」
未だ腕の中に収まっているツムギ。
やっぱりこのままキスしてやろうかしら。
何だかはぐらかされてる気がするし。
「こんの!泥棒猫!!
少し目を離した隙に!!!」
「あら。時間切れみたいね。
もう少し逢瀬を楽しんでいたかったのだけど」
そう言って名残惜し下に私の腕の中から出て、マノンに向き合うツムギ。
「ごめんね、マノン。
実はアルカに言い寄ったのは私の方からなの」
「え!?」
「それでね、マノン。
今私、アルカにお願いしてたの。
私の大好きなマノンも一緒に攫ってほしいって。
どう?
一緒に来てくれる?」
「!?!?!?もちろんです!ベア姉さま!
ベア姉さまの在る所、このマノン何処までだってお供します!」
あなただぁれ?




