34-22.一難去ってまた一難
「マノン、まだ付いてくるの?」
「なによ。不満なの?」
そう言ってるつもりなんだけど。
この子も大概話し聞かないわね。
「今からアニエスのお母様に会うんだよ?
いきなり大勢で押し掛けたら失礼でしょ?」
「大丈夫よ。アレクシア様とは親しいから。
普段からアニエスの事だって頼まれてるし」
「……その割にはアニエスに避けられてない?」
「そんな事無いわよねぇ?ア~ニ~?」
「うっうん!もちろん!
マノ姉の事も大好きだよ!」
「ふふ。良い子ね~」
身を強張らせたアニエスを抱きしめて頭を撫でるマノン。
どうやらマノンの方はアニエスを好いているようだ。
残念ながら、その想いは一方通行のようだけど。
「私のアニエスにあまり気安く触れないでほしいわ」
「ああん?
私のですってぇ?」
このお姫様、どうしてこんなに喧嘩っ早いの?
「そうよ。
今からアニエスのお母様に許可を貰いに行くの。
娘さんを下さいって。
だから、正直マノンにはお帰り願いたいのよ。
あなた、絶対邪魔するでしょ?」
「……」
あれ?
何か普通にドン引きしてる?
なんか目つきも完全にゲス野郎を見る感じのやつだし。
「あんた、一体どういう神経してんの?
この子、九歳よ?
本気で手を出すつもりなの?」
「将来ね。
成人するまでは手を出したりしないわ」
「そんときあんたいくつよ?
もうとっくにおばさんじゃない」
かっちーん。
「ふふ。これだから世間知らずのお姫様は。
私、普通の人間じゃないもの。
あなたがお婆ちゃんになったって、私の姿は変わらないのよ」
「はぁ?」
今度は何言ってんだこいつって顔で見てきた。
本当になんでツムギは私とこの子が相性良いと思ったのかしら。
普段はよっぽど猫被ってるのかな?
まあ、今の方がおかしいのか。
単に私の事を嫌いすぎて、変な態度になっているだけか。
「別に信じる必要は無いわ。
私はあなたの疑問に答えただけだもの。
ベアトの大切な子みたいだから粗雑には扱いたくないだけだし」
「……ベア姉さまがそんな事を?」
「ええ。
まだ暫く一緒に居たいから、こっちに通う許可が欲しいって」
「それで、なんて答えたの?」
「もちろん許可したわよ。
毎日送ってあげるって約束してあるわ。
せめてその間は安心してベアトと過ごしなさいな。
私は邪魔しないようにすぐに帰る事にするから」
「……そう」
「マノ姉、この件はきっとお祖父様の仕込みだよ?
アル姉は無理やり連れて行っちゃうような人じゃないよ?
ベア姉だって、きっと納得してる事だよ?」
「……わかってるわ。そんな事」
納得どころか、そのツムギが仕組んだ本人なんだけど。
流石に言わないけどさ。
「悪かったわね。色々失礼な事言って」
「ううん。大好きなお姉ちゃんを取っちゃってごめんね。
でも、ベアトが皆から好かれてると知れて嬉しかったわ」
「……そう」
あら。
あっさり落ち着いてしまったのかしら。
「付いたよ、アル姉。
お母様は今はこの部屋にいるはずだよ」
ようやくか。
何か今更緊張してきた。
「どうせ言い寄ったのはアニの方なんでしょ?」
「え。うん。そうだけど」
「なら協力してやるわ。
私の為にもなるでしょうし」
え?それってどういう事?
「マノ姉!!」
感極まってマノンに抱きつくアニエス。
別に嫌っているわけではなかったのか。
私に対してキレてるマノンが怖かっただけかしら。
「もう。アニったら。
調子が良いんだから」
そう言いながらも、嬉しそうにアニエスを撫でるマノン。
ここの王族も随分と仲が良いようだ。
「それじゃあ、行くよ」
アニエスが扉の前に立つ。
どうやら先陣を切ってくれるようだ。
ここは素直に任せておくとしよう。
流石に王族の部屋に私が突撃するわけにもいかないし。
「ただいま!お母様!」
「ア~ニ~!!!」
開かれた扉の先には、憤怒の形相を浮かべる鬼が立っていた。
そう言えば、アニエスは書き置き一つで姿をくらませたままだったのよね。
さぞ心配をかけた事だろう。
また話が長くなりそうだ。




