34-21.連鎖フラグ
「そういえば、マノンの事はどう思う?
アニエスと同じように、ベアトの所に通っていると思うのだけど」
「マノ姉?
マノ姉とも会ったの?」
「いえ。そういうわけではないわ。
ただ、ベアトから話を聞いたことがあっただけよ」
「そっか。
マノ姉はまあ、心配要らないよ。
ベア姉以上に強い、というか強烈な人だから。
自分の事噂してる人がいたら、襟首掴んで抑えつけてから問いただすと思う」
あれ?
なんか思ってたのと違う?
ベアトの弟子で、寂しがりだって聞いたんだけど?
しかも襟首なの?胸元じゃなくて?
「!?」
その直後、突如生じた殺気に反応して私の体が勝手に動いた。
「イッたぁ~~!!
な~にすんのよ!!」
気付いたら少女を組み伏せていた。
歳は十二くらいだろうか。
どうやらアニエスの襟首に手を伸ばそうとしていたようだ。
「あなた、もしかしてマノン?」
「そうよ!この泥棒猫!
私のベア姉さま返しなさいよ!」
なんでツムギはこれと私の気が合うと思ったのかしら。
しかもこの子、王妃からも気に入られてるのよね。
気性の激しさはともかく、能力とかは優秀なのかしら。
『セレネに似てるからじゃない?』
いや、セレネこんな野蛮じゃないよ?
取り敢えず、既に私の正体は知っているらしい。
あの式典にも混ざっていたのかしら。
それにしてもツムギったらモテるのね。
アニエスとマノン、それにステラもぞっこんみたいだし。
年下キラーなのかしら。
まあ、気持ちはわからんでもない。
お菓子作りと実験が得意なおもしろお姉さんとか、子供達には引く手数多だろう。
私はマノンを開放して助け起こした。
マノンはすぐさま私の下を飛び退いて、シャーっと威嚇を始めた。
「はじめまして、マノン。
良かった。出来れば一目会ってみたいと思っていたの。
こんな出会い方になってしまったけれど、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「誰があんたなんかと!!」
「私と仲良くなれば、ベアトとも会いやすくなるじゃない」
「卑怯者!!
よりによってベア姉さまを人質にするなんて!!」
「あれれ~?
良いのかな~?
そんな事言うなら、二度とベアトと会わせてあげないわよ~?」
「くっ!!」
『なに子供虐めて遊んでんのよ』
いや、なんかつい。
この子、アニエスとは別ベクトルで弄りがいがありそう。
「ほら、わかったのなら仲直りの握手でもしましょう?」
「ーーーー!!!!」
真っ赤になって奥歯を食いしばりながら怒りを堪えるマノン。
流石に煽りすぎたかしら。
少し逡巡したものの、マノンはバシンと叩くようにして、私の手を取った。
「はい、握手握手。
これで仲直りね。
アニエスも良いわよね?」
「は!?え!?私!?」
突然話を振られて狼狽えるアニエス。
どうやらマノンの事は苦手なようだ。
「さっきマノンはあなたに手を伸ばしていたのよ。
噂話をしてしまったからね」
「あ!?ごめん!マノ姉!
別にマノ姉の事悪く言うつもりじゃなかったの!」
「別にいいわよ。
アニの迂闊さは今に始まった事じゃないし。
けど気を付けなさい!
次もこの泥棒猫が守ってくれるとは限らないんだから!
というかあんた何時まで握ってんのよ!離しなさいよ!」
私の握力の前では、マノンの力など無力に等しい。
足まで使って引っこ抜こうとするマノン。
はしたないから止めなさいな。
私が手を離すと、マノンの体は勢い余って後ろに倒れ込みそうになる。
私は転移でマノンの体を前後に入れ替えて、後ろから抱きとめるようにして倒れるのを防いだ。
「え!?」
マノンからしたら、突然後ろに私が現れたように見えたのだろう。
驚き過ぎて硬直してしまった。
「大丈夫?」
「えっええ。ありがとう」
律儀にお礼を言ってから離れるマノン。
「ごめんね。驚かせてしまったわよね。
よかったら少し話をしない?
マノンにも教えて欲しい事があるの」
「アル姉!?
まさかマノ姉まで引き込むの!?」
「第三者の視点は大切でしょ。
アニエスが周りからどう思われているかなんて、アニエス自身にはわからない事だってあるんだから」
「あ、なんだ。そっちか。
私はてっきり……」
「お嫁さんにすると思った?
流石にありえないわよ」
もう今日だけで、二、三人増えそうになってるし。
おかしい。
私は新しいお嫁さんと挨拶に来ただけだったのに。
「なんですって?」
あれ?
なんでマノンがまた切れてるの?
「私では不服だと?」
「不服も何も、マノンは私の事嫌いなんでしょ?」
「当然じゃない!
私のベア姉さまを奪ったんですもの!」
「マノンのものではないわ。
ベアトは私のよ」
「こんのぉ!!!」
「すぐに手を出すのは止めなさい。
あなたもお姫様でしょ?」
手どころか足まで出てるし。
しかも随分と様になってる。
動き的に、マリアさんに教わってるっぽい感じがする。
何にせよ、お姫様が城の通路でする事じゃないけど。
この国の姫様達、曲者揃いすぎない?
教育体制の見直しが必要じゃないかしら。
「くっ!!!
ちょっと強いからって!!」
「ちょっとじゃないわ。
世界で二、いえ、三……十番以内に入るくらいは強いわよ」
おっかしいなぁ。
力の総量だけなら、世界一なんだけどなぁ。
「!!良いわ!あなたの質問に答えてあげる!
その代わり私を弟子にしなさい!
必ずベア姉さまはこの手で奪い返してみせるわ!!」
武力で?
しかもそれでなんで私に弟子入り?
と言うかあなた、ツムギの弟子でしょ?
色々ツッコミたいのを抑えて、言葉を返す。
「ならいいや。
またね、マノン。
今度ベアトと一緒に会いに来るね」
「は!?え!?」
「アニエス、行こ。
この調子じゃ、何時まで経っても辿り着けないわ」
「うっうん」
私は戸惑うアニエスの手を今度は自分から握り直して、歩き始めた。
「……ちょっと待ちなさいよ!!」
結局マノンからも逃げられないのかしら。
『三連覇ね』
『ちがう』
『よん』
『ステラとも』
『けさだから』
『今日だけで四人も落とすのね。
ついでだから、もう一人誰かいないかしら。
マノンまで含めても二十九人で中途半端なのよね』
『さんじゅうにん』
『きねん』
『せいだいに』
『お祝いね』
叱られるわよ!




