32-14.修正力
「アルカ様。アニエスと申します。
叔母様共々、どうぞ末永く宜しくお願イタッ!
なにするのよ!お母様!」
「アルカさん。娘がごめんなさいね。
この子ったら、少し燥ぎ過ぎてしまったみたいなの」
頭を叩かれたアニエスが、そのまま第一王女に引きずられていった。
良かった。どうやらフラグが折れたようだ。
珍しい事もあるものね。
『流石にそれは甘いんじゃないかしら。
なんかもう目付けられてるみたいだし』
『ちょっと』
『たのしみ』
ハルちゃんまで……。
完全に観客気分じゃない……。
ツムギに連れられて移った部屋には、既に十人近い王族達が揃っていた。
どうやらこの集まりの主目的は、あくまで事件解決とこの国の危機を救った事に関しての礼だったようだ。
全員が全員ツムギの為に集まったわけではないらしい。
ツムギがそんな人望は無いと笑いながら教えてくれた。
そうして王族の方達との話が一巡りしたところで、アニエスが突撃してきたのだった。
どうやらここに来た王様の孫世代は、アニエス一人だけのようだ。
流れ的にマノンという子も来ているかと思ったけど、それも無かったらしい。
結局何事もなくお開きとなった。
そのまま、私とツムギは離宮に戻るため、来たときと同じように二人で城内を歩きだした。
なんか、諸々良かったような、残念なような。
もういっそ、ここまで来たらマノンの事も一目見てみたかった気がしなくもない。
『アニエスもアルカ好みの美少女だったものね』
まあうん。それは否定しないけども。
『マノンの方は、サンドラ、ツムギの母親に挨拶に来た時にでも会うんじゃない?』
ありそう。
なんか名前出てたし。
『むしろ先にマノンを拐かして、後でサンドラへの挨拶に行った時に機嫌を損ねているパターンも面白かったかもしれないわね』
変な冗談やめてよ。
なんでそんな事面白がるのよ。
『いつも楽しませてもらってるわ』
こんにゃろ。
私が慌てふためく姿がそんなに面白いか!
『ええ。暇潰しには最適よ』
イロハは今度から留守番させちゃる!
私世界でミヤコ達の役に立ってなさい!
『無理よ。
私が側を離れられないの忘れたの?』
融合、まだ落ち着かないの?
もうだいぶ馴染んでない?
『私が干渉して今の状態で止めているからよ。
私が手を離しても維持されるまでは続けるわ』
それってどれくらい?
『さあ?
数十年後かもしれないし、数千年後かもしれない。
永遠にそんな時は来ないかもしれない。
大丈夫よ。何時までだって付き合ってあげるから』
もうそれ、実質イロハも融合してるようなものよね?
『さんいいったい』
『私も分化身に付けなくちゃね』
完全に永住する気でいらっしゃる。
まあ、嬉しいけども。
『融合を解けば何時でも離れてあげるわ』
しないよ。だから離れないで。
『はいはい』
『イロハでれた』
『はいはい』
その割にはチクチクが止まないのよね。
まあ、それもイロハなりの愛情表現なんでしょうけど。
「小春、この後の事なんだけど」
「うん。なに?
何でも言って。今日一日、ツムギの好きにして良いわ」
「ほんと?
それは嬉しいわね。
けど、そっちの話じゃなくてね」
「うん」
「研究の引き継ぎの事よ」
「そっちね。
取り敢えず、もうダメだと言うつもりは無いわ。
時間もかかるでしょうし、毎日送ってあげる」
「ありがとう。
それでね。実は言ってなかった事があるの」
「え?」
「私の研究室には私以外にもう一人出入りしてるの。
その子はまあ、いうなれば私の弟子みたいな子なのよ。
正確に言うと私が家庭教師してるってだけなんだけどね。
とはいえ、この度正式に研究を引き継いでもらう事になったのよ。
流石に前世の事とかまでは教えてないんだけど、研究の方はある程度教えてあるわ。
あの子は優秀だから、引き継ぎもすぐに終わると思う。
けれど、きっと寂しがると思うの。
あの子、私によく懐いてくれていたから。
だからね、まだ暫く通って様子を見たいのね。
それで、その子と毎日二人きりになってしまうけど、大丈夫かしら?」
「えっと?
大丈夫って何が?」
「不貞にあたらないかなって」
「その子って男の子なの?」
「いいえ。
知ってるでしょ?
あの離宮は男子禁制よ。
研究室は離宮内にあるのだもの。
当然弟子も女の子よ」
「ならアニエスって事?」
「ふふ。違うわよ。
あの子はそんな柄じゃないもの。
弟子はマノンよ。
って言っても、アルカはまだ会ったこと無いけど」
「別に構わないけど?」
ならなんでさっき私の嫁候補に指名してたの?
あれはそもそも冗談のつもりだったのかしら。
「そう。良かった。
知らない女の子と二人きりになるのは問答無用で禁止とかだと、少し困ってしまうものね」
「ああ。なるほど。
そう言う事ね。
心配しなくても、うちはその辺緩いから。
ノアちゃんとセレネだってそういう関係だし、他の子達もそれぞれに関係を持ってる事もあるのよ。
とはいえ、私の元を離れたいとかってなると、流石に話は変わってくるけど」
「関係とはどこまでですか?」
「どこまでねぇ~。
別に制限は無いから普通に愛し合うのは構わないけど、私以外との指輪は認めてないくらいかなぁ。
あとは……?どちらさま?」
「もーお忘れですか~?
先程ご挨拶させて頂いたじゃないですか~」
「アニエス、また勝手に抜け出したのね。
姉様が怒るわよ」
「私決めたよ!ベア姉!
私もアルカ様ハーレムの一員になるの!
書き置きも残したから何の心配も無いよ!」
おかしい。フラグはポッキリ折れたはずだったのに。
なんでこの子が眼の前にいるのかしら。
というか、イロハもハルちゃんも気付いてたんでしょ?
なんで言ってくれなかったの?
『その方が面白そうじゃない』
『みぎにおなじ』
こんにゃろ。
「それでそれで!
ベア姉達はどこまでいったの!?
コハルとツムギって二人のことだよね!!
なになに!?二人だけの秘密の呼び方なの!?
詳しく教えてよ!ベア姉!」
一体何時から聞いてたのよ……。




