34-9.あくましんかん
カルラとフェブリは次々と依頼をこなしていった。
こっちはもうなるようにしかならないだろう。
そんな若干投げやりな判断で、後の事は二人に任せる事にした。
「最後はシオンね」
早速シオンとも連絡を取ってみた。
シオンは、クリオンに観光に来るとある金持ちの使いという設定だ。
主人に先んじてこの地を訪れ、拠点の確保と整備を任されているという事にしてある。
というか、昨日急遽そういう設定に変更したのだ。
最初は一介の旅人設定のつもりだった。
取り敢えずの拠点を探すために賃貸でも探そうとしていたところ、思いの外良さそうな屋敷が売りに出されていたので、折角だし買い上げてしまう事にしたのだ。
どの道あの町とは長い付き合いになるだろうから、今の内に仕込んでおく意味はあるはずだ。
それはそれとして、今のところ教会と絡むつもりはない。
国取りに関しては、あくまで観客として楽しむつもりだ。
とはいえ、流石に数日程度で動きのある事でもない。
国取りなんて、年単位の時間が必要になるだろう。
既に拠点の確保もしてあるし、数日に一度でも様子を見に行けば十分なはずだ。
それにしても、都合よく良い物件が偶然空いていてくれて何よりだ。
……まさか、グリアの罠じゃないよね?
流石に無いよね?
『心配なら止めておけばよかったじゃない』
だってぇ~。
『だいじょうぶ』
『いんぺい』
『かんぺき』
『それに』
『かんきゃく』
『くらい』
『もんくいわない』
『それもそうね。
精々、目に付く位置に置いておきたいって程度かしら。
なら、こちらから過剰に干渉しない限り、向こうも口出ししてこないわね』
そうかな~。
まあそうだよね。
ハルちゃんとイロハがそう言うんだもん。
間違いないよね!
『アルカ様』
『なに?、シオン』
『教会から使者の方が参りました。
いかが致しましょう』
あうち。
言ってる側から!
しかも昨日の今日よ!
『悪いけど、手筈通りに追い返して』
『御意』
シオンは主人がまだ到着していないからと、教会からの使者にお帰り頂いた。
どうやら単なるご挨拶だったようだ。
使者はすぐに退散していった。
『今後もその調子でお願いね。
噂だけ集めてもらえば、あとは好きに過ごして良いから。
もちろん、何時でも帰ってきていいからね』
『承知致しました。アルカ様』
『くれぐれも、私達の事を気にしすぎてはダメよ。
シオンの望む事を優先してね』
『アルカ様の側でお仕えする事こそ我が望みです』
『もう。シオンったら。
わかった。ならこっちで私とチハちゃんズ全体の補助も頼むね。
ヒサメちゃんはまだ不慣れだから、色々助けてあげて。
そっちの件とも兼任になっちゃうけど、取り敢えずはそれでいいかしら?』
『感謝致します』
その内、完全な内勤に戻してあげよう。
シオンには悪いけれど、今だけ少し外に出てもらうけど。
やっぱりチハちゃんズも人手不足ね。
あと二、三人くらい増やせないかしら。
『あてある』
『イロハ』
『しんえいたい』
『ふっかついそぐ』
『そろそろ家族か親衛隊か側近かハッキリしたらどう?』
イロハがそれ言うの?
イロハの娘達なんだから、イロハが決めてよ。
『嫌よ。
名付けになんて興味ないもの。
アルカが好きに決めたら良いじゃない』
好きにとか言って、結局あれこれ文句付けるくせに。
まあいいわ。
イロハがそういうのなら。
『イロちゃんズはダメよ』
ぐぬぬ!
『イーちゃんズ?』
『ちゃんズから離れなさい』
ならイロハハーレムとか?
『違うわよ。そんな関係じゃないわ』
どちらかと言うと、イロハの娘や配下だものね。
うむむ。
イロハ隊は?
『却下。私の名前を冠するのも無しよ』
それじゃあ分かり辛くなっちゃうわ。
うちもチームが複数出来つつあるし、わかりやすさって重要だと思うの。
『知らないわよ。
アルカが勝手に増やしたんでしょ』
もう。しょうがないなぁ。イロハは。
そのうち何か考えておくね。
『今決めなさいよ』
だって思いつかないんだもん。
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「ハルに理解してもらえて嬉しいわ」
『しかたない』
『アルカのため』
「悪いわね。
裏切らせてしまって」
『もんだいない』
「覗くのは構わないけれど、ヘメラの名だけは伝わらないようにね」
『だいじょうぶ』
『へんかん』
『かける』
「なんだか怖いわね。
ハルがその気なら、アルカは現実を正しく認識できなくなってしまうのね」
『ふあん?』
「いいえ。怖いけど不安は無いわ。
ハルがアルカを傷つける筈無いもの」
『とうぜん』
「程々に。
でも徹底的に頼むわね。
この計画は、ヘメラがアルカの所有物となってしまえば成立しないのだから」
『たりない』
『あとからでも』
『かわるかも』
『あれが』
『またくる』
『かのうせいも』
「そうね。
けれど時間は稼げるわ。
ヘメラには引きこもってもらうもの。
魔王の魂が癒えるまでの、五、六百年程度でしょうけど」
『つぎのさく』
『かんがえる』
「皆でね。
やっぱり、グリアさんも完全に落としてしまいましょう。
私達にはあの人の力が必要よ。
この先、いえ。
例え千年先でもアルカを守り続ける為にはね」
『さくをねる』
「名付けて、グリアさんお嫁さん化計画ね」
『セレネ』
『たのしそ』
「ふふ。
これでもグリアさんには悪いと思っているのよ。
けれどそれでも。
アルカだけではなく、私にとっても必要な人だから。
地獄の果まで付き合ってもらいましょう」
『かわいそ』
『めつけられた』
「仕方がないのよ。
悪い魔女の伴侶が、清廉潔白な聖女であるはずが無いのだもの」
『あくましんかん?』
「それ少し違くないかしら?」
『そうかも』




