34-6.変装
今回はノアちゃん視点のお話です。
「ノア、見て欲しい新人がいるんだが」
「突然何を言っているんです?
そんな余裕はありません。
他を当たって下さい」
今朝もいつも通りにテッサ支部の冒険者ギルドを訪れると、この支部のギルド長であるカリアさんが、急に変な事を言い出した。
私の普段している事を考えれば、新人を連れ歩く余裕など無いとわかっているだろうに。
「まあ、そう言うな。
年若い少女だが、実力は保証する。
我々の悲願を思えば、有能な手駒が多いに越したことはない」
「そこまでですか?」
「ああ。昨日登録したばかりなのだがな。
試験官がまるで相手にならなかった。
実力だけなら、Aランク以上は堅いだろう」
「それだけでは大騒ぎする程のものとも思えませんが」
「お前たちは感覚が狂ってるんだ。
実績もない少女がAランク相当など、本来ありえんことだ」
「つまり、どこからか送り込まれてきた可能性も疑っているのですね」
「そうだな。十分にありえる話だ。
正直お前達の仲間かとも思っていたのだが、その様子では違うようだな」
「……」
「やはり心当たりでもあるのか?」
「無くはないです。
とは言え、流石に……」
フィリアスの誰かを送り込んできた?
いきなり私の下に?
そんなバカな。
アルカだってまさかそこまで迂闊な事はしないだろう。
そんなのすぐにバレるし、当然バレれば私に叱られるとわかっているはずだ。
やるにしても、本部で活動させるくらいだろう。
『最近のアルカは頻繁に思考を閉ざしてるわ。
何かしら企んでいるのは間違いないわね』
ハルがかけたフィルターとやらのせいだろう。
首元に意識を向けるも、首飾は何の反応も示さない。
この話題に答えるつもりは無いようだ。
「なんだ?
アルカと喧嘩でもしたのか?」
「……なぜそう思うのです?」
「あいつの事を考えてそうな顔だったからだ」
アルカじゃあるまいし。
そんなわかりやすく顔に出たりなんてしない。
カリアさんのカマかけになんか引っかかってやるもんか。
「……いいでしょう。
試しに一度会ってみます」
どうやら私にその新人の見張りも任せたいようだし。
カリアさんは人使いが荒すぎる。
ちょいちょい、こういう雑用じみた事まで混ぜてくるから油断成らない。
ギルド本部掌握という私達の目標を考えるなら、どんなちっぽけな石ころだろうと、取り除いておきたいのだろう。
その考えには賛同できるけど、それとこれとは話が別だ。
私達は協力者であって、上司と部下ではない。
なんでもかんでもカリアさんの好きにさせておくつもりもない。
負い目があるせいかミユキお姉さんはカリアさんに甘いし、私がしっかりしておかなくちゃだ。
「助かる。
そろそろここに来るはずだ」
「まったく。先にそれを言っておいて下さいよ」
私はいつもどおり、黒い外套と黒に近い真紅の仮面を身に纏った。
身長も普段より一回り以上大きくなっている。
声も変えているし、見た目だけなら例え家族でも見破れはしないだろう。
扉がノックされたのは、丁度そのすぐ後の事だった。
「入れ」
「失礼します」
一人の少女がギルド職員に連れられて入室してきた。
『おかしいわ。
私が感じた気配は一人分だけよ』
ルチアの言う通りだ。
当然職員が近づいてきたのには気付いていた。
だけど、この少女は何の気配も感じなかった。
眼の前に現れた事で、ようやく認識できたくらいだ。
今なら多少は気配も感じ取れる。
一体どんな仕掛けなのだろうか。
「ティア、こいつはメリアだ。
昨日冒険者になったばかりでな。
先達として、色々世話してやってくれ」
カリアさんが私の偽名を口にする。
この姿の時は、ティアと名乗っている。
命名はミユキお姉さんだ。
私はもっと格好いい名前が良かった。
というか変装の事も考えるなら、せめて中性的な名前の方が良かったと思うのだけど。
まあ、今更言っても仕方ないか。
で、この子はメリアか。
少なくとも私の知るフィリアスにはいなかったはずだ。
『名前だけならアメリと近いけど、気配も容姿もまるで違うものね』
そもそも、流石にそんな雑な偽名は使わないだろう。
『こいつ、あれに寄生されてるんじゃない?』
先日のシルヴァン王子の件か。
確かにそれなら……でも、あの魔道具モドキは眼の前にいても気配を感じ取れなかった。
今は不自然にならないよう、効果を消しているのだろうか。
「付いてきて。
実力見せてもらう」
私は立ち上がって扉に向かう。
「えっ?」
メリアは戸惑いながら、カリアさんと私を見比べて、カリアさんに一礼してから付いてきた。
「何が得意?」
「魔法です」
「そう。
なら私に一発でも当てたら合格。
ダメなら不合格。出直して」
「えっ?あ!はい!頑張ります!」
あの落ち着いた雰囲気のアメリとは似ても似つかない。
やはり別人なのだろうか。
『まあ、本当にアメリなら演技くらいはするでしょうね』
何にせよ、戦ってみればわかるだろう。
『私は解析に専念するわ』
『そうですね。
お願いします。ルチア』




