34-3.拍子抜け
取り敢えず、一旦非戦闘員のアリスとヘスティを私世界に送り込んで、代わりにシーちゃんとニクスに来てもらった。
「申し訳ございません、マスター。
手抜かりがありました」
「ううん。気にしないで。
シーちゃんのせいじゃないわ。
そもそも私だって気が付かなかったんだし。
それよりあの巨大人型ロボットについて、わかる事を教えてくれる?」
「はい。マスター。
外部から観測した限りでは、魔道具技術による産物で間違いないかと。
中の気配については、生体部品が存在しているものと思われます」
「なにその不穏なやつ」
「マスターのアニメ知識から推察するに、元々胸部はコックピットとなっていたのでしょう。
つまりは、そこに乗り込んでいた者が暴走の原因です。
生体部品とは比喩的表現です。
元から搭載されていた機構ではなく、その者が変じた存在ではないかと」
「うへぇ……」
「生きていると言えるのか定かではありませんが、少なくとも、未だ機能は維持されています」
「あの巨大ロボットが先日のナメクジモドキみたいに、中の人間を取り込んじゃったとか?」
「いえ。外装からは同様の特徴を発見できませんでした。
ですが逆ならばあり得るかもしれません。
内部の操縦者が寄生され、機神を操っているのやも」
うう……。
あんま考えたくないなぁ……。
というかまたあいつかよ……。
まだ確定したわけじゃないし、細かい事は後で考えましょう。
「ニクスはどう思う?」
「ごめん。これは私も知らないやつだ。
アルカも気付いてるだろうけど、私がこの世界の守護者となる前から存在していたんだと思う。
後言える事は……おそらく操縦者は転移者だろうね」
「まあ、うん。
そっちはなんとなく察してたわ。
ありがとう、ニクス。
取り敢えずシーちゃんと二人で鹵獲してみるわね。
ニクスは一旦戻っておいて」
「う~ん。
いっそ私がやろうか?
この案件なら手を出せるよ。
むしろやらせてくれる?
たまにはアルカに良いところも見せたいし」
「ええ。勿論。
じゃあ、お願いね。
シーちゃんも補助につけるから」
「うん。
なら私が無力化するから、シイナには機能停止をお願い出来るかな?」
「心得ました」
「それじゃあ、行ってみよっか」
先ずはニクスが一人で機神の目の前に転移した。
ニクスが戦ってくれるならと、私は再びアリスとヘスティを呼び出す。
側で守れるなら、折角だし見せてあげるとしよう。
シーちゃんも加えて四人で、機神から少しだけ離れたところに移動した。
機神は私達の気配を感じ取ったのか、錆びついた様子もなく平然と動き出してきた。
とはいえ、武装の類は使えないようだ。
弾切れなのか、整備不良なのか、そもそも最初から搭載されていないのかはわからないけれど、とにかく弾丸とかミサイルとかは飛んでこなかった。
暫く周囲を飛び回りながら様子を窺うニクス。
そんなニクスをロボットが追いかけ回す。
まるで蝶々を追う子供のようだ。
なんだろう。この緊張感の欠片もない光景。
本当にこんなのが国を滅ぼしたのだろうか。
「哀れなものじゃのう……」
ヘスティが小さく呟いた。
彼女も同じような感想を抱いたのかもしれない。
ニクスもこれ以上敵の手札は無いと判断したようだ。
神力で産み出した鎖を無数に放ち、巨大ロボットを空中で磔にした。
シーちゃんはロボットに近づき、直接触れて侵食を開始した。
ロボットの全身が、見る見る内にシーちゃんのナノマシンに覆い尽くされていく。
暫くは、まるで藻掻き苦しむように身を捩っていたロボットだったが、次第に抵抗力を失っていき、完全に動きを止めた。
「マスター、対象の無力化が完了致しました。
マスターの内在世界にて、引き続き詳細な調査を進めたいと進言致します」
「許可するわ。
くれぐれも取り扱いには気をつけてね。
シーちゃんまで暴走しちゃったら大変だから」
「はい。細心の注意を払います。
念の為、コックピット内の肉塊に厳重封印を施しました。
開封時には、マスターの立会を希望致します」
うへぇ……。
肉塊とか、やっぱそういう状態なんすか……。
あんまり見たくないけど、シーちゃんに何かあっても困る。
仕方ない。ここは気合で乗り切ろう。
『いざとなったら』
『ハル』
『かわる』
ごめん、頼むかも。
『きにすんな』
おう。ありがとよ、相棒!
『あんたら、クレアの真似でもしてるつもりなの?』
いやべつに。なんとなく。
『なんとなく』
『あっそ』
イロハが聞いてきたのに……。
「よきにはからえ」
「御意」
シーちゃんノリ良いわね。
撫でてあげましょう。
「~♪」
ゴロゴロと甘えるシーちゃん。可愛い。
「アルカ、私は?」
「ニクスもありがとう。
とってもかっこよかったわ」
近づいてきたニクスも同じように頭を撫でる。
「呑気な奴らじゃのう」
「ヘスティも撫でる?」
「いらん」
「アリスは?」
「いる」
「かも~ん」
「うん!」
シーちゃん、ニクス、アリスをたっぷり愛でてから、ようやく後片付けに取り掛かったのだった。




