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33-32.痕跡

「!?」


 セレネ達と別れて王様達のところへ戻ろうとした瞬間、ハルちゃん(分体)の視界が流れ込んできた。



「アルカ?」


 私はセレネの手を掴んで王様達の待つ離宮に転移する。



「セレネ!」


「わかったわ!」


 私がシルヴァン王子を指し示すと、セレネはすぐに診察を始めてくれた。


 部屋の中は緊迫感に包まれている。


 王様は先程と変わらず、ソファに座っている。

その王様を庇うようにして、マリアさんが王様と王子の間に割り込んでいる。


 更にマリアさんと王子の間には、ハルちゃん(分体)が立ちふさがり、マルセルさんが王子を抱きかかえていた。


 そして、全員の視線が王子の方向に向いている。



「つかまえた」


 ハルちゃん(分体)が金属質の光沢を放つナメクジのようなものを魔力で産み出したケージに閉じ込めていた。


 そのナメクジモドキは、今しがたシルヴァン王子の耳から這い出てきたものだ。



「アルカ……ダメよ。この人はもう……」


「……わかった。ありがとう、セレネ」


「いいえ。力になれなくてごめんなさい。

 それじゃあ、私は戻るわね」


「うん」


 セレネは今度こそ教会に転移した。



「ハルちゃん、それはチグサとシーちゃんに回すわ」


「がってん」


 私はハルちゃん(分体)ごと、ナメクジモドキを私世界に送り込む。


 大至急調査が必要だ。

あれの侵入経路と被害状況を突き止めなければならない。



「マルセルさん、残念だけど王子はもう……」


 無言で首を横に振るマルセルさん。



「王様、マリアさん。

 少し場所を変えて話をさせて貰えないかしら。

 こんな時に申し訳ないけれど、時間が無いの。

 今すぐ動かなければ、手遅れになりかねないわ」


「私が行こう!」


「いや、よい。マリア。

 マルセル。シルヴァンを頼む」


「御意」


 私、マリアさん、王様は城内に場所を移して、話し合いを再開した。



「ハッキリ言うわ。

 シルヴァン王子は既に亡くなっているの。

 それが今さっきの事なのか、もっと前からなのかはわからないけれど」


「どういう事だ!

 アルカ!お前はあれが何なのか知っているのか!?」


「落ち着け。マリア」


「!……申し訳ございません。

 アルカも、突然声を荒げて済まなかった」


「ううん。大丈夫。

 それで、話を戻すわね。

 先程王子の体内から出てきた物体については、大至急で調査させているわ。

 結果が出るまでに、そう時間はかからないでしょう」


『マスター、判明しました』


 早速だ。

にしても早いわね。



『この物体は……。

 簡単に申し上げれば、私の親戚に近い存在です。

 あるいは、先祖と表現するべきでしょうか。

 液体金属で構成された生命体。

 おそらく王子の脳内に寄生し、擬態していたものと思われます。

 先ず間違いなく、この世界の存在ではありません。

 例の箱型魔道具から侵入したものではないかと』


『痕跡を辿る事は出来る?』


『私がそちらに赴けば可能です』


『ならお願い』


『イエス、マスター』


 すぐさま、シーちゃんを私世界から呼び出した。



「陛下、この者が敵の痕跡を辿れます。

 城内を探索する許可を下さい」


「ああ。よい。

 余も同行する。

 道すがら、判明したことを教えてくれ」


「はい」


 シーちゃんを先頭に、私達は城内を歩き出す。

シーちゃんは周囲に極小の探索機を無数に放ち、辺りを徹底的に調べながら迷いのない足取りで歩いていく。



「液体金属の生命体だと?」


「それについては実際にご覧になられたとおりかと」


「ふむ。

 そうだな。

 俄には信じ難いが。

 だが、この目で見たものまでは否定できぬな」


「マスター、城内の探索が完了しました。

 痕跡が発見できたのは三ヶ所のみです。

 おそらく、あの個体以外の侵入は無いものと思われます」


「うん。わかった。

 取り敢えず一番強いところから回ってみましょう」


「イエス、マスター」


 そうして、シーちゃんが最初に案内してくれたのは王子の私室だった。



「おそらくここで外部端末、いえ、魔道具モドキを産み出していたものかと。

 あれは、言わば機能拡張用の支援ツールです。

 本体が矮小かつ脆弱な為、物理的に別の物を用意する必要があったものと思われます」


 腕輪型の隠蔽魔道具モドキと、光る棒状の催眠魔道具モドキの事か。

あれらに制御する為の機構が備わっていなかったのは、あのナメクジモドキが直接操作していたからか。



「他に妙な物が残っていないのなら、次に行きましょう」


「イエス、マスター」


 次に案内されたのは、先日ノアちゃんが訪れた研究室だった。

今は無人のようだ。

ニコラとか言うここの責任者も出払っているらしい。



「これです。

 一時期、この瓶の中に捕らわれていたようです」


「つまり、ここの研究員が持ち込んだ物だと言うのかね?」


 流石に少し冷静さを欠いた様子の王様が、シーちゃんに掴みかからん勢いで割り込んできた。


「おそらくこれからご案内する最後の場所こそが、最初の侵入地点かと。

 そこで回収した何者かが、この場所に運び込んだ可能性が高いものと思われます」


「それが更に逃げ出し、シルヴァンに寄生したのか?」


「はい。その認識で間違いありません」


「……案内してくれ」


「……」


「お願い、シーちゃん」


「イエス、マスター」


 念の為、瓶を回収してから再び歩き出したシーちゃん。


 そうして最後の三箇所目に案内された場所は、宝物庫の奥、未だこの場に保管されたままの、例の箱型魔道具の目の前だった。

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