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33-30.ピカッと光る棒状のあれ

 王様はすぐに会ってくれる事になった。

というか、わざわざ離宮にまでやってきた。

しかも王子とマルセルさんのおまけ付きで。


 一足遅かったのかしら。

なにか入れ知恵でもした後なのかしら。


 これじゃあダメね。

後手後手になってばかり。

本当に良いように転がされているのね。


 うん。覚悟を決めよう。

王子の同行は明らかな敵意あってのものだ。

そうでなければ、先程のやりとりの後で堂々と乗り込んできたりはしないはずだ。


 私を警戒しているという意思表示か、あるいは挑発の一環なのだろう。


 何にせよ、穏便な話し合いはやっぱ止めだ。

最後のチャンスを不意にしたのはこいつらだ。

威圧外交がお望みなら、付き合ってやろう。

どうやって私達を脅すつもりなのかは知らないが、徹底的に叩き潰してやろう。



「先程はバカ息子が大変失礼な真似をしたそうだな。

 余からも謝罪させてもらおう」


 王様は、全く想像していなかった事を言い出した。

これも私を揺さぶる為の、王子の策なのかしら。

この期に及んでまだ馬鹿にし足りないらしい。

王様が一人で来たとか、王子が一緒に頭を下げているならともかく、それすらないのだ。

完全に挑発以外の何物でもない。



「謝罪は結構よ。

 既にあんたのバカ息子は私に喧嘩を売っているの。

 今更頭を下げたところで、どうにかなる話ではないわ。

 だからこれは貸し借りの話よ。

 今回の件を不問とする代わりにチャラにしてもらうわ。

 その上で、ツムギも魔道具も遠慮なく貰っていく。

 私達の関係はそれでお終いよ。

 そこの王子の目論見通りにね」


「先程、私の謝意を受けてくれたのではなかったのかね?

 大量の魔道具まで受け取っておいて、反故にするのかな?

 君達にとってはそうでもないのかもしれないが、あれらでも我々にとっては十分に高価な代物なのだよ?」


「今は王様と話しているの。

 今更あんたと話すことはないわ」


「それは困る。

 今回貴方に用があるのは、父ではなく私の方だ。

 こちらを向いては頂けないだろうか」


「どこまでも虚仮にしてくれるわね。

 私達は王に謁見を申し入れたのよ。

 貴方を招いた覚えはないわ」


 何故王様は何も言わないの?

王子の考えに賛同しているの?



「こちらを向きたまえ!!」


「だから、何を言って、」


 徐ろに王子が掲げた棒状の何かが光を放つ。

直後、近くにいたマリアさんとツムギが抱きついてきた。


 いや、これ取り押さえようとしてるの?

力の差がありすぎてなんとも無いけど。



「やはり効かぬか……」


 やはり?

何故わかっててこんな事を?

さっきの調査はこの為?



「あんた、本当に何がしたいの?

 そんなもの通用するわけないじゃない」


「普通は通用するのだ。

 おかしいのは貴様の方だ。

 なんだその耐性は!

 なんだその膂力は!

 貴様を取り押さえようとしているのは、この国が誇る剣聖だぞ!

 だと言うのに意にも介していないではないか!

 逞しいどころの話ではないぞ!」


「それより、これどうやって使うの?

 魔力でも流せば良いのかしら」


「!?」


 私は王子から転移で奪い取った棒状の魔道具を観察してみる。

解除はどうやるのかしら。

スイッチとか無いのよね。



『アルカ』


 イロハの落ち着いた声に促されて視線を動かすと、何故か王子が尻もちをついて拘束されていた。



「何があったの?」


『そいつが転移で逃げようとしたから妨害したのよ』


「あら。そんな事まで出来たのね。

 一体何処から知識を得たのかしら。

 ダンジョンコアの転移技術?」


『いえ。あれは違うわね。

 かと言って魔術とも違う。

 その魔道具モドキもそうよ。

 そいつは魔力じゃ動かないわ』


「どゆこと?

 まさか、世界外からの侵略者とか?」


『可能性は高そうね。

 少なくともこの王子は違うでしょうけれど、お友達はその辺りじゃないかしら。

 この様子だと、隠蔽魔道具もそもそも魔道具じゃなかったのでしょうね』


「そんな気安く遊びに来ないでほしいんだけど」


『仕方ないじゃない。

 ニクスの管理が杜撰なんだから』


「ニクスって狙われてるのかな。

 力を落とした神だから?

 セレネ達のやりたい事と関係あるのかしら」


『アルカ、気をつけなさい。

 誰が何処で聞いているのかわかったものではないわ。

 無駄話は終わりにして、この状況を収めましょう』


「催眠解除は?」


『もうしたわ。

 流石に少し手間取ったけど』


「さっすがイロハ♪」


 いつの間にやら全員気を失っている。王子含めて。

催眠解除の反動かしら。

まさか、バカ王子も?



『いいえ。そいつは単に眠らせただけよ。

 これ以上妙な動きをされても面倒だもの』


 完璧な仕事ぶりね。

イロハがいればもう何も怖くないわね。



『むう』


『何嫉妬してんのよ、ハル』


 そうだよ、ハルちゃん。

ハルちゃんは私の切札なんだから。

一番奥でどんと構えていれば良いんだよ。



『ふへ』


『出番無さそうね』


 切札ってそういうものよ?



『早々にクレア使おうとしてたくせにどの口で』


 結局使わなかったじゃ~ん。

いやまあ、これから王子の尋問やらなんやら必要だから出張ってもらうかもだけど。



『やっぱアルカは鬼ね。

 クレアの気持ちも考えなさいよ』


 あ、はい。



「うっ……」


 無駄話をしていると、最初にマリアさんが目を覚まし、次に王様、マルセルさん、ツムギと続いた。



「おはよう、目覚めはいかが?」


「アルカ?

 一体何が!?」


「落ち着いて、お義姉ちゃん。

 全部解決したわ。

 詳しい事は王子に聞いてみましょう。

 皆状況が把握できたら、楽しい楽しい尋問のお時間よ♪」


「小春……尋問って……怖いわ」


 あれ?ツムギんにドンビキされてる?



「いやほら、尋問って言っても、別に爪剥がすとかそういう系じゃないよ?

 すこ~し魔法で口を滑らかにする程度だから」


「ひっ!?」


 ツムギんはスプラッタ系ダメな子らしい。

今後は気をつけよう。



「余は何故ここに?

 シルヴァンはいったい……

 この状況はアルカ嬢が?」


 意外にも一番混乱してるっぽいのは王様だ。

いったいいつから洗脳下にあったのかしら。


 というかあの王子、さんざん私に洗脳がどうとか疑いをかけておいて、結局自分がやってたんじゃない。

いやまあ、それは私の洗脳耐性を調べる為のカモフラージュの意味もあったんだろうけど。

結局効かないとわかってて仕掛けてきたし、正直意味のわからない事ばかりだ。


 って?あれ?

マルセルさんは?



『あの人だけやたら弱い洗脳だったのよね。

 精々、不自然に気付いても詮索しないとかその程度じゃないかしら。

 おそらくあの程度なら、洗脳下の記憶も問題なく保持しているはずよ』


 一体どういう心情だったのだろう。

流石に一番の親友を長く洗脳下に置くのは本意では無かったのかしら。


 いや、逆もあり得るのか。

マルセルさんも最初から王子のグルで、万が一身柄を押さえられた時のアリバイにするため、敢えて弱い洗脳をかけておいたとか。

念の為、マルセルさんへの警戒は解かないようにしておこう。



『アルカにしては上出来よ』


 やった!イロハに褒められた!

滅多に褒めてくれないから普通に嬉しい!



『……次からはもう少し素直に褒めてあげるわ』


 わ~い。


 マリアさんとツムギは瞬間的にかける必要があったし、私の巻き添えって意味もあるから、一番強い出力だったのだろう。


 なら王様は?

単に嫌いだったから?

それとも、王様の心の強さでも警戒したとか?


 何にせよ、先に少し王様と話をする必要がありそうだ。

マルセルさんから得られる情報もあるかもだし、尋問はその後にしよう。



『尋問なんかしなくても、記憶だけ抜き出したらいいじゃない』


 そっちはもうイロハがやってるかと思ってたわ。



『嫌よ。男の記憶なんて覗きたくないわ』


 異世界産フィリアスでもそういう事気にするのね。



『今更何言ってるのよ。

 散々人間の立場で助言してあげてきたじゃない』


 そうよね。

とすると、これも一種の洗脳なのだろうか。

出どころは私の記憶だろうし、イロハが自ら私に歩み寄る為に学んでくれた事だけど、既に思考に限らず生理的な部分にまで及んでいるようだ。



『そうよ。

 私はハルよりずっと人間らしいでしょ?

 それだけアルカの為に頑張ったのよ』


『むう』

『ききずて』


『まるで』

『ハル』

『がんばり』

『たりない』


『そもそも』

『イロハ』

『もとから』

『にんげん』

『ちかい』


『ミーシャせかい』

『まだひと』

『いたころ』

『ねづいた』


『イロハ』

『もとから』

『にんげんしゃかい』

『くらしてた?』


『そんな事もあったかもね。

 一度根付いたものは、一万年経とうと消えやしないのよ』


 イロハにしてはあっさり認めた。

何故か、少しだけ楽しそうだった。

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