33-27.ネタばらし
「つまりなに?
お芝居だったってこと?」
「ああ。済まないアルカ殿。
このとおりだ」
服のあちこちからいくつもの魔道具を取り出してテーブルに並べた王子が、私の前で頭を下げた。
嘘発見器に、魔力探知、洗脳検知もあるのかしら。
あとはなんだろう。
覚視で視てもわからないのまであるわね。
当然、検知だけではなく妨害系の魔道具もあるのだろう。
それにこれだけではないのかも。
王子本人が洗脳されてしまえば意味が無くなるだろうし。
魔道具で防ぎ切れるとは限らないのだから。
『しかもこれらを例の隠蔽魔道具で隠してたってわけね。
折角だし迷惑料代わりに隠蔽魔道具貰っちゃいなさいよ。
解析すれば、対策もできるはずよ』
珍しくイロハが何かを欲しがっている。
なら頑張って交渉してみる事にしましょう。
というか、隠蔽魔道具がここにあるって事は、やっぱ王様もグルなのね。
いやまあ、複数所持している可能性もあるけど。
何にせよ、随分と強力な魔道具だ。
眼の前にいる王子が体中に仕込んでいた魔道具にすら気付けなかったのだから。
というか、これは私が迂闊だったわね。
今も王子の気配だけ覚視で知覚できないし。
ノアちゃんならとっくに気付いていたことだ。
わかっていても、つい目の前にいると視覚に頼ってしまうのよね。
既に体から離れた魔道具は視えているから、対象範囲は極僅かなようだ。
身につけている本人と、その装備にだけ影響のある類の魔道具らしい。
なら、隠蔽魔道具自体も装身具のどれかって可能性が高そうだ。
「赦すのは構わないけど、流石に誠意を見せて欲しいわね。
今回ばかりは、いくら寛容な私でも気分が悪いわ」
「そうだよ!シル兄様!
そんなんじゃ全然足りないわ!
地に頭つけてもっと必死に許しを請いなさいよ!」
「違うから、そういうんじゃないから。
王子の土下座とか見たくないから
落ち着いて、ベアちゃん」
「ステラ!鉄板持ってきて!ギザギザのやつ!!」
「御意」
「やめて!自分のお兄さんに何させる気!?」
焼き土下座なの!?ト◯ガ◯なの!?
それからツムギを落ち着かせるのに少し時間がかかった。
少なくともツムギは知らされていなかったらしい。
マリアさんはどっちだろう。
全ては知らない気がする。
信じて最後まで見ていろとでも言われてたのかしら。
ならマルセルさんも?
いや。マルセルさんは全部知った上で協力してたのか。
話が拗れてどうしようもなくなった時に、種明かしなりなんなりしてフォローする人は必要だっただろうし。
王子が想像以上にやり過ぎて焦っていたのかもしれない。
マリアさんと一緒に頭を下げていたのも、どうにか事態を収拾しようとしたのかも。
と言うか王子、やっぱりバカなの?
どう考えてもやり過ぎじゃない。
もっと早く、撤回する場面はあったはずよ?
いや、違うのか。
王子にとってはどれでもよかったのだ。
追い詰められた私が強硬手段に出ようとも、あのまま出禁を受け入れようとも、こうしてネタバラシをする事になろうとも。
どのパターンであっても、何かしらの成果を得られるように仕込みをしていたはずだ。
それと同時に個人的に私を嫌っているのも、この国から遠ざけたいと思っているのも、全て本心なのだろう。
「要求を聞こう。
とはいえ、ベアトの姉達は全員嫁いでしまっている。
第一王女の娘ならば、近く十になる年頃だ。
アルカ殿のご趣味に合えばよいのだが」
「あんた、やっぱ喧嘩売ってんの?
要らないわよ。
何簡単に家族切り売りしてんのよ。
そんなんじゃなくて物で寄越しなさい。
折角だし、私にも例の宝物庫とやら見せてよ。
気になるものもあるかもだし」
「済まない。それは出来ない。
私にそのような権限はないのだ」
「パパに泣きついたらいいじゃない。
パパが仲良くしようとしている相手に喧嘩売って怒らせちゃいました~って」
「勘弁してくれ。
魔道具が欲しいのなら、ここにある物でご容赦頂きたい。
いや、この際全て持っていって構わない。
それで手打ちとしてもらえないだろうか」
「言ったわね?
なら、まだ隠している物を出しなさい。
その指輪かしら。
それ、隠蔽の魔道具なのでしょう?
試しに外してみてくれるかしら」
「いや、これは違う。
ただの指輪だ。
王家に伝わる大切なものだ」
「いいから外しなさい。
あんたの言葉が真実かどうかは、それでわかるはずよ」
「……」
渋々指輪を外してテーブルに置く王子。
すると、予想通りに王子の気配を覚視で知覚できるようになった。
「あと三つ隠してるわね。
それも全て出しなさい」
「!?」
隠蔽魔道具の効果範囲から外れた事で、王子が身につけた魔道具が私にも知覚出来るようになった。
こいつ。まだ何か企んでるわね。
「ひっぐ……」
そんな王子の姿を見て、大人しく成り行きを見守っていたツムギが、突然泣き出した。
「兄様……ひどぃよぉ……どうしてこんなことするのぉ……」
まるで家族の犯罪にショックを受けているかのようだ。
絵面的には、王子が万引きした物を一つ一つ取り出しているような感じだし。
実際は、私がカツアゲしていると言った方が正しいのだけど。
まあ、流石に今回ばかりは王子の過失が大きすぎる。
というか、別に隠蔽魔道具以外を巻き上げるつもりは無かったのだ。
勝手に全部とか言い出したのは、王子の方だ。
となると、むしろ私に何かを持たせたいのかも。
私が持ち出す事で何かしらの効力を発揮する魔道具も含まれていそうだ。
具体的には、場所を特定する魔道具などだ。
それで、私達の拠点を見つけるつもりなのかもしれない。
とはいえ、収納空間に放り込んでおけば何の意味もない。
精々、自宅で取り出さないようにだけ気をつけておこう。
万が一場所を特定する系だとしても、私世界で取り出す分には意味がないのだし。
「わたしは……小春と友達になりたかっただけなのに……」
「済まない。ベアト」
「兄様なんてきらいよぉ……」
ステラが泣き止まないツムギを部屋の外に連れだした。
「ほら、さっさと続けなさい。
ベアちゃんが戻って来るまでに全部済ませるわよ」
「ああ……そうだな」
私は容赦なく全ての魔道具を巻き上げた。
後でイロハの玩具になる予定だ。
いくつか正体のわからないものがあるし、さぞや研究が捗ることだろう。
王子は最後まで指輪のことを気にしていた。
案外本当に王家に伝わるものなのかしら。
お守りとしては、とんでもなく優秀なものなのだし。
まあ、どうしてもと言うのなら、解析が終わったら返してやるとしよう。
技術さえ知れれば、魔道具自体に興味はないのだ。
それまでの間に王様から大目玉を喰らおうとも、私の知ったことではない。
精々、存分に叱られるといい。
結局、王子とマルセルさんはツムギが戻る前に引き上げていった。
ツムギとステラが戻ってきたのは、それから更に少し経ってからだった。




