33-25.家族
いつも通り朝食と見送りを済ませた私は、早速マリアさんのところへ向かった。
結局クレアとは仲直り出来ていないけど、あの調子ならまあ、大丈夫だろう。
手痛い反撃も受けたことだし。
「おはよ、お義姉ちゃん」
「ああ。おはよう。
では行くか」
昨日と同じように案内してくれるマリアさん。
今日もずっと一緒にいる感じかしら。
一応、王族と冒険者が会うのだし、警護は必要よね。
名目上だけかもだけど。
「陛下には何時お会いするつもりだ?」
「出来れば今日中にお願いしたいわね。
ツムギ、じゃなかった、ベアトリスとの結婚は正式に受け入れさせてもらうわ」
「そうか」
「悪いわね」
「いや。問題ない。
姫殿下からも、アルカとの関係は聞いている。
俄には信じがたい話だがな。
だがまあ、アルカの事だしな。今更だ。
それにしても、こういうのを因果とでも呼ぶのだろうか」
「私も驚いたわ。
どうやらそうみたいよ。
私には、強い因果の流れが纏わりついているみたい。
そうして皆を引き寄せてきたの」
「ならばクレアにも、いや、エリスにもか。
何かしらの役割があるという事なのだろうか」
「そうね。
そうかもしれないわ。
クレアは言わずもがな、エリスにも心当たりがあるの」
「それは……なんだ?」
「ごめんね。具体的な事は言えないんだ。
けれど悪いことじゃないから。
エリスには特大の加護がついていた事がわかったの」
正確にはそれを受ける権利みたいなものだけど。
「加護か……」
「不安?」
「ああ。加護とは結局のところ、力の事だろう。
ならば、力に相応しい責任も付き従うものだ。
私もあの娘が力を得る事を望みはしたが、過ぎたものであれば不安も抱く。
勝手なこととは思うのだがな。
何にせよ、あの娘のこの先が、困難な道で無いことを祈るばかりだ」
「ごめん。それは約束できない。
私と関わってしまった以上、大なり小なり力と困難は付き纏うから。
でも大丈夫。
エリスはとっても強い子だもの。
それに寄り添ってくれる家族が沢山いるわ。
私達だけでなく、マリアさんやこの国の人たちもね。
きっと皆でなら乗り越えていけるわ」
「そうか」
それっきり、マリアさんは口を開かなかった。
私達は沈黙したまま、城の敷地内を歩き続けた。
「お待ちしておりました、アルカ様」
離宮の前には、ツムギとステラちゃん、それにマルセルさんとシルヴァン王子が待ち構えていた。
「今日は随分と大勢でお待ちでしたのね」
「申し訳ございません。
兄様がどうしてもと仰られたので」
「先に行っておきますが、クレームは受け付けませんよ?」
取り敢えず王子に向かって釘を刺す。
この件でクレアの事を持ち出されてもただ面倒なだけだし。
けれど、それに答えたのはツムギの方だった。
「ご安心をアルカ様。
既に話し合いは済んでおります。
ただ少しばかり、不安が拭いきれぬだけのようです。
私達の仲睦まじい姿を見れば、きっと兄様も理解して下さるはずです」
この王子、ロリコンだけでなくシスコンでもあるのかしら。
いやまあ、それは今更か。
どう見ても、エリスの事も溺愛してる様子だったし。
「わかりました。
ベアトリス様がそう仰るのなら」
「随分と他人行儀な呼び方だね。
それで本当に仲睦まじいと言えるのかな?」
ようやく口を開いたと思ったら、挑発するような言葉が飛び出てきた。
いやまあ、してるんだろうけど。
その割には、ジャブが弱い。
「これは失礼いたしました。
王子殿下の前ですので、気を遣わせて頂いたのですが。
まさかそのような事も察せられぬとは。
もしや今日は体調が優れないのでは?
日を改めてはいかがでしょうか」
「いえ。心配には及びませんとも。
アルカ殿程に逞しくはありませんが、これでも体は丈夫な方です」
シルヴァン王子の言葉に我慢できなかったのか、ツムギが足を踏みつけた。
「兄様!女性に向かって逞しいって何よ!
そんな意地悪ばかり言うなら嫌いになっちゃうわよ!」
「いや、その……すまない。ベアト」
「私じゃないでしょ!アルカに謝りなさい!」
「……すまない。言葉が過ぎたようだ」
「いえ。事実ですので」
この王子、本当に頭脳面が優秀なのだろうか。
私の前で、そんな様子を見せた事がない。
なのに、マリアさんもマルセルさんも、どころかクレアすらも、この王子の優秀さは信頼しているようだ。
私にだけムキになりすぎているのだろうか。
それとも、これは全て王子の策略の内なのだろうか。
ぐぬぬ。
この王子の為に思考など割きたくないのに。
つい余計な事を考えてしまう。
これがこの王子なりの嫌がらせなら、策略家というのも頷ける。
「本当にごめんね、アルカ。
ってこんな場所で長話させちゃったわね。
付いてきて。部屋に案内するわ。
マリ姉とマル兄も一緒に来て。
シル兄様はお引き取りを。
今日はもう顔も見たくないわ」
「ベアト!?」
絶望するシルヴァン王子を置き去りに、ツムギは容赦なく歩き出した。
「待って、ベアちゃん。
あの人も入れてあげて。
あの人が私に悪感情を持っているのは仕方のない事よ。
それでもベアちゃんの大切なお兄さんだから、私もちゃんと話をしておくべきだと思うの。
あの人もそのつもりみたいだし、もう一度だけチャンスをあげましょう?」
「まあ、アルカがそう言うなら。
シル兄様!く・れ・ぐ・れ・も!
これ以上、失礼のないようにね!」
「あっああ。すまない。感謝する」
別にあなたの為じゃないわ。
全部ツムギとクレアとマリアさんとエリスの為……って多いわね。
この王子、何だかんだ皆から好かれているのよね。
まったく。やり辛いったらないわ。
流石に私が悪い部分も無くはないんだし。
『どう考えてもアルカのせいじゃない。
嫌味の一つや二つ、受け流してやりなさいよ』
うちの天使ちゃんはやっぱり天使ちゃんだ。




