33-20.歩み寄り
「えっと、改めて、アムル?
でいいのよね?」
「はい。かつてそう呼ばれていた者です」
「?変な言い回しね。
まあいいわ。
急に悪かったわね、連れ出してしまって」
「事情は知っています。
あの子達の中からいつも見ていましたら」
「そう。話が早くて助かるわ」
「ふふ。アルカは凄いですね」
「え?」
「私は勝手に覗いていたというのに、許して下さるのですね」
「ええ。まあ。
別に今更だし。
むしろ悪かったわね、一方的に色々見せつけて。
アムルとニクスの関係も聞いていたのに。
改めてごめんなさい。
さっきはあんな態度をとって」
「本当だよ。
もう少し話を聞いてくれたって良いじゃん。
大体浮気だ何だって、アルカが言えた事じゃないでしょ」
「やっぱり来たわね、ニクス」
「話をしに来たよ。
先ずは三人で」
「心配は要らないようですよ、ニクス。
アルカは寛大なお方です」
「アムル、まさかもうその気になってる?」
「どうでしょう?」
「何の話?」
「なんでもない。
そんな事より、アムルを責める気が無いなら、アルカは何がしたいの?
用がないなら、アムルを返して欲しいんだけど」
「それとこれとは話が別よ。
さっきのは半ば勢いだったけれど、アムルがニクスの側に居続けるのなら、私は見極めなければならないの」
「アムルを疑ってるの?」
「ええ。当然じゃない。
私のニクスを苦しめた張本人だもの。
例えニクスがそう思っていなくとも、アムル自身にもどうにもならなかった事だとしても、私はアムルを簡単には受け入れられないの。
だから話をしましょう。
先ずは私とわかり合いましょう。
仕方がないから、ニクスだけは同席させてあげるわ」
私は今度こそ邪魔が入らないように、ニクスとアムルを連れて深層に潜り込んだ。
ニクスとアムルを並べて座らせ、私は正面に腰を降ろす。
収納空間からお茶と菓子を取り出して並べ、敵意が無いことを示す。
「先ずは久しぶりの甘味でもいかが?
安心して。
私もアムルと仲良く出来るよう、精一杯歩み寄るから。
だからアムルもお願いよ。
どうか私を安心させて。
ニクスの隣にいたいのなら、私に示してほしいの。
今度こそ、ニクスを笑顔に出来るのだと」
「いただきます」
アムルは躊躇なくお茶に口を付けた。
本当に私を信じているようだ。
ノアちゃんやセレネの中から見続けていたのなら、二人の感情もよく知っているのだろう。
「美味しいです」
「よかったわ」
「アルカ。
先に一つだけ。
セレネがアムルにさせようとしている事は聞かないでほしい」
「もちろん。
そんな事はしないわ。
これはあくまでも、アムル個人との話し合いだもの」
「わかった。
ならもう何も言わないよ」
「それは困るわ。
あなたも話に加わりなさい」
「わかったよ。
それで、何を話したいの?」
「何でもいいわ。
あなた達の思い出話でもなんでも。
ニクスがアムルを大切に思っている事はとっくに知っているけれど、アムルの気持ちは知らないわ。
だから、それがわかるようなエピソードだと尚良いわね」
「そんなのあったかな?
アムルはあの人に夢中だったしなぁ」
「もうニクスったら。
そんな言い方は止めて下さい。
恥ずかしいじゃないですか」
赤く染まった顔を両の掌で覆い隠すアムル。
「その反応はうぶすぎない?
アムルって子供もいたんでしょ?」
セレネはアムルの子孫だし。
「その……このような事を言うのは虫が良すぎるかと思うのですが、どうやら私の意識は邪神に唆される前まで後退しているようでして……」
「それでその姿になったのね。
記憶はどうなっているの?」
「うっすらとは残っております。
ですが、まるで他人の人生を見ているかのように実感の無いものでして……」
「つまり罪の意識も一緒に洗い流されているわけね」
「申し訳ございません……」
「いえ。それはニクスの努力の成果よ。
むしろ喜ぶべきことね」
「はい!
ニクスには感謝してもしきれません!
この御恩はこれから先、長い時をかけて返していく所存です!」
「そう。それは何よりね」
「ですがもちろん、私は自分の行いを無かった事にするつもりはございません。
ニクスへの感謝とは別に、贖罪もさせて頂きます」
「随分長い時間がかかりそうね。
なら、そうね。
私が全て見届けてあげるわ。
私達の側で頑張りなさい」
「はい!」
「アルカ偉そう。
アルカだって邪神に飲まれかけたくせに」
「良いのです、ニクス。
これは私の望みでもあるのですから」
「アムル、そんなんだったっけ?
もう少し、お転婆だったと思うんだけど」
「そういうニクスこそ。
話し方すら違うじゃないですか」
「色々あったんだよ」
「そうですね。
それもこれも、アルカ達のおかげですね」
「ねえ、アムル。
今のアムルはあの人とアルカ、どっちの方が好きなの?」
「なんですかもう!
その意地悪な質問は!」
「また真っ赤になった」
「まるで生娘ね。
六百年前に世界を滅茶苦茶にした、稀代の大悪女とは思えないわ」
「もう!アルカまで!」
「私はあまり違和感ないかな。
元々片思いを拗らせていたくらいだし。
それにこの様子だと、ノアとセレネの影響をもろに受けてるみたいだね」
「またお嫁さん増えたの?
もちろん私としては構わないけど、ノアちゃん達になんて言われるのかしら」
「もう!違います!
そんなんじゃありません!」
「あら、残念」
「振られちゃったね、アルカ」
「魔王から横取りするのは骨が折れそうね」
「なにせ六百年越しの恋だもの。
あの人はもういないけど、それでも簡単には揺るがないと思うよ」
「もう!二人とも!
からかうのは止めて下さい!」




