33-18.献身
今回はセレネ視点のお話です。
「それじゃあ、会議を再開するわね。
国取り計画のその先、アムルの復活と神化計画について」
アルカの去った会議室で、私は言葉を続ける。
ノア、ニクス、カノン、グリアさん、ツクヨミ、クレア、ソフィアの七人が私の言葉に耳を傾けている。
「……やっぱり考え直さない?」
「ニクスの気持ちはわかるわ。
既に亡くなったアムルを叩き起こして、更に重荷を背負わせようなんて計画だもの。
あなたが反対するのは至極当然の事よね。
けれど私からするなら、アムルは被害者であると同時に加害者でもあるの。
これは贖罪の機会と救いを与えてあげようという話よ。
この世界をあるべき形に戻すため、アムルの力も借りる事にするわ。
そうすれば、アムルだって今度こそ悔いなく終われるはずだもの。
何より神となれば、未だ汚染されたままの魔王の魂に寄り添い、自ら癒す事もできるでしょう?
アムルにとっても悪い話ではないはずよ。
それに、これはあなたにとっての罰でもあるのよ?」
「その考えはわかるけど……」
「あなたまさか、アムルと再会するのが怖いの?」
「それは……否定できないけど……。
けど、もちろんそんな理由じゃなくて」
「アムルを神にしたくないのね」
「うん……そうだよ」
「けれど、アルカの事だって神になんてしたくないわよね?
なら、アムルに押し付けなさい。
アムルにはその責任があるわ。
自ら産み出した、神ヘメラという虚影を演じさせるの。
何も最初から全部押し付けようって話じゃないわ。
ちゃんと引き継ぎの期間も設けてあげる。
取り敢えずは、ニクスと二人一組の神となるのよ。
昼と夜が分かれているように二人で交互に神を務めるの。
ニクスにとっても魅力的な話でしょう?
大切な親友と再会できるだけでなく、神としての役目すらも共有できるのだから」
「そんな言い方はズルいよ……」
「アルカっぽかった?」
「アルカと比べたら優しすぎるかも。
アムルへの気遣いも隠せてないし」
「そう。私もまだまだね。
というか、アルカって根っからの悪役気質だものね。
あれ絶対、本心から楽しんでるわよね」
「アルカはドSだからね……」
「逆もいけるわよ。
私の時なんて、」
「セレネ、やめてください。
今は真面目な話をしていたはずです」
「そうね。
流石にこの場での下ネタはアムルに悪いわね」
「それで、結局なんでアルカには秘密なのかしら。
私もまだ大した話は聞いてないのだけど」
「そうだったわね。カノン。
アルカを関わらせない理由はいくつかあるわ。
けれど一番大きなところとしては、アルカが関わると主旨が変わってしまうからよ。
アムルまでアルカに取られたんじゃ堪らないもの」
「流石に無いんじゃない?
アムルは魔王の事が好きだったのでしょう?」
「それでも相手はあのアルカよ?
アムルの気が変わる可能性だって十分に考えられるわ。
そうでなくとも、アルカが強引に迫ってしまう可能性だってあるのだもの。
なにせ、アムルは私とノアの元となった人物よ。
容姿もよく似ているはずだわ」
「今更だけど、驚くほど信頼されてないわね。アルカって」
「当然じゃない。
アルカが私とよく似た美女を放っておけるワケがないわ」
「自分で美女とか言うの、恥ずかしいので止めて下さい。
私、セレネと同じ顔なんですよ?」
「可愛い顔よね」
「もう」
「それで、本当の理由は?
今のが冗談だって事くらいは、流石に私でもわかるわ」
「あら。流石カノンね。
私でもなんて謙遜しなくていいのよ。
あなたはこの家の参謀役なんだから。
ただ少し、神系の話とは縁遠かっただけじゃない」
「惚ける気?」
「そんなつもりは無いわ。
カノンに隠す理由はないもの。
ただ……、いえ。往生際が悪かったわね。
私も覚悟を決めるわ」
「そんなに深刻なの?」
「ええ。
このままではアルカが神と成り果てるのも時間の問題よ。
流石に数日、数年程度の近い話ではないけれど、何れ必ず辿り着くわ。
私達はそれを避けたいの」
「キッカケは?」
「おそらく、ニクスとの隷属契約が原因よ。
本来ならニクスの使徒である事で、アルカの状態は半神で止まっていたはずだった。
けれど、混沌ちゃんとやらの干渉で主従が逆転してしまったの」
「具体的にどうやって進行を止めるつもり?」
「ニクスとは別の神に立ってもらうわ。
要は、邪神のやろうとした事を真似ようって話ね。
そこにニクスがアルカを半神にした際のノウハウも加えるわ。
そうして、最終的にはニクスには神を辞めてもらう。
アルカには神の所有者ではなく、ただのニクスの所有者になってもらうのよ。
最後に新たな神の使徒に任命すれば、万事解決元通りってわけね」
「ミーシャは?」
「あれは大丈夫だそうよ。
実質的に守護世界も取り上げられているし、神として失格になったようなものだから。
そしてそれはノルンとニクスにも言える事なの。
守護世界を喪ったノルンは言わずもがな、ニクスも人の手で引きずり降ろされれば、神としては落第よ」
「ニクス、あなた反対した割には随分知恵を貸していたみたいね」
「私はあくまで、アムルに押し付けるのが嫌なだけで……。
というか、そこまで教えてないし。
そもそも教えられないんだけど……」
「グリアさんに読み解かれたわけね。
やるわね、グリアさん」
「ニクス。諦めなさい。
アムル以外に相応しい人はいないわ。
ミーシャやノルンでは同じ話だもの。
幸いアムルなら、長い事邪神に干渉された過去もあり、その後もニクスの側で大切に保護され続けてきたのだから、神としての素養も根付いている筈よ。
と言うかニクス、あなた本当は神を辞める事自体も惜しんでいるのでしょう?
まあ、それは当然よね。
何千年も守り続けてきた世界に愛着だってあるのでしょうし。
けれど安心して。
ニクスにはアムルの補助として、変わらず仕事を続けてもらうわ。
あなたから全てを取り上げたりなんてするつもりは無いの。
あなたのこれまでの努力には敬意を抱いているのだから」
「本当によく考えるものだね。
私の伝えた少ない情報からよくここまで読み取ったよ。
それで、計画の方も全部グリアの筋書きなんだよね?」
「あなたの知恵があってこそだ。
神ニクス。どうか引き続き力を貸して欲しい」
「グリアは何故そこまでするの?
というか、どこで違和感を感じ取ったの?
私と話をする前から、アムルに目を付けていたよね?」
「アルカ君の擁する研究班は、アルカ君の体を研究する為の組織でもあるのでな。
理由は……察してくれたまえ」
「もういい加減、素直になったらどう?」
「うるさい。余計なお世話だ」
「グリアさんなら歓迎するわよ。
もちろん私だけじゃなくて全員がね。
そうよね、ノア、セレネ」
「はい。異論はありません。
ご安心をグリアさん。
今でこそ、アルカは意識していないかもしれませんが、必ずグリアさんを受け入れます。
クレアさんとのイチャイチャっぷりも見たでしょう?」
「勘弁してくれ。あんな辱めにあってたまるか」
「うっ……」
黙って話を聞いていたクレアがダメージを受けている。
アルカに絡まれた時の事も思い出しているのかも。
そんな調子で、深層に連れ込まれてしまったらどうなるのかしら。
「そろそろ無理やりくっつけてみようかしら。
アルカとグリアさんだけは、何時まで経っても素直になりそうにないし」
「グリアさんより、アルカをその気にさせる方が簡単では?
アルカから迫り続ければ、グリアさんも落ちるでしょう」
「やめんか!」
「今回ばかりは流石に無理があるわ、グリアさん。
そこまでの献身を見せつけておいて、私達が黙っていられるわけないじゃない」
「そうよ。カノンの言う通りよ。
いい加減観念してよ、ママ」
「どうしてそこで、その呼び方をするんです?セレネは」
「私のママと私の伴侶が結婚したら、ママって呼びづらくなるかなと思って。
呼び納め的な?」
「今までそんな呼び方してなかろう!」
「だそうですけど」
「もう。ママったら。照れちゃって」
「セレネ、いい加減になさい。
今はグリアさんを応援する場面であって、からかう場面ではないわ」
「は~い。カノンママ」
「セレネ」
「わかってるから。
そんな怖い顔しないでよ、ノアママ」
「「「セレネ!!」」」




