33-6.我儘
「ソフィアは国取り後にやりたい事はあるのかしら?」
一通りの自己紹介を聞いた後、セレネがソフィアに質問を投げかけた。
「強いて言うならば、支配そのものに興味がございます」
なんか物騒な事言い出した。
「人の世の移ろいを間近で観察したいのです」
アリの観察みたいなニュアンスに聞こえる。
本当にソフィアで大丈夫なのかしら。
考え直すべき?
『もしかして、私に聞いてるの?
この娘も私との関係は薄いわよ』
イロハの側近の子達は、どうしてイロハから引き剥がしていたのかしら。
イロハを独占したかったのかな。
『違うわよ。
単に生き方は自分で選ばせたかっただけよ。
私の側にいれば離れられなくなるとわかっていたから』
なるほど。
私と似たようなパターンか。
私も、最初の頃はルチアやアウラ、それからスミレにも近づけさせてもらえなかったし。
確かに、フィリアスはそういうところがある。
なにせ、ハルちゃんを元にしているのだもの。
誰かに懐くと、簡単に執着してしまうのだろう。
宿主に愛情を注いでくれるのも、そういう性質が影響しているはずだ。
だからイロハの側近達は、新しく誕生した娘はある程度人生経験を積むまで、外の世界に放り出していたのかも。
というか、私がどんどんお嫁さんを増やしているように、イロハも娘を産み出し続けてたのよね。
そうして、遂には三千人以上の大所帯になってるのよね。
イロハも側近の子達の尻に敷かれていたのかしら。
また新しい子を産み出して!って怒られていたのかしら。
私がまた嫁を増やしたと怒られるみたいに。
『一緒にしないで』
イロハ……あなた……。
……どうにかならないのかしら。
『ハルがやる』
『かならず』
『とりもどす』
『イロハのたいせつ』
『余計なお世話よ』
お願いね、ハルちゃん。
その為なら、ダンジョンコアとミーシャをどう扱っても良いわ。
必要なら、深層にも潜りましょう。
『いえっさ』
『止めなさいってば。
あの子達だってもう十分に生きたのよ。
今更掘り起こそうとなんてしないで』
『命令よ、イロハ。
ハルちゃんと協力して取り戻しなさい。
あなたの大切なものの全てを』
『……なんなのよ今更』
『ごめんね。本当に今更よね。
今まではそっとしておくつもりだったの。
だけど、ハルちゃんを通じてイロハの本心が伝わってきたから』
『勝手に覗いてんじゃないわよ』
『それは言いっこ無しでしょ。
イロハだって私の心を覗いてるんだし』
『アルカが勝手に開けっぴろげにしてるだけじゃない』
『ならイロハの全ては私のものよ。
イロハの心をどうしようが、私の勝手でしょ』
『いい加減な事ばっかり言ってんじゃないわよ……』
『もう目を逸らしていてはダメよ。
受け入れて、その上で抗いなさい。
欲しいものがあるのなら、何をしてでも手を伸ばし続けなさい。
私達が必ず力になるわ』
『あんたらが思いつきで出来る程度の事が、私に出来ないわけ無いじゃない。
私が無理だと言っているのだから、あんたらこそ受け入れなさいよ』
『だから思いつきではなく、時間をかけて研究しなさいと言っているの。
ハルちゃんとミーシャを貸してあげるから、三人で徹底的に調べ尽くしなさい。
ハルちゃんなら私の深層だって自分で利用できるわ。
時間ならいくらでもあるでしょ。
もちろん、私も付き合うから』
『……勝手にしなさい』
『そうね。
イロハが力を貸してくれなくても勝手にやるわ。
イロハのコアの主は、既にハルちゃんに移ってるもの。
あれさえあれば、研究は出来るはずよ』
『まかせろ』
『ただ、私達だけでやればそれだけ時間もかかるでしょう。
深層の利用時間も伸びるだろうし、それで悪影響もあるかもだけど。
まあ、仕方ないわよね』
『脅迫すんのは止めなさいよ!
あんたほんと性格悪いわね!』
『今更何言ってるのよ。
私はいつもこうじゃない』
『わるまじょ』
『ああもう!わかったわよ!
やればいいんでしょ!
命令なら聞いてやるわよ!』
『ありがとう、イロハ。
私達の我儘に付き合ってくれて』
『うるさい!もう話は終わりよ!
ソフィアの方に集中しなさい!』
『うん。
ハルちゃん。
こっちはいいから、イロハの事お願いね』
『らじゃ』
『いらないわよ!何処も行かないわよ!
研究とやらは後にしなさいよ!』
もう。素直じゃないんだから。
「イロハ虐めは終わったかしら?」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、セレネ。
というか、何で知ってるの?」
「アウラが教えてくれたわ。
アルカがソフィアの話に集中してなかったから確認したのよ」
「ごめんなさい。ソフィア」
「いえ。構いません。
イロハ様の為なのですよね」
「ソフィアもイロハの事、知ってるの?
生まれてすぐに引き離されていたんじゃなかったの?」
「我らの中でイロハ様を知らぬ者はおりません。
例えお姿を拝見する事が無くとも、常に偉大なお力を感じ取っておりました」
「もしかして、ソフィアもイロハ大好き枠なのかしら」
「はい。その枠組でよろしいかと」
あれ?言葉に出てた?
頭の中で考えてたつもりだったのに。
『思いっきり喋ってたわよ』
『だだもれ』
直前まで脳内会話してたから、ちょっとミスったわ。
まあ、大したことじゃなかったから良かったけども。
それにしても、イロハってやっぱり人気者なのね。
私とどっちの方が上なのか調べてみようかしら。
『むぼう』
やっぱり?
イロハは皆のお母さんだものね。
育児放棄してたとはいえ。
せめてクルルとの時間は私達が作ってあげましょう。
夜は二人きりにしてあげるとかね。
『めいあん』
『こいつら……。
はぁ……』




