33-3.作戦会議
「それで、先ずはあの箱型魔道具に収められていたという、魔道具の話なんだけど」
「提案です、アルカ様」
「どうぞ、ミーシャ」
「かつてアルカ様が使った、物品を媒介に座標を特定する魔術はどうですか?
例の箱型魔道具が必要とは言え、眼の前にさえあればいいんですよね?
ムスペル城の宝物庫で見せてもらうなり、忍び込むなりすれば、他の同型魔道具も見つけられるはずです。
その手法で、全ての魔道具を回収しきれば、あの国への脅威もなくなります。
そうなれば、政略結婚を受け入れる理由も無くなるのではないでしょうか」
「お~~。
ミーシャ頭良いわね。
撫でてあげるわ」
私が膝に座るミーシャの頭を撫でると、上機嫌で抱きついてきた。
『むう』
私の心がイラッとしてる。
ダメよ、ハルちゃん。
もう少しだけ歩み寄ってあげようって決めたばかりじゃない。
『むむ』
良い子ね、ハルちゃん。
後でハルちゃんも撫でてあげるからね。
『ふへ』
『なんか喋りなさいよ』
大丈夫よ、イロハ。全部伝わってるから。
「とはいえ、状況的にあの箱型魔道具を見せてくれと頼むのは難しいと思うの。
今はベアトリスちゃんの件で、返事を待ってもらってる状況だから。
かと言って、侵入も出来ればしたくないわ。
万が一察知されでもしたら、折角の信頼を失いかねない。
それで、シーちゃんはどう思う?
世界の外から、この世界に空けられた空間の穴の座標を特定出来たりはしない?」
あの箱型魔道具は、箱の内部を世界の外の空間と繋ぐ仕組みだ。
つまり、箱を閉じる度に世界の壁に穴を開けているはずなのだ。
現時点で穴の空いている場所を探せば、箱の中に繋がる筈だ。
「申し訳ございません、マスター。
発見自体は可能ですが、特定は難しいかと」
「謝らなくていいわ。
シーちゃんが悪いわけじゃないもの。
それで、それはどういう意味?
特定が出来ない理由を教えてくれる?」
「箱が複数存在している為です。
重なり合った座標を解析しなければなりません」
なる、ほど?
私が理解できていないのを察して、更に詳細な説明を続けてくれた。
「外空間に観測機を放つ事で、世界の壁に存在する亀裂を見つけ出す事は可能です」
シーちゃんの背後に出現したスクリーン上に、三角形が表示された。
「ですが、その亀裂は、いくつもの亀裂が重なり合ったものなのです」
三角形に丸、四角、星型、ひし形と様々な図形が重ねて描かれていく。
「正しい座標を特定するには、一つ一つの亀裂を分けて調べる必要があります」
いくつもの座標が重なって、ぐちゃぐちゃな黒い塊だったものから、一つ一つの図形が別れていき、並べて表示された。
「なるほど。
その図形みたいにわかりやすい形じゃないから、分別できないのね」
「はい。
実際には、二次元図形のようなものではなく、数字の羅列に近い状態ですが」
今度はいくつもの数字が表示された。
次にその数字の合計値が、脇に表示された。
その合計値から、足されていったものを取り出さなきゃいけないのね。
足された数字もわからないし、それがいくつあるかもわからない。
そんな状態で、元の数字を見つけ出す事など不可能という事だ。
「わかったわ。
ありがとう、シーちゃん。
ならその方法は無しね」
「念の為、観測機は既に放っておきました。
ムスペル以外の箱が開けば、場所を特定できるでしょう。
不可視モードですので、見つけ出される心配はありません。
それでも万が一ムスペルの者が察知した場合は、すぐに帰還させます」
「うん。ありがとう、シーちゃん。
バッチリよ」
「はい。マスター」
シーちゃんが私の隣に歩いてきた。
私はシーちゃんの頭に手を伸ばす。
ナデナデ。
暫くして満足したシーちゃんは、自分の席へと戻っていった。
「ノルンはどう思う?」
「調査方針はミーシャの案で良いんじゃないかしら。
それで、少し話を逸らしてしまって申し訳ないのだけど、例の政略結婚を受け入れるのが手っ取り早いのではなくて?
そうすれば、箱型魔道具とやらも安全に手に入れられるのでしょう?」
「良いの?」
「ええ。ムスペルとの関係を継続したいのであれば、悪い話では無いと思うわ」
「えっと、そうじゃなくて」
「ふふ。わたしはこはるを独占するつもりは無いわ。
わたしのこはるなら、何人だって抱え込めるもの」
私はミーシャを隣の席に座らせて、ノルンを抱き寄せ魔法で膝の上に抱え込む。
そのままノルンの頬にキスをして、抱きしめる。
「ノルンだけよ~何時でも私を甘やかしてくれるのは~」
「マスター、聞き捨てなりません」
「そうですよ!私もですよ!」
「アルカ様、この場に集まったのはアルカ様に甘、寛容なメンバーかと。
もちろん、この私も含めてです」
そうね。ミヤコの言う通りだわ。
これは失言だったわね。
『ハルも』
ハルちゃんはしょっちゅう機嫌損ねてない?
さっきもミーシャに対して苛立ってたし。
『うまれかわった』
いやだから、さっきミーシャに。
『ゆるす』
あ、はい。そすか。
『何時までも漫才してんじゃないわよ。
さっさと話進めなさいよ』
イロハはなぁ~。
厳しいこと言うけど、全部私の為だもんなぁ~。
『それならノア達も一緒じゃない。
誰も彼も、アルカに甘すぎるわ』
期待の新人セフィ姉は、どこまでストッパーになってくれるかしら。
『人ごとみたいに言ってんじゃないわよ!
人任せにしないで自制しなさいよ!』
はい。ごめんなさい。




