32-56.飲み会
「お主、今度は何をしでかしたのじゃ」
「いや~、あはは~」
お嫁さんズからお叱りを受けた後、ようやく飲み会を始める為にルネルと合流した。
私の隣にはセフィ姉が張り付いている。ふくれっ面で。
「まあよい。それも今さらじゃ。
毎度毎度、叱る気にもならんわ」
多分、ハルちゃんとの融合の事も気付かれてるよね……。
「取り敢えず場所を移動するから付いてきて」
私はルネルを回収して、一旦自室に転移する。
そのままいつも通り、自分の肉体を置いて私世界のバーに移動した。
「なんじゃこの部屋は。
けったいじゃのう」
シーちゃん謹製のハイテク仕様なバーに、おばあちゃんは興味津々だ。
そもそも、あまりこういう場所自体に縁が無いのかもしれない。
「ルネル、どっちがいい?
ここに横に並んで座るのと、向こうのソファと」
カウンター席を体験させてみようかと思ったけど、今日は多分セフィ姉の事で話をしたいんだろうし、対面で座れた方が都合が良いかもしれない。
「こっちじゃ」
予想に反してカウンター席に座ったルネル。
ルネルは見た目エルフの幼女だから、現代風のバーで足をプラプラさせてるのは違和感しかない。
可愛いけど。
私はルネルの隣に座り、セフィ姉がルネルと反対側の私の隣に腰を降ろした。
腕にしがみついたまま、ふくれっ面で。
「先ずはそやつをなんとかせい」
「いえっさ~」
とはいえどうしたものかしら。
セフィ姉ったら、言葉も交わしてくれないのよね。
すっかりへそを曲げてしまったらしい。
「ほら、セフィ姉。
ルネルもこう言ってるよ?
そろそろ、機嫌治してよ」
「……」
ほっぺつつきたい。
私はセフィ姉の頬に手を伸ばした。
セフィ姉は顔を横にブンブン振って、私の手を払い除けた。
ぐぬぬ。
仕方ない。
先ずはお酒でも入れてみよう。
「シーちゃん、カシオレお願い」
「はい、マスター」
マスターはシーちゃんよ。今だけ。
というか、カシオレあるんだ。
カシスもオレンジもどうやって用意したのかしら。
「それじゃあ、えっと?
何の会かはわかってないけど、取り敢えずかんぱ~い!」
ルネルは私を無視してグラスに口を付けた。
さみしい……。
「なんじゃこれ。
やたらと濃いが、ただの果実水じゃろうが。
酒はどうしたんじゃ?」
それも一応アルコール入ってるよ?
まったくおばあちゃんったら。
我儘なんだから。
「シーちゃん、なにか強いお酒ってある?」
「スピリタスではいかがでしょう?」
「よくわかんないけど、それでお願い」
「はい」
今度はおちょこみたいな小さなグラスが出てきた。
ルネルはそれを受け取ると、躊躇なく一息で飲み込んだ。
「うまい!!
もっとじゃ!」
本当に?
「シーちゃん、私達にもくれる?」
「はい、マスター。
酒精が強いのでお気をつけ下さい」
そう言って私達の分も差し出してくれるシーちゃん。
既に準備してくれていたようだ。さすシー。
私は舐めるようにして、少しだけ口に含んだ。
「うっ……」
「無理せずお残し下さい。マスター」
「うん、ごめん。
ちょっときつすぎたかも。
炭酸かなんかで割ってくれる?」
「はい」
「セフィ姉は……ってセフィ姉も一口で飲んじゃったの?」
空になったグラスを持ち上げ、おかわりを要求するセフィ姉。
どうやらセフィ姉も気に入ったらしい。
この世界のエルフって本当にお酒が好きね。
二人とも、カシオレの方も空になってるし。
「セフィ姉、いい加減喋りなさい。
私はともかく、シーちゃんにまでそんな態度は許さないよ」
「……ごめん。
シーちゃん、おかわり頂戴」
「はい。どうぞ」
「ありがと」
シーちゃんからおかわりを受け取るセフィ姉。
今度は味わうようにチビチビ飲み始めた。
「セフィ姉、程々にね。
今日はルネルに誘われたんだから」
「うん。大丈夫」
少しだけテンションは低いけど、私にも答えてくれた。
よかった。一先ずコミュニケーションは取れそうだ。
「セフィ、やはり考え直さぬか?
こやつの側にいては、何れレヴェリーも毒牙にかかるのじゃぞ?」
「……むりそう」
「そうか……」
えっと?
「アルカ」
「はい」
ルネルの改まった口調に、思わず姿勢を正しながら返事をする。
「そう硬くなるでない。
今日は説教なんぞするつもりは無いのじゃ」
「うん。わかった」
「セフィの事はくれぐれも頼んだぞ」
「うん」
「あまり悲しませんようにな」
「うん。頑張る」
「ならよい」
それきり言葉を止めてお酒を呷り続けるルネル。
どうやら本当に話は終わりのようだ。
セフィ姉の過去を聞かせてくれるとかそういう事も無いらしい。
けど、ルネルが言いたいことはちゃんと伝わってきた。
きっとセフィ姉は、ルネルにとって特別な娘なのだろう。
わざわざこうして念を押す程に。
タイミングを誤ったわね。
せめてムスペルの件での報告は、明日に回せばよかった。
いや、この場だけ誤魔化したって意味がないのだけど。
「そう難しく考えるでない」
「え?」
「どうせ後悔なんぞしとるんじゃろ。
じゃが、セフィがそんな態度をとっとるのも、それはそれで嬉しいものなんじゃ。
お主はよくやっとるよ。
褒められたもんではないじゃろうがな」
「……そっか。
よくわかんないけど、わかった」
「まったく。
仕方のないやつじゃ。
ほれ、何時までもしんみりしとらんで盛り上げんか。
お主、得意な一発芸でもないのか?」
「無茶言わないで。そういうの苦手なのよ。
大体ルネルじゃ、どんな種だって見抜いちゃうじゃない」
「マスター、僭越ですが私が代役を務めてみせましょう」
「シーちゃんが?
なにか練習してくれたの?」
「はい。この機会を待ち望んでおりました」
「じゃあ、お願い。
ルネルを目一杯饗してあげて」
「かしこまりました」
シーちゃんは何処からともなくトランプを取り出した。
どうやらマジックショーでも始まるようだ。
「それでは皆様、ご注目下さい」
シーちゃんの披露したマジックショーの数々は、ルネルとセフィ姉にも大好評だった。
お陰でセフィ姉の機嫌も直ったし万々歳だ。
さっすが、シーちゃんね。




