32-55.報告
「はぁ~~~~」
帰宅した私は、ノアちゃんの前で正座した。自主的に。
一通りの報告を受けたノアちゃんは、大きなため息を吐き出した。
「それで買い取ろうとしたら、逆に押し売りされてしまったと」
「はい……」
箱が欲しけりゃくれてやる。この娘とセットでならな!
てな感じの話になってしまった。
誠に面目次第もございません。
あんなに偉そうに講釈タレて乗り込んだくせに、この体たらくだもの……。
結婚については、取り敢えず答えを保留にしてもらった。
というか、最後は半ば逃げ出したようなものだった。
あのままだと、行き着くとこまで流されそうだったんだもん。
食事が終わってからも、離してくれそうに無かったし……。
それにしてもあの王様、手強かった。
くそぅ。私の話術もまだまだかぁ。
『誰もそこは期待してないわよ』
『あいてはおうさま』
『そのどひょうなら』
『ひゃくせんれんま』
『かてるわけない』
ぐふっ……。
「その王女様はどのような方だったのですか?」
「え?
えっと、カノンよりは少し年上かな。
多分、一つか二つくらいは上じゃないかしら。
見た目は落ち着いた感じの美少女ってとこかしら。
あとは、政略結婚の事も受け入れてるみたいで、普通に楽しそうに話しかけてきたわ」
「もう興味津々じゃないですか!」
「いや!ちがくて!」
「何も違わないでしょ!?」
「でも!
別にまだお嫁さんに貰うつもりは無いんだってば!」
「まったく。セフィさんも呼んでくるべきでした」
「やめて、お願い。
セフィ姉って、怒ると意外と怖いのよ!」
「知りませんよ。
セフィさんを怒らせる事が出来るのなんて、アルカくらいしかいないんですから」
うんまあ。セフィ姉は大抵のことは気にしないからね。
「それにしても妙ですね。
成人済みの王族という立場で、今まで婚約者の一人もいなかったのでしょうか」
突然話題を切り替えるノアちゃん。
言われてみるとたしかに。
この世界は十五歳が成人だから、既に結婚していてもおかしくはない。
まさか長男のせいだろうか。
長男があれなせいで、万が一の為に残してたとか?
とはいえ、第三王女ではその可能性も低いか。
他の兄弟姉妹が既に子を成していてもおかしくない年齢だし。
「今度会ったら確認してみるね」
「結局会いに行くつもりなのですね」
「あ、いや、ほら。
王様に考えてみてくれと言われた手前、ねえ」
「ねえ、じゃありませんよ。まったく」
「なら次は、ノアちゃんも一緒に行きましょう。
私のお嫁さん代表として、色々確認してみてほしいの」
「何をです?
どう言えば穏便に断れるかですか?」
「……」
「はぁ~~~~」
「ごめんて」
「それで済まさないで下さい。
この調子で、世界中の国から娶るつもりですか?」
「いや、流石にそれは……」
「果ては世界征服でもするつもりなのですか?」
「案外、そっちの方が手っ取り早いのかしら」
「止めて下さい」
「冗談だってば」
むしろこの世界はニクスのものみたいなもんなんだし、実質既に私のものでは?
『つまり』
『ハルのもの』
……やっぱ無しで。
『ハルが自分のもの認定したなら、遠慮なく使い潰すでしょうね』
だから無しなんだってば!
『だいじょうぶ』
『アルカのもの』
『たいせつにする』
もうこの話お終い!
「とにかく、ベアトリスちゃんの事をお断りするなら、他の案も考えなきゃいけないわ」
「先にマリアさん達から話を聞いてみてはいかがですか?
断るにせよ、受け入れるにせよ、相手を知る事は有効です」
「そうね。クレアを連れてけば王子も釣れるでしょうし。
王子がいなくとも、マルセルさんも頼りになるはずよ」
「私も同行します」
「うん。お願いね、ノアちゃん」
「それはそれとして、セレネ、カノン、セフィさんのところにも報告に行きましょう。
決定ではなくとも、事前の根回しは重要です。
事が事ですから」
「はい……」
ルネルとの飲み会は遅くなりそうだ……。




