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32-50.話し合い

 私はノアちゃんとイロハを連れて、再び深層に戻ってきた。



「本当に長い間ここで過ごしていたのですね」


 深層屋敷内の状況を見て、ノアちゃんは真っ先に痕跡を発見したようだ。


 ついさっきまで私とハルちゃんがここで何日も暮らしていたので、私とハルちゃんの痕跡が色濃く残っていたのだろう。



「ごめんなさい」


「いえ。その件はもういいです。

 それより今は、融合の件を話し合いましょう」


「うん」


「とにかく、先ずはそれを解きなさい。

 続けたいのなら、先にノアを安心させてからよ」


「わかった」

「イロハ」


 私の心から、ハルちゃんが分離した。

その瞬間、強い虚脱感に襲われる。


 確かにこの技術は扱いを間違えれば危険なものだ。

そんな事は私達がよく知っている。

けれどそれを表に出すわけにはいかない。

私だってもうハルちゃんと別れていたくない。


 分離した私達を見て、明らかにホッとした様子のノアちゃん。

イロハはまだ不機嫌そうだ。


 たぶん、おかしなところが無いかと用心深く観察しているのだろう。

イロハを納得させるのは難しいかもしれない。



「少し安心しました。

 思っていたより、冷静だったようですね。

 本当に分離手段も用意していたとは」


「うん。

 約束を違えるつもりはなかったもの。

 私達が変質してしまうようなら、すぐに解けないといけなかったからね」


「今はまだ違うとでも言いたげね。

 あんたら、十分変わってるわ。

 私の目は誤魔化せないわよ」


「かわってる?」

「どこが?」


「離れ難くて堪らないのでしょう?

 今すぐにもう一度融合したいのでしょう?

 必死にやせ我慢しているだけなのしょう?」


「そう」

「さすがイロハ」


 あっさり認めるハルちゃん。

ハルちゃんは誤魔化す気が無いようだ。


 なら大丈夫。

私達の意見は別れてる。

私とハルちゃんが別の人格を保っている事の証左だ。



「アルカ、正直に答えてください。

 本当にアルカはそれで良いのですか?

 ハルと融合して、自己の境目が無くなって、二人で一人ではなく、ただの一人になってしまう事が望みなのですか?

 それは、アルカもハルも失われるという事なのではないのですか?」


「違うよ、ノアちゃん。

 私達は二人で一人のままだよ。

 ノアちゃんとセレネはよくわかってるんじゃないの?

 私とフィリアス達とは違って、心を共有していたはずでしょう?」


「いえ。

 おそらくアルカとハル程直接的なものではありません。

 あくまでも、感情の一端が伝わってくる程度のものです。

 ですが私とセレネですら互いに影響し合っていたのです。

 それはアルカもよく知っていますよね?

 私達が強引にアルカに迫ったのも、元はと言えばそれがキッカケだったのですから」


「だからって、完全に溶け合って一つになるって事はなかったでしょ?

 私達も同じよ。

 心が一つになっても、人格まで混ざり合う事はないの」


「ですから、それは深さの問題ですよね?

 私とセレネの心がどれだけ近くとも、混じり合うことはありませんでした。

 アルカ達はその大前提が違うじゃないですか。

 最初から混じり合っていれば、影響も相応に大きくなるはずなのです」


「人は元々影響し合うものよ。

 混じり合っていなくとも、隣り合っていなくとも。

 社会を通して、功績や歴史を通して、思想に影響を与え合うものなの。

 そうやって成長していくものなのよ。

 だから、お互いに影響し合うなんて、融合していなくても出来ることでしょう?

 それもまた、人間らしい事でしょう?」


「話をすり替えないで下さい。

 アルカの言っている事は見当外れです。

 社会的に影響されても、それを受け入れ、選び取るのは個人の意思によるものです。

 融合にはそのプロセスがありません。

 ハルがアルカの想いに影響されて私に強い好意を抱いたように、アルカもまた、ハルの影響を受けるはずです。

 それはアルカの選択に関わらずです。

 それではもう、アルカとは呼べないのです。

 個人とは、意思とは、何を選択するかによって証明されるものだと思うのです」


「じゃあノアちゃんは私が変わったら嫌いになっちゃうの?

 私はこれまでだって沢山変わってきたの。

 ニクスに呼び出されて、この世界に来た時。

 お姉ちゃんに記憶を消されて、世界を旅した時。

 ノアちゃんとの生活を始めた時。

 ノアちゃん達に告白された時。

 皆が家族になった時。

 その時々で、私の意思や選択は違うものだったはずだよ。

 それだけ大きな影響を受けてきたのだもの。

 選択の余地なく流されて来た事だって少なくない。

 ノアちゃんが好きな私って、どの私なの?

 もう今の私は、ノアちゃんの好きな私とは違ってしまっているの?」


「そうではありません。

 私が好きなアルカは、今眼の前にいるアルカです。

 アルカが変わっていくのなら、私も変わっていくのです。

 それが正しい意味での、影響し合うという事なのです。

 私は歩幅を合わせてほしいのです。

 先に一人で前に出すぎないでくれと頼んでいるのです。

 ハルとの融合は、私とアルカの距離が離れすぎる原因になるのではないかと怖いのです」


「そうはならないよ。絶対。

 私はどんなに変わってもノアちゃんの事を愛しているし、ノアちゃんも私を愛してくれているもの。

 少しくらい距離があったって関係ない。

 お互いに手を伸ばし続ければいい。

 握った手を離さなければいいの。

 例えノアちゃんがついてこれなくとも、私が必ず手を引き続けるから」


「それでは引きずられてしまうのでは?

 摩耗して、擦り切れてしまうのではないのですか?」


「ノアちゃんなら大丈夫。

 ノアちゃんは私の為に頑張れる子だもの。

 必ず立ち上がって、自分の足で距離を詰めてくれるわ」


「買いかぶりすぎです」


「ノア」


「なんですか、ハル」


「ノアすき」

「えいきょうだけ」

「ちがう」


「ハル」

「もともと」

「ノアすき」

「あいしてる」


「だからこそ」

「えいきょうつよい」


「そうじょう」

「こうか」


「ただそれだけ」


「じんかくほご」

「かんぺき」


「まざったら」

「いみない」


「ハルも」

「アルカほしい」


「ハルになった」

「アルカじゃなく」


「ほんらいの」

「アルカ」


「だから」

「まちがえない」


「アルカはアルカ」

「ハルはハル」


「アルカはハル」

「ハルはアルカ」


「それはそれ」

「これはこれ」


「いいとこどり」


「そのために」

「がんばった」


「いっぱい」

「けんきゅうした」


「なんにちも」

「なんねんも」


「どりょくのせいか」

「みとめられない?」


「……その言い方はズルいです」


「ハルのへんか」

「ゆうごうの」

「えいきょうだけ」

「ちがう」


「じかんもたった」


「さいしょのころ」

「きげんわるかった」


「ハル」

「ふあんてい」

「だった」


「だから」

「ノア」

「ちがってみえる」


「でも」

「ハルも」

「かわらない」


「もっとみて」


「ハル」

「ノアすき」

「しってほしい」


「ずっとまえから」

「そうだって」


「アルカのそば」

「はなれて」

「ノアのこと」

「まもろうとした」


「あれは」

「ハルの」

「せんたく」


「しんじ」

「られない?」


「それは……勿論信じています。

 ハルがアルカの側を離れてまで、私の下にいてくれたのだとわかっています。

 それでどれだけ機嫌を損ねていても、私には見えないようにしてくれていたのもわかっています。

 その分の不満がアルカにぶつけられて、融合という手段に行き着いたこともわかっています。

 ええ。そうですね。

 全ては私の我儘が原因なのですよね。

 ハルをアルカから引き剥がしてしまったせいなのですよね……」


「ちがう」

「ノアのせいちがう」

「ハルがすきで」

「やったこと」


「しんじて」

「おねがい」


「はい。ハルの好意は信じています。

 私もハルが大好きです」


「うれし」


「だからノア」

「じぶんのせい」

「おもわないで」


「ぜんぶ」

「ハルがえらんだ」


「ハルのいし」

「みとめて」

「ほしい」


「わかりました。

 もう疑いません。

 ですが」


「ゆうごうはべつ?」


「はい。

 そちらはこれから選ぶべきものです。

 今度はしっかり話し合いましょう。

 ハルも私も、一方的に我慢するのではなく、心から納得できるようになるまで」


「わかった」


「だっせん」

「おわり」


「はなし」

「もどす」


「そうですね。ハル」

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