32-49.???日後
「アルカ、アルカ。
起きて下さい、アルカ」
「……ノアちゃん?」
「そうですよ。一体どうしたのですか?
深層に行ったのではなかったのですか?
ハルもアルカもいきなり寝てしまったんですよ?」
「え、あれ?
ああ。そっか。寝てる間にハルちゃんが。
ハルちゃんは?」
「まだ寝ぼけているのですか?
アルカのお腹の上で寝てるじゃないですか……って、どういう事です?
アルカもハルも寝てる状態で、どうやって戻ってきたんですか?」
「あ、ううん。ごめん。なんでもない。
ちょっと寝ぼけてたみたい」
「本当に大丈夫ですか?
何だか様子がおかしいですよ?
いったいどれだけ潜っていたんですか?」
「えっと。ごめんなさい。
約束やぶちゃった」
「どういうことです?
深層に潜ったことですか?
満足するまで付き合うようにと頼んだのは私ですよ?」
「ああ。うん。そうだったよね」
「アルカ?
どうしたのですか?
調子にのって長居しすぎたのですか?
私との会話も忘れてしまう程?」
「えっと。そんなところかな」
「まったく。
今回ばかりは厳しく言いませんが、気をつけて下さい。
生活に支障をきたすほど潜ってはいけませんよ」
「うん。もう大丈夫。
少し寝ぼけてたみたい。
ごめんね、ノアちゃん。
心配かけちゃって」
「いえ。それなら良いのですが。
今から夕食です。
ニクス世界に帰りましょう」
「うん。そうだね。
行こうか。ノアちゃん」
「待ちなさい!」
私が起き上がった所で、イロハが鋭い声を上げた。
「あなた……どっち?」
「何を言ってるんです、イロハ?」
イロハはノアちゃんの問を無視して言葉を続けた。
「アルカ、ハル、あなたはどちらなの?」
「え?」
「流石イロハね。まさか一発で見破られるなんて」
「どういう事です?」
「えっと、説明するのは難しいんだけどね。
私、ハルちゃんと融合したの。
安心して。融合とは言っても私はアルカよ。
それにハルちゃんも、ほら。ここに」
私が抱き起こしたハルちゃんの体も目を覚ました。
「はやすぎ」
「もっとないしょ」
「だったのに」
「いったい何をしたのですか?」
「今までの同化よりずっと深くで結びついたの。
このハルちゃんは、私の分体と同じ要領よ。
私の魂を分け与えられてるの。
ナノマシンではなく魔力で作られてるって違いはあるけど」
「ばっかじゃないの!?
あんた達何考えてんのよ!?
そんな事して元の人格が消えたらどうすんのよ!?」
「大丈夫よ、イロハ。
沢山時間はあったから。
この技術を実現するために、二人で徹底的に研究したわ」
「いったい、どれだけ潜っていたんです?
それが先程の謝罪の理由ですか?」
「うん。ごめん。
何日か、もしかしたら何年かもわからないくらいには潜ってた」
「……」
ノアちゃんは絶句してしまった。
「ノア」
「ごめんなさい」
「ハル」
「いっぱい」
「わがままいった」
「アルカ」
「たくさん」
「こまらせた」
「ほんとは」
「せんねんもぐる」
「かくごだった」
「これは」
「そのかわり」
「ハル」
「アルカのいちばん」
「なりたかった」
「どうしても」
「……本当に今の状態が望んでいた関係なのですか?」
「うん」
「しあわせ」
「また足りなくなるのではないですか?
際限なく、先を求めてしまうのではないのですか?
そこまでしなくたって、今までだって十分に幸せだったのではなかったのですか?」
「これいじょう」
「ない」
「ハルはアルカ」
「アルカはハル」
「いきついた」
「アルカはどうなのです?
人間であるという約束を違えた自覚は無いのですか?」
「今までと変わらないよ。
私はまだ人間のままだよ。
ただ、ハルちゃんの本体が常に私と同化してるだけよ。
私は私。アルカとしての私は何も変わってないのよ。
それにハルちゃんだって、これからもノアちゃんの側にもいられるの」
「言ってる意味がわかりません……」
「ハルちゃんが私やシーちゃんの使う、分化の術を使えるようになったと思ってくれればいいのよ。
私の中にもいるし、この体にもいるの」
「巫山戯た屁理屈ね。
それが目的なら、最初からその方法だけを模索すればよかったのよ。
あんたらの目的は逆じゃない。
融合が目的で、分化は誤魔化すための手段でしょ?
それをよくもまあ、堂々とすり替えられたものね。
そんな言い訳して、罪悪感を感じないのかしら」
「イロハも」
「ゆうごう」
「しよう」
「それで」
「わかる」
「いい加減にしなさい!
あんたはアルカの一番になりたかったんでしょ!
研究に時間かけすぎてそんな事も忘れたの!?」
「わすれてない」
「イロハまだ」
「アルカひつよう」
「ぜんぶ」
「おぼえてる」
「あんたらが心配すべきは私じゃないわ!
ノアの気持ちをもっと考えろと言ってるのよ!!」
「ノア」
「はなそう」
「ちゃんと」
「わかりあう」
「まで」
「どうしても」
「みとめられない」
「なら」
「ゆうごう」
「とく」
「から」
「えっと、解けるのですか?
いつでも?」
「うん」
「ぬかりない」
「けんきゅうずみ」
「それを先に言いなさいよ!!」
「ごめん」
「ハル、何か変ではないですか?
ハルはそんな性格でしたか?
やはりアルカの影響を受けているんじゃないですか?
前のハルはもっと強引だったはずですよ?」
「しかたない」
「アルカ」
「ノアすきすぎ」
「つたわってくる」
「だから」
「ハルも」
「ノアすき」
「まえより」
「ずっと」
「きらわれる」
「いや」
「やっぱ影響出てんじゃない。
今までは映像感覚で見ているだけだったものが、自分で体感するものに置き変わってるんでしょ。
融合なんて止めときなさいよ。
いずれ境目なんて無くなるわよ」
「……」
「もうすこし」
「アルカ、やはり少し話し合いましょう。
私とイロハも連れて、深層に戻って下さい」
「うん。わかった」




